生活保護の審査請求をしよう

生活保護の質問に答えます。役所の決定に疑問があったら、生活保護の審査請求をしましょう。

<生活保護と障害年金(後編)> 【問】私は うつ病で,障害年金の受給可能性があるので,裁定請求手続きを行うよう指導を受けていますが,なぜ手続きを行わなければならないのですか。

 私は うつ病で,障害年金の納付要件を満たしており,病状的にも障害年金に該当するので,ケースワーカーから,障害年金の裁定請求手続きを行うよう指導を受けています。

 しかし,障害年金の裁定請求手続きは,「病歴・就労状況等申立書」の作成など,老齢年金の裁定請求手続きと比べてかなり難しく,手続きがなかなか進まないため,途中でイヤになって,手続きを辞めようかと思っています。

 ですが,ケースワーカーからは,障害年金2級以上を受給できるようになると,障害者加算を支給できて,今より生活が楽になるので,手続きを行うよう何度も言われます。

 そこで,何かアドバイスがあったら,お願いします。 (【問】は「前編」と同じ)

 

 

【答】

(「前編」から続く)

 このブログの9月24日の記事「生活保護障害年金(前編)」の最後に「厚生労働省は,社会保険労務士障害年金の裁定請求手続きを委託し,その結果,障害年金を受給できたとしても,社会保険労務士報酬を必要経費として認めない考えのようです。

 しかし,その場合でも,自立更生費として認める可能性はあります。」と書きましたが,この理由は,都道府県(おそらく山梨県)の生活保護担当部署から厚生労働省への照会に対して,厚生労働省の次の回答があるからです。

 

 「 年金の裁定請求を保護開始申請前から社会保険労務士等に委任していた場合であって,保護開始後に裁定(支給決定)された場合,社会保険労務士への成功報酬等を必要経費として控除することは可能か。 なお,可能とした場合,保護受給中の者が委任した場合の取扱いも同様か。」

 

 「 年金の裁定請求を保護開始申請前から社会保険労務士等に委任していた場合に限り,次第8-3-(2)-ア-(イ)により,成功報酬等を必要経費として控除することとして差し支えない。 なお,保護受給中の場合には,福祉事務所の支援等により手続きを行うことが可能であると考えられることから,原則として社会保険労務士の成功報酬等を必要経費と認めることはできないものである。」

 

 しかし,この厚生労働省の回答は,どのように考えてもおかしなものです。 「福祉事務所の支援等により手続きを行うことが可能である」とは,老齢年金については可能かもしれませんが,障害年金については,福祉事務所の実態を何も知らない,厚生労働省の官僚の考えです。

 

 「生活保護障害年金(前編)」に書いたとおり,障害年金の裁定請求手続きは,老齢年金の裁定請求手続きと比べて,非常に手間もかかり 難しいものです。 ケースワーカー全体の中で,代理で障害年金の裁定請求手続きを行うことができる能力があり,実際に代理でその手続きを行ったことがある人は,せいぜい1割程度であり,多くても2割程度であると思います。

 私は ケースワーカー時代に,生活保護を受けている人の代理で,年金の裁定請求手続きを行ったことがありますが,老齢年金は約30件,障害年金は6件程度でした。 そのように障害年金の裁定請求手続きは,老齢年金と比べて,手間もかかるし難しいのです。

 そのような福祉事務所の実態や 障害年金の裁定請求手続きの難しさを知らずに,「福祉事務所の支援等により手続きを行うことが可能である」などと書けるものだと思います。 自分の無知をさらけ出すようなものです。

 

 例えば,生活保護の運用において,慰謝料請求訴訟等において,弁護士に依頼し慰謝料を受け取ったときは,弁護士費用は必要経費として慰謝料(収入)から控除することができます。

 また,不動産登記において,司法書士報酬も必要経費として不動産売却収入から控除することができます。

 

 ケースワーカーは,弁護士の業務を代理を行うことはできませんが,不動産登記において,ケースワーカーが 登記申請書の作成事務等の司法書士の業務を代理で行ったり,支援をしたりすることは可能です。 インターネットで調べると,登記申請書の書き方等は載っており,それを見ると簡単にできますし,私は個人的に自分で登記申請書を作成し,不動産登記を行ったことが何回もあります。 私の経験では,不動産登記手続きは,障害年金の裁定請求手続きと比べると,比較的簡単です。

 

