生活保護の審査請求をしよう

生活保護の質問に答えます。役所の決定に疑問があったら、生活保護の審査請求をしましょう。

<生活保護と年金受給> 【問】年金を数年分さかのぼって受け取ったときは,その全額を返還しなければならないのですか?

 私は,生活保護を受けていて,数か月前に老齢年金の請求手続きを行ったところ,先日,3年前にさかのぼって老齢年金140万円を受け取りました。

 そこで,その一部で 古くなり故障しがちな冷蔵庫や洗濯機を買い替えたいと思って,役所の担当者に相談しましたが,役所の担当者から,140万円は全額を返還してもらう必要があり,冷蔵庫や洗濯機などの買換え費用を返還額から控除することはできないと言われました。

 私は 知人から,年金を遡って受け取った場合などは,家電製品などの購入費を自立更生費として返還額から控除してもらえる場合があると聞いたことがありますが,受け取った年金の全額を返還しなければならないのでしょうか。

 

【答】

 役所の担当者によっては,年金は 本来,受け取った全額を収入認定すべきものであるから,年金をさかのぼって受け取った場合についても,その受け取った年金額に相当する生活保護費の全額を返還する必要があり,自立更生費を認めることはできないという人がいますが,これは誤りです。

 年金を遡って受け取った場合は,生活保護法第63条に基づき,それまでに受け取った生活保護費の範囲内で返還する必要がありますが,この返還額の決定方法については,生活保護手帳・別冊問答集」問13-5に定められています。

 その中で,厚生労働省は,「災害等による補償金を受領した場合,年金を遡及して受給した場合等における法第63条に基づく返還額の決定に当たって,その一部又は全部の返還を免除することは考えられるか。」という質問に対して,原則として当該資力を限度として支給した保護金品の全額を返還額とすべきである。 しかしながら,保護金品の全額を返還額とすることが当該世帯の自立を著しく阻害すると認められるような場合については,次の範囲において,それぞれの額を本来の要返還額から控除して返還額を決定する取扱いとして差し支えない。」と答えています。

 

 したがって,原則は全額返還ですが,全額を返還額とすることが当該世帯の自立を著しく阻害すると認められるような場合については,一定の額を返還額から控除できるとされていますので,役所は,返還額の決定にあたっては,全額を返還額とすることが,その世帯の自立を著しく阻害するか否かについて十分に検討する必要があります。

 返還額の決定にあたって,役所があなたに自立更生費について十分に説明していなかった場合や,あなたが自立更生費を必要とするか否かについて調査していなかったり,検討をしていなかった場合,又は調査・検討が不十分であった場合は,役所の裁量権の逸脱 又は濫用により違法とされ,返還処分が取り消される判例(平成25年12月13日の大阪高裁判決,平成26年2月28日の福岡地裁判決など)や 都道府県知事裁決が多く見られます。

 

 そのため,法テラスを通じて生活保護制度に詳しい弁護士や,各地の生活保護支援ネットワークなどの生活困窮者支援団体に相談し,まず個人情報保護条例に基づき,ケース記録や 返還額決定の会議資料・会議録について,あなたの個人情報の開示請求を行い,返還額の決定にあたって,全額を返還額とすることが当該世帯の自立を著しく阻害するか否かについて検討していなかった場合や,十分に検討していなかった場合などは,都道府県知事に対して返還処分の取消しを求める審査請求を行うことを検討してみてはどうでしょうか。

 

 

(参考)

生活保護手帳・別冊問答集

〇問13-5 法第63条に基づく返還額の決定

(問)

 災害等による補償金を受領した場合,年金を遡及して受給した場合における法第63条に基づく返還額の決定に当たって,その一部又は全部の返還を免除することは考えられるか。

 

(答)

(1)法第63条は本来,資力はあるが,これが直ちに最低生活のために活用できない事情にある場合にとりあえず保護を行い,資力が換金されるなど最低生活に充当できるようになった段階で既に支給した保護金品との調整を図ろうとするものである。

 したがって,原則として当該資力を限度として支給した保護金品の全額を返還額とすべきである。

 

(2)しかしながら,保護金品の全額を返還額とすることが当該世帯の自立を著しく阻害すると認められるような場合については,次の範囲において それぞれの額を本来の要返還額から控除して返還額を決定する取扱いとして差し支えない

 なお,次第8の3の(5)に該当する必要経費については,当該収入から必要な最小限度の額を控除できるものである。

  ア 盗難等の不可抗力による消失した額。(事実が証明されるものに限る。)

  イ 家屋補修,生業等の一時的な経費であって,保護(変更)の申請があれば保護費の支給を行うと実施機関が判断する範囲のものにあてられた額。(保護基準額以内の額に限る。)

  ウ 当該収入が,次第8の3の(3)に該当するものにあっては,課第8の40の認定基準に基づき実施機関が認めた額。(事前に実施機関に相談があったものに限る。 ただし,事後に相談があったことについて真にやむを得ない事情が認められるものについては,挙証資料によって確認できるものに限り同様に取り扱って差し支えない。)

  エ 当該世帯の自立更生のためのやむを得ない用途にあてられたものであって,地域住民との均衡を考慮し,社会通念上容認される程度として実施機関が認めた額。

    なお,次のようなものは自立更生の範囲には含まれないものである。

   ① いわゆる浪費した額

   ② 贈与等により当該世帯以外のためにあてられた額

   ③ 保有が容認されない物品等の購入のためにあてられた額

  オ 当該収入があったことを契機に世帯が保護から脱却する場合にあっては,今後の生活設計等から判断して当該世帯の自立更生のために真に必要と実施機関が認めた額。

(3)返還額の決定は,担当職員の判断で安易に行うことなく,法第80条による返還免除の決定の場合と同様に,そのような決定を適当とする事情を具体的かつ明確にした上で実施機関の意思決定として行うこと

  なお,上記のオに該当するものについては,当該世帯に対してその趣旨を十分説明するとともに,短期間で再度保護を要することとならないよう必要な生活指導を徹底すること。