生活保護の審査請求をしよう

生活保護の質問に答えます。役所の決定に疑問があったら、生活保護の審査請求をしましょう。

<生活保護と障害者加算> 【問】精神障害者保健福祉手帳の更新を忘れた場合は,障害者加算分の生活保護費を返還しなければならないのですか?

 私は,うつ病により働くことができず,生活保護を受けており,精神障害者保健福祉手帳2級のため,障害者加算3級が認定されていましたが,うっかり手帳の更新を忘れ,更新時期を3か月過ぎたため,新たに手帳を取得することになりました。

 そのことが役所の担当者に分かり,精神障害者保健福祉手帳が未更新であった3か月間は,障害者加算を認定することができず,3か月分の障害者加算に相当する生活保護費が過払いになっているので,その分を返還するように言われました。

 確かに 手帳の更新を忘れたのは私の責任ですが,私の病状が改善されてないにもかかわらず,障害者加算が削除されるのは納得できません。 私は,3か月分の障害者加算に相当する生活保護費を返還する必要があるのですか。

 

【答】

 精神障害者保健福祉手帳の障害等級に基づいて障害者加算を認定している場合は,手帳の未更新期間があることが分かったときは,未更新期間の障害者加算に相当する生活保護費について,生活保護法第63条に基づき返還を求めるという運用をしている役所が多いと思います。 私がケースワーカーをしているときも,上記と同じような対応をしていました。

 

 しかし,東京都の東久留米市福祉事務所が,精神障害者保健福祉手帳2級に基づき障害者加算3級を認定していた被保護者について,精神障害者保健福祉手帳未更新であることに気が付き,東京都保護課に問い合わせ確認した上で,更新期限の翌月で障害者加算を削除し,1年3か月遡及し障害者加算分の保護費の返還を求めた生活保護法第63条に基づく返還処分に対して,取消訴訟が提起され,平成31年4月17日,東京地裁は,返還処分を取り消す判決を出しました

 

 その判決の内容は,「原告の精神障害者保健福祉手帳が更新されなかったという一事をもって,原告の精神障害の状態が障害者加算を要する障害の程度に該当しなくなったと推認することはできず,他に原告について,障害者加算の要件該当性が失われたことを基礎付ける事由の存在を認めるに足りる証拠はないものといわざるを得ない。 したがって,本件返還処分は,原告について『資力があるにもかかわらず,保護を受けた』との返還の要件がないのに行われたものとして違法な処分であり,取消しを免れない。」というものです。

 

 この判決は,精神障害者保健福祉手帳が未更新であることのみをもって,障害者加算を削除することは適当でなく,例えば,主治医に病状や精神障害者保健福祉手帳の該当の有無などを聴取し,病状的に精神障害者保健福祉手帳に該当しなくなったことを確認した上で,障害者加算を削除すべきであったと判示しています。

 

 今後,精神障害者保健福祉手帳が未更新であることのみをもって,障害者加算を削除した場合に,この判決を参考に,返還処分の取消しを求める審査請求が提起され,返還処分が取り消す県知事裁決が出される可能性もありますので,今後は,精神障害者保健福祉手帳が未更新であることのみをもって,障害者加算を削除するのではなく,主治医に病状や精神障害者保健福祉手帳の該当の有無などを聴取し,病状的に精神障害者保健福祉手帳に該当しなくなったことを確認した上で,障害者加算を削除すべきであると思います

 

 また,このブログの生活保護と年金受給>(5月25日付)の中でも触れたとおり,生活保護手帳・別冊問答集」問13-5において,厚生労働省は,「災害等による補償金を受領した場合,年金を遡及して受給した場合等における法第63条に基づく返還額の決定に当たって,その一部又は全部の返還を免除することは考えられるか。」という質問に対して,「原則として当該資力を限度として支給した保護金品の全額を返還額とすべきである。 しかしながら,保護金品の全額を返還額とすることが当該世帯の自立を著しく阻害すると認められるような場合については,次の範囲において,それぞれの額を本来の要返還額から控除して返還額を決定する取扱いとして差し支えない。」と答えています。

 したがって,生活保護法第63条に基づく返還額の決定において,自立更生費を認めるよう,役所の担当者に主張しましょう。

 

 上記のことを役所の担当者に説明しても,役所が,障害者加算に相当する生活保護費の返還を求めたり,返還額の決定にあたって自立更生費を認めないときは,法テラスを通じて生活保護制度に詳しい弁護士に相談した上で,個人情報保護条例に基づき,ケース記録や 返還額決定の会議資料・会議録などの個人情報の開示請求を行い,役所が,返還額の決定にあたって自立更生費の必要性について,具体的に十分な検討を行ったかどうかを確認するとともに,上記の東京地裁の判決文を添付して,都道府県知事に対して返還処分の取消しを求める審査請求を行いましょう。