 したがって,不動産登記において,司法書士報酬も必要経費として 不動産売却収入から控除することを認めているならば,当然,社会保険労務士報酬も必要経費として 年金収入から控除することを認めることができるはずです。

 そんなことも知らない,厚生労働省の官僚に,あのような回答を書いてほしくありません。

 

 しかし,あの厚生労働省の回答があるため,生活保護を受けている人が,社会保険労務士障害年金の裁定請求手続きを依頼し,障害年金を受給した場合に,社会保険労務士報酬を必要経費として控除することは難しいのでしょうか。

 ところが,上記の厚生労働省の回答は,照会を行った県以外の都道府県や市には通知してないのです。

 

 このような回答は,当然,全国の都道府県や市に通知すべきであると思いますが,不思議なことに,厚生労働省は,この照会以外のものでも,照会した都道府県にのみ回答し,他の都道府県や市には ほとんど通知していません。

 そのため,この厚生労働省の回答を知らない都道府県や市では,社会保険労務士報酬を必要経費として認めているところがあります。

 

 例えば,さいたま市では,社会保険労務士報酬を必要経費として認めなかったことに対して,平成27年4月10日に審査請求が行われ,埼玉県知事は,「本件社会保険労務士が行った具体的な手続は 相当軽易とは認められず,また請求人が本件社会保険労務士に手続の代行を依頼した経緯を参酌すると,本件における手続代行費用はこの規定に基づく必要経費として認定すべきものと判断される。 したがって,請求人の〇が遡及受給した障害年金にかかる法第63条に基づく返還金の決定において,年金請求手続に要した手続代行費用を必要経費として認定せずに行われた本件処分は不当である。」として,平成27年9月17日さいたま市の処分を取り消す裁決を出しました。 そのため,埼玉県では,現在でも,社会保険労務士報酬を必要経費として認めていると思われます。

 障害年金の裁定請求手続きの難しさを考えると,この埼玉県知事裁決は妥当なものであると思います。

 

 したがって,生活保護手帳や別冊問答集に載ってない事項については,厚生労働省にヘタに照会しない方がよいのかもしれません。 厚生労働省に照会して,その回答が 従来の運用と異なっていた場合は,厚生労働省の回答に従わざるを得ないからです。

 

 また,ある市では,社会保険労務士障害年金の裁定請求手続きを依頼した場合において,社会保険労務士報酬を必要経費として控除可能か否かについて照会したところ,厚労省からの回答は,上記のように,社会保険労務士報酬を必要経費として控除することは認められないが,真にやむを得ない事情があると場合は,自立更生費として控除することは可能であるという趣旨の回答があったそうです。

 そのため,その市では,社会保険労務士報酬を必要経費としては控除できないが,真にやむを得ない事情があるとときは,自立更生費として控除しているとのことでしたので,自立更生費として認められる余地はあると思います。

 

 このように,厚生労働省の考えが必ずしも正しいものではないのですが,生活保護事務の大部分が法定受託事務であるため,地方自治体は,原則として厚生労働省の通知・指導に従わざるを得ないのです。

 

 したがって,あなたは,福祉事務所に 次の埼玉県知事裁決書を提示して,社会保険労務士報酬を必要経費又は自立更生費として認めてもらえるか否かを相談し,認めてもらえるときは,インターネット等により,着手金なし・成功報酬のみで,障害年金の裁定請求手続きを引き受けてもらえる社会保険労務士を探し,その人に障害年金の裁定請求手続きを委託することを検討したらよいのではないかと思います。

 

 なお,福祉事務所には,社会保険事務所又は年金事務所の元職員を 年金調査員として配置していますが,この年金調査員は,老齢年金は詳しいのですが,障害年金については,あまり詳しくありません。

 したがって,障害年金制度に詳しい社会保険労務士を 年金調査員として雇用し配置した方がよいのではないかと思います。 そうすれば,障害年金の裁定請求手続きは,格段に進むでしょう。

 

 

(参考)

埼玉県知事裁決>

         裁  決  書

 

 

                     審査請求人 〇〇〇〇〇〇〇〇〇

 

                     処分庁   〇〇〇〇〇〇〇〇〇

 

 

 上記審査請求人(以下「請求人」という。)から平成27年4月10日付けで提起された,処分庁が平成〇年〇月〇日付け〇〇第〇〇〇〇号で行った生活保護法(以下「法」という。)第63条に基づく返還金決定処分(以下「本件処分」という。)に係る審査請求(以下「本件審査請求」という。)について,次のとおり裁決する。

