<生活保護とクレジットカード> 【問】生活保護を受けている人は,クレジッドカードを利用できないのですか?
受けている 私は,生活保護を受けており,部屋のエアコンが古くなり故障したため,修理代の見積書を取りましたが,その修理代が高いので,エアコンを買い替えることにしました。
そこで,役所の担当者にエアコン購入費の支給について相談したところ,「保護受給中の場合は,エアコンの買い替え費用については,保護費のやり繰りで貯めたお金で購入する必要があり,また,社会福祉協議会からエアコン購入費を借りることができるが,申請して借りるまで1か月~2か月はかかる。」と言われました。
しかし,毎日暑く,エアコンがないと,夜も眠れない状態であり,熱中症にかかる恐れがありますので,すぐに購入したいと考え,保護受給前につくったクレジットカードを使って,エアコンを購入しようと思いました。
そこで,友人に相談したところ,「クレジットカードを利用してエアコンを購入することは,お金を借りて購入することと同じであり,借入金は収入認定の対象となる。」と言われました。
しかし,社会福祉協議会からエアコン購入費を借りる場合は,申請して借りるまで1か月~2か月もかかるため,暑くて,とてもそれまで待てません。
生活保護を受けてない人は,お金に余裕があると思いますが,生活保護を受けている人は,この数年,生活保護費を引き下げられており,とても貯金などできる状況にはありません。
保護費のやり繰りで貯めたお金でエアコンを購入することと,クレジットカードでエアコンを購入し,その後で保護費をやり繰りして,毎月返済することは,エアコンを先に買うか 後で買うかの違いだけであり,保護費のやり繰りで購入することは,両方とも同じだと思うのですが,本当にクレジットカードを利用して,エアコンを購入すると,収入認定され保護費を減らされるのでしょうか。
【答】
クレジットカードを利用して家電製品などを購入することが,収入認定の対象になるかどうかについては,次のとおり意見が2つに分かれていました。
<クレジットカードで購入することは収入認定の対象になるという意見>
インターネットで調べますと,クレジットカードで購入することは,お金と借りて購入することと同じであるから,収入認定の対象になるという意見があります。
また,平成20年2月4日の札幌地裁判決では,クレジットカードで購入することは,収入認定の対象になるとの判断を示しています(ただし,これは,クレジットカードを利用して,多額の物品を購入した事例です。)。
さらに,生活保護を受ける前にクレジットカードをつくっていても,収入が減少し,生活保護を受けるようになった場合は,当然,そのことをクレジットカード会社に連絡する義務があり,その結果,クレジットカードは使用できなくなりますので,生活保護を受けてるいる人にはクレジットカードの利用を認めるべきではないという意見もあります。
<クレジットカードで購入することは収入認定の対象にならないという意見>
一方で,クレジットカードで購入することは,収入認定の対象にならないという意見もあります。 それは,現金と物とでは,資産としての性質が異なるためです。
つまり,借金=「お金」は,今後の最低限度の生活に自由に利用できるので,当然,収入認定の対象となりますが, 「物」は,その物の使用収益という意味においてのみ,最低生活に利用できるという制限された価値にすぎません。
例えば10万円のテレビを購入したとすると,物としての使用収益が可能であるだけで,そのテレビが10万円の現金と等価であると考えることには無理があります。 テレビを換金すれば,収入認定の対象になりますが,単に使用収益を予定するだけに止まるのであるならば,使用収益は,あくまでも今後の使用によって生まれてくる価値であり,潜在的な価値に過ぎません。 この潜在的な価値は,価値が顕在化されて初めて,収入認定されるべきものです。
また,厚生労働省(当時は厚生省)は,昭和39年6月の「生活と福祉」において,月賦等による自転車の購入を認めていますので,「月賦による購入」と「クレジットカードによる購入」は,実質的には同じものであり,月賦等による物品の購入が認められているならば,一般世帯と均衡を失しないような種類・価格の物品については,クレジットカードによる購入を認めてはならない理由はないと考えられます(ただし,「月賦による購入の場合」は,全額の支払いが終わった後に所有権が購入者に移るのに対して,「クレジットカードによる購入の場合」は,購入当初から所有権が購入者に移るという違いはあります。)。
さらに,「保護費のやり繰りで貯めたお金でエアコンを購入すること」と,「クレジットカードでエアコンを購入し,その後で保護費をやり繰りして,毎月返済すること」は,エアコンを先に買うか,後で買うかの違いだけであり,保護費のやり繰りで購入することは,両者とも同じであると思いますので,一般世帯と均衡を失しないような種類・価格の家電製品等をクレジットカードで購入することは,収入認定の対象にならないと思われます。
