生活保護の審査請求をしよう

生活保護の質問に答えます。役所の決定に疑問があったら、生活保護の審査請求をしましょう。

<生活保護と障害年金(前編)> 【問】私は うつ病で,障害年金の受給可能性があるので,裁定請求手続きを行うよう指導を受けていますが,なぜ手続きを行わなければならないのですか。

 私は うつ病で,障害年金の納付要件を満たしており,病状的にも障害年金に該当するので,ケースワーカーから,障害年金の裁定請求手続きを行うよう指導を受けています。

 しかし,障害年金の裁定請求手続きは,「病歴・就労状況等申立書」の作成など,老齢年金の裁定請求手続きと比べてかなり難しく,手続きがなかなか進まないため,途中でイヤになって,手続きを辞めようかと思っています。

 ですが,ケースワーカーからは,障害年金2級以上を受給できるようになると,障害者加算を支給できて,今より生活が楽になるので,何度も手続きを行うよう言われます。 そこで,何かアドバイスがあったら,お願いします。

 

 

【答】

 生活保護は,生活保護法第4条により「他法他施策優先」とされており(保護の補足性),老齢年金や障害年金,健康保険の傷病手当金雇用保険の失業給付金など,他の法律や制度などにより給付を受ける権利があるときは,その請求又は申請手続き受けるよう指導を受けます。

 

 しかし,障害年金の裁定請求手続きは,老齢年金の裁定請求手続きと比べて,非常に手間もかかり 難しいものです。 障害年金制度に詳しいケースワーカーの中には,代理で障害年金の裁定請求手続きを行う人もいますが,ケースワーカー全体の中で,代理で障害年金の裁定請求手続きを行うことができる能力があり,実際に代理でその手続きを行ったことがある人は,せいぜい1割程度であり,多くても2割程度であると思います。

 

 その理由は,まず障害年金制度が複雑で難しいということです。 老齢年金制度は,納付・免除期間を満たしていれば,裁定請求手続きは比較的簡単ですが,障害年金制度を理解するためには,相当の期間 勉強をしなければならず,ある程度の知識があっても,実際に手続きを行うとなると,相当の手間と時間を必要とします。

 

 しかし,ケースワーカーの担当世帯数は,標準数の80世帯に対して,平均で100~120世帯を担当していて,多い人は140世帯を担当している人もいます。 これだけ多くの世帯を担当していれば,毎日の通常業務に追われ,障害年金制度を勉強したり,代理で障害年金の裁定請求手続きを行ったりする余裕がないことが実情です。

 

 そのため,実際に代理で障害年金の裁定請求手続きを行ったことがあるケースワーカーの数は,全体の1割程度しかいないことになり,大部分の生活保護を受けている人は,自分で裁定請求手続きを行わざるを得ない状況ですが, 実際に自分で障害年金の裁定請求手続きを行うことができる人は,極めて少ないと思います。 つまり,事務処理に慣れたケースワーカーでさえ難しい手続きを,生活保護を受けている人に求めることは,あまりにも酷なことです。

 私だったら,担当ケースワーカーに対して,「できるのなら,あなたがやってみてください。」と言うでしょう。

 

 したがって,毎年作成する『援助方針』には,何年も前から,「障害年金の裁定請求手続きを指導する。」と書かれることになり,誰も手をつけずに何年も先送りになっていくのです。

 この状態が続いたとしても,生活保護を受けている人にデメリットがなければよいのですが,「障害者加算」に影響します。 生活保護を受けている人が,障害年金の納付要件を満たしていて,かつ,病状的にも障害年金に該当する場合は,障害年金の受給資格があるため,ケースワーカーは,障害年金の裁定請求手続きを行うよう指導する必要があり,裁定請求の結果,障害年金の障害等級が2級以上に該当するときは,障害者加算を認定することができます。

 

 一方,生活保護を受けている人が,障害年金の納付要件を満たしてないか,又は 覚醒剤後遺症等の病名が障害年金に該当しない場合は,障害年金の受給資格がないため,ケースワーカーは,精神障害者保健福祉手帳の障害等級2級以上に該当するときは,障害者加算を認定することができます。

 

 精神障害者保健福祉手帳の障害認定基準は,障害年金の障害認定基準をもとに作成されていますので,原則として精神障害者保健福祉手帳の障害等級と障害年金の障害等級は,同じであるべきですが,往々にして異なることがあり,実態としては,精神障害者保健福祉手帳の障害等級が,障害年金の障害等級よりも高くなりがちです。

 

 この理由は, 障害年金の障害等級の認定は,金銭の受給に直結しますが,精神障害者保健福祉手帳の障害等級の認定は,生活保護を受けている人を除いて,金銭の受給に直結しないため,障害年金の障害等級の認定の方が,精神障害者保健福祉手帳の障害等級の認定よりも厳しくなりがちということや,

  精神疾患専門の医師の全員が,必ずしも障害年金制度や精神障害者保健福祉手帳制度に詳しいわけではないことです。

 

 つまり,障害年金制度や精神障害者保健福祉手帳制度は,行政がつくった制度ですので,名医が 必ずしも障害年金制度や精神障害者保健福祉手帳制度に精通しているわけではないことに その原因があります。

 

 そのため,ある病院で障害年金精神障害者保健福祉手帳の障害等級に該当しないと言われた人が,別の病院で障害年金精神障害者保健福祉手帳の障害等級に該当すると言われた人は何人もいますし,医師によって病名が異なることも しばしばあります。

 これは,身体障害者と比べて,精神障害者の場合は,検査しても数値として明確には現れないことにも原因があります。

 

 そして,障害者加算の認定にあたっては,障害年金の障害等級が,精神障害者保健福祉手帳の障害等級に優先しますので,例えば,障害年金の障害等級が2級で,精神障害者保健福祉手帳の障害等級1級のときは,障害年金の障害等級2級に基づき障害者加算3級を認定することになります。

 

 そのため,障害年金の受給資格があるときは,ケースワーカーは,障害年金の裁定請求手続きを行い,裁定請求の結果,障害年金の障害等級が2級以上に該当すれば,障害者加算を認定することになるわけです。

 

 しかし,障害年金の裁定請求手続きは,複雑でかなり手間がかかるため,生活保護を受給している人にとっては,非常に難しく,また,裁定請求手続きを支援してもらえるような親族もいない人が多いため,結局,障害者加算を認定してもらえないことになります。

 

 そこで,障害年金制度に詳しい社会保険労務士に 裁定請求手続きを委任する方法もありますが,通常,社会保険労務士報酬が必要であり,報酬には着手金と成功報酬があります。

 障害年金を受給できるようになれば,社会保険労務士報酬(着手金と成功報酬)については,必要経費又は自立更生費として,収入から控除することを認める福祉事務所がありますので,その場合は,社会保険労務士報酬を自己負担する必要はありませんが,障害年金を受給できないときは,着手金については,自分で負担することになります。

 そのため,着手金なし・成功報酬のみで,障害年金の裁定請求手続きを引き受けてもらえる社会保険労務士に委託すればよいのですが,そのような社会保険労務士の数が少ないのが実情です。

 

 また,厚生労働省は,社会保険労務士障害年金の裁定請求手続きを委託し,その結果,障害年金を受給できたとしても,社会保険労務士報酬を必要経費として認めない考えのようです。しかし,その場合でも,自立更生費として認める可能性はあります。

 

 (障害年金について書き始めると長くなりますので,申し訳ありませんが,今回はここで終わり,この続きは、後日、「後編」に書きます。)