 

                主  文

 本件処分を取り消す

 

                理  由

 第1 審査請求の趣旨及び理由

 本件審査請求の趣旨及び理由は次のとおりであり,本件処分は違法又は不当であると主張しているものと解される。

 

1 審査請求の趣旨

 本件審査請求の趣旨は,本件処分を取り消し,請求人の〇の年金請求手続に要した手続代行費用を必要経費として認めるよう求めるものと解される。

 

2 審査請求の理由

 審査請求の理由の要旨は,概ね次のとおりと解される。

 

 一般的に〇〇年金の請求手続は煩雑であり,〇〇〇〇を患う請求人の〇が請求手続を行う場合,専門家の援助が必要なことは明らかである。

 実際に,請求人の〇の年金請求手続は,〇〇〇〇に少なくとも2回,年金事務所に少なくとも5回出向いて対応に当たり,〇〇〇〇〇〇〇〇〇がわかる〇〇〇等の資料を用意するなど,多岐にわたり煩雑なものであった。

 請求人の〇は,当時独立して生活を営むことが困難な状態にあり,〇〇もなかったため,自身で上記のような手続を行うことは不可能であったと言える。

 請求人は,当時〇歳であった〇の世話と仕事のため,〇に代わって請求手続を行うことは不可能であった。

 請求人の〇及び〇は,それぞれ当時〇齢,〇歳と未成年であり,請求手続を行うことは不可能であった。

 以上から,年金請求手続を社会保険労務士に依頼することはやむを得ないことであり,手続代行費用は必要経費として認められるべきである。

 

 

第2 処分庁の弁明

 処分庁は弁明書により本件審査請求の棄却を求めており,その理由は次のとおりと解される。

 

 請求人は,〇〇年金の請求手続が煩雑であると主張しているが,請求人の〇の〇〇〇〇は一か所で終始しており,〇〇〇も本人が把握していたことから,資料の取り揃えに関して煩雑な手続きを踏むとは考えづらい。

 また請求人は,請求人らには手続能力がなかったと主張しているが,〇単身での手続は困難であるにしても,以下のとおり,請求人等の援助があれば受給権の確認は可能であったと考えられる。

 まず,請求人については,継続して就労しており体調面でも問題なく,十分な手続能力を有していたと考えられる。当時,請求人の〇は〇〇〇〇〇であり,〇は〇〇〇〇〇〇であったが,〇〇〇〇〇〇〇〇を利用しており,常時監護を要する状況ではなかったので,請求人が仕事の合間に〇に付き添って年金事務所に出向くことは十分可能であった。

 次に,別居状態ではあるが請求人〇と〇〇にある請求人の〇がおり,請求人咽と請求人世帯との交流状況を鑑みると,請求人の〇が請求人〇に付き添って年金事務所に出向くことも可能であったと考えられる。

 そもそも,処分庁は請求人に対し,年金請求手続について期限を定めるなど強く指導していたものではなく,年金の受給可否の確認のため請求人の都合のつく時間帯に〇に付き添って年金事務所に出向くよう指導していたものである。

 そのような指導に対し,請求人は報酬等の費用が発生することを認識しながら,処分庁に対して事前相談や問い合わせ,報告をせずに社会保険労務士との契約を締結し,担当ケースワーカーから費用の控除ができない旨伝えられた後もこの契約を継続したものである。

 以上により,請求人はその手続能力を十分に活用しておらず,処分庁から確実な確認を取らないまま処分庁の指導の範囲を超えて社会保険労務士との契約を締結し,更に控除は認められない旨を処分庁から伝えられた後も契約を継続していることから,手続代行費用は必要経費として認められるものではない。

 

 

第3 請求人の反論

 処分庁の弁明に対し,請求人から平成〇年〇月〇日付けで反論書が提出され,同年〇月〇日付けで反論書の追加補充書面,証拠説明書及び証拠書類が提出された。その趣旨は次のとおりと解される。

 

 処分庁は,請求人又は請求人の〇に手続能力があったと主張している。

 しかし,請求人は当時,パートタイムではあるものの,〇曜日から〇曜日及び第〇曜日の午前〇時から午後〇時まで就労していた。午後〇時から午後〇時頃まで残業をすることもよくあり,特にこの当時は午前〇時頃まで勤務しなければならないこともあり,平日の日中に1,2回でも〇〇や年金事務所を訪れることは困難な状況であったため,年金請求手続を行うことは不可能であった。