そうしないと,猛暑の中で,エアコン購入費を取金するまで購入を待て,社会福祉協議会から借りるまで1~2か月間 購入を待てということは,あまりにも酷なことです。
家電製品の故障・買い替えに備えて,毎月,保護費の中からやり繰りして取金しておくべきであるという意見があるかもしれませんが,この数年の間で,保護費はかなり引き下げられましたので,生活保護を受けている人は,生活に余裕がなくなっており,家電製品がいつ故障するのか,いつ買い替えが必要になるかは,予測できませんし,また,保護開始時には,1か月の最低生活費の5割しか現金と預貯金の保有を認められていませんので,保護受給期間が短い人は,家電製品等を購入する金銭的な余裕はないと思います。
<「別冊問答集」の改正>
このようにクレジットカードの利用については,2つの意見がありましたが,令和4年度の「別冊問答集」に問12-4〔クレジットカードや割賦払いの利用について〕が新たに追加され,クレジットカードを利用して家電製品などを購入することは,収入認定の対象にならないことが明確になりました。
ただし,毎月の支払い能力(月額5,000円~10,000円程度)以上に,クレジットカードで家電製品等を購入することは,生活保護法第60条(生活上の義務)の「被保護者は,常に,能力に応じて勤労に励み,自ら,健康の保持及び増進に努め,収入,支出その他生計の状況を適切に把握するとともに支出の節約を図り,その他生活の維持及び向上に努めなければならない。」という規定に違反する恐れがあり,安易にクレジットカードを利用することは,返済能力以上に家電製品や服などを購入する可能性がありますので,クレジットカードの利用には十分に注意する必要があります。
また,贅沢品や 一般世帯と均衡を失するような高価な家電製品などは,生活保護の趣旨・目的から認められていません。
さらに,プリペイドカードやデビットカードの利用については,収入認定の対象にはなりませんが,クレジットカードでキャッシングすることは,お金を借りることですので,収入認定の対象になります。
また,リボルビング払いは,利息も付きますし,利用状況が把握しにくく,支払困難に陥る可能性がありますので,利用すべきでないと思います。
(参考)
生活保護法
(生活上の義務)
第60条 被保護者は,常に,能力に応じて勤労に励み,自ら,健康の保持及び増進に努 め,収入,支出その他生計の状況を適切に把握するとともに支出の節約を図り,その他生活の維持及び向上に努めなければならない。
生活保護手帳・別冊問答集
〇問12-4〔クレジットカードや割賦払いの利用について〕(令和4年4月追加)
(問)
被保護者からクレジットカードや割賦払いの利用について相談があった場合,どのように助言すべきか。
(答)
クレジットカードや割賦払いの日常的な利用について逐次その状況を把握する必要はないが,被保護者に助言する必要が発生した場合には以下の点を踏まえていただきたい。
(1)日常的な買い物のクレジットカード一括払いや,携帯電話や生活に必要な家電等の割賦払いについては,社会通念上,生活費のやり繰りの範囲内であると考えられるため,下記(2)の事情がない限り,助言・指導を行う必要はない。
(2)(1)の利用範囲であっても,その利用が頻回または高額の利用にのぼることにより家計を圧迫しており,自立を阻害する場合は,家計改善支援事業の対象にする等,その利用方法について助言を行う必要がある。
(3)他方,保有が認められない物品を購入する等,生活保護の趣旨目的に反する目的のクレジットカード及び割賦払いの利用や,キャッシング等の借り入れは認められないため,過去にこうした負債を抱えている等の事情がある者に対しては,その結果として収入認定となることも含め,あらかじめ助言しておくことが望ましい。
〇自転車を生業扶助の対象とすることの是非
昭和39年6月「生活と福祉」(質問と答)
(問)
課長問答通知の問23の答では,「あらたに生業を開始する場合で,生業費支給の要件を満たす場合」には,自転車を生業扶助の対象とすることができるとされているが,「行商等をしている者で,収入増加をはかるために自転車を必要とする場合は,あらたに生業を開始する場合」ではないから支給対象とならないと解すべきか。
(答)
自転車がその者の職業上不可欠なものであれば,原則として自転車を月賦等で購入させ,購入費用の月割額を収入に伴う必要経費として控除する取扱いによるべきでしょう。
しかし,月賦で購入することが困難な場合であって,真にやむをえないと認められるときは,生業扶助の対象としてさしつかえありません。