 請求人の〇については,当時,請求人世帯との交流はほとんどなく,請求人は〇が何処でどのように生活しているかについても知らない状況であったため,支援を期待することはできない状況であった。

 また処分庁は,年金請求手続が煩雑とは考えづらいとも主張している。

 しかし,〇〇〇〇〇による年金受給の可否基準は,〇〇〇〇の場合に比べ明確ではなく,専門家ではない請求人らが必要書類を作成することは極めて困難である。

 現に,請求人から依頼を受けた社会保険労務士が行った手続は,処分庁が考えている以上に多数存在しており,これらの手続を専門家ではない請求人らが行った場合は,さらに多くの時間的負担を強いられたことは間違いなく,請求人にはそのような時間的余裕はなかった。

 証拠として提出した厚生労働省の〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇において配布された資料においても,埼玉県が全国と比較して〇〇〇〇に基づく〇〇年金の受給が困難な地域であることが明らかとなっている。

 これらのことから,専門家が適確な資料を作成しなかった場合,受給の可否判断に影響することが考えられ,請求人の〇の年金請求手続においては,社会保険労務士等の専門家の介在が必要不可欠であったと言える。

 さらに処分庁は,請求人が処分庁に対し,事前相談拝問い合わせ,報告をしないまま社会保険労務士との契約を締結したと主張している。

 しかし,請求人は〇〇〇〇〇〇に相談した旨を処分庁の担当ケースワーカーに報告しており,請求人から相談を受けた社会保険労務士が平成〇年〇月に処分庁問合せを行った際には,請求人と契約を締結したこと及び発生する報酬の目安についても伝えている。

 年金請求手続の代行に要した費用を必要経費として認める取扱いについては,他県や他市において存在するので,他との均衡を欠くようなものでもない。仮に本件にかかる費用が高額であると判断されるにしても,その一切を認めないとする判断は不合理である。

 

 

第4 処分庁の再弁明

 請求人の反論に対し,処分庁から平成〇年〇月〇日付けで再弁明書が提出され,その趣旨は次のとおりと解される。

 

 請求人は,勤務状況から平日の日中に1,2回でも〇〇や年金事務所を訪れることが困難な状況にあり,煩雑な請求手続を行うためには何度も勤務を休まなければならなくなるため,不可能であったと主張している。

 しかし,請求人が処分庁に提出した給与明細書等から判断する限り,実際の就労日数は請求人が主張する日数には至っておらず,勤務状況を理由に手続能力がないとは言えない。

 請求人は,請求人の〇についても,ほとんど交流がなく生活状況も知らなかったことを理由に手続能力がなかった旨主張しているが,そもそも請求人の〇は請求人の〇にとって生活保護上の重点的扶養義務者であり,〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇にある者である。したがって,その協力は優先されるべきであり,処分庁が把握していた限り,当時,請求人の〇は請求人世帯との交流に前向きであり,それ相当の関わりがあったと考えられる。

 また請求人は,社会保険労務士が行った具体的な業務を挙げて,専門家による代行が必要であったと主張しているが,社会保険労務士が出向いた〇〇〇〇や年金事務所はそれぞれ一か所に終始しており,業務内容についても請求人らでは行うことが不可能なものは認められない。請求人が提出した厚生労働省の資料からも,埼玉県が〇〇年金の受給が困難な地域であることと請求手続が煩雑であることの因果関係は読み取れない。

 さらに請求人は,他県や他市において請求手続の代行費用が必要経費として認められている例があるとし,他との均衡を欠くものではないと主張しているが,そのような取扱いについて厚生労働省等からの通知等はなく,個々の事例に対する判断は処分庁に委ねられている。

 処分庁は平成〇年〇月〇日にケース診断会議を開催し,請求人の話や社会保険労務士から提出された資料を基に代行費用の取扱いについて再度検討して本件処分を行っており,本件処分は妥当であると考える。

 

 

第5 請求人の再反論

 処分庁の再弁明に対し,請求人から平成〇年〇月〇日付けで再反論書及び証拠書類が提出され,同年〇月〇日付けで証拠説明書2及び証拠書類が提出された。その趣旨は次のとおりと解される。

 

 処分庁は,請求人の1か月の勤務日数がおおよそ〇日未満であり,勤務状況を理由に手続能力がなかったとは言えないと主張しているが,勤務先の事情で〇日を下回った月もあるものの,それ以外はおおむね反論書において主張したとおりの勤務状況であり,請求手続を行う余裕はなかった。

 また処分庁は,請求人の〇が扶養義務者であり,請求人の〇との〇〇〇〇〇〇〇〇が存在していること及び請求人世帯とそれ相当の関わりがあったと主張しているが,請求人の〇が週に 1回程度請求人世帯を訪れていたのは1~2か月程度の期間のみで,その後は連絡もとれなくなり,請求人との交流は途絶えている。したがって,現実的に支援を期待することは不可能であった。

 さらに処分庁は,請求人が提出した厚生労働省の資料について,年金の受給が困難な地域であることと受給手続が煩雑であることとの因果関係は読み取れないと主張している。しかし,当該資料からは〇〇〇〇〇〇〇〇〇と〇〇〇〇〇〇〇〇〇について相関関係があることを読み取ることができ,このことは,〇〇〇〇〇に基づく〇〇年金の受給を十分に可能とするためには社会保険労務士等の専門家の介在が必要であるという主張を支える事実である。

 

 

第6 当庁の認定事実.

 調査したところ,次の事実が認められる。

 

1 請求人は,平成〇年〇月〇日から〇〇〇〇〇〇にて,請求人及び請求人の〇〇〇〇の〇人世帯で生活保護を受給していること。

当時,請求人はスーパー2店を掛け持ちしてパート就労を行っていたこと。

2 請求人は,平成〇年〇月末まででスーパー1店を退職したこと。

3 請求人は,平成〇年〇月〇日までで継続就労していたスーパー1店を退職したこと。

4 請求人は,平成〇年〇月〇日から「〇〇〇〇〇〇」でパート就労を開始したこと。

5 請求人の〇は,平成〇年〇月〇日付けで〇〇〇〇〇〇〇〇を取得し,請求人は同年〇月〇日,処分庁に当該〇〇の写しを提出したこと。

6 請求人は,平成〇年〇月末日までで「〇〇〇〇〇〇」を退職したこと。

また,〇〇〇〇〇〇を理由として,〇〇〇〇を受診したこと。

7 処分庁は,平成〇年〇月〇日,平成〇年〇月〇日及び同年〇月〇日に請求人世帯への家庭訪問を実施し,その際,請求人に対し〇の〇〇年金受給の可否について年金事務所へ出向き納付期間を確認するよう伝えたこと。

また,それまで請求人は〇〇年金の制度を知らなかったこと。

8 請求人は,平成〇年〇月〇日から「〇〇〇〇〇」でパート就労を開始したこと。

9 平成〇年〇月〇日,請求人は〇の年金請求手続について,電話で「〇〇〇〇〇〇〇」に相談し,同〇〇〇〇〇から社会保険労務士(本件社会保険労務士」という。)の紹介を受けたこと。

10 平成〇年〇月頃,請求人から〇の年金請求手続について相談を受けた本件社会保険労務士は,処分庁に対し,生活保護受給者が〇〇年金を得た際に,年金請求手続の代行費用が必要経費として認められるかについて電話にて問い合わせたこと。

11 平成〇〇年〇月〇日,請求人は,〇の年金請求手続の代行について本件社会保険労務士と契約を締結したこと。

12 平成〇年〇月頃,本件社会保険労務士は,請求人の〇の〇〇金請求手続を代行し,年金が支給された場合に,代行費用が必要経費として認められるかについて電話にて問い合わせたこと。

 また,この問い合わせに対し処分庁の担当ケースワーカーは,上司と検討の上後日回答する旨伝えたこと。

13 平成〇年〇月〇日,処分庁は,来庁した請求人に対し,代行費用が必要経費とは認められない旨伝え,請求人は「わかりました」と答えたこと。

14 平成〇年〇月〇日,処分庁は請求人世帯への家庭訪問を実施し,請求人から,社会保険労務士との契約は継続しており,現在〇〇年金の受給が可能か調査をしてもらっているとの旨聴取し,請求人に対し,結果が出た際には処分庁に連絡するよう伝えたこと。

15 平成〇〇年毎月衝日,請求人の〇の年金請求書が〇〇年金事務所に提出されたこと。

16 平成〇年〇月〇〇日,処分庁は請求人世帯への家庭訪問を実施し,請求人から,〇の〇〇年金の資料が揃ったため,先月年金事務所に審査を依頼し結果を待っているとの報告を受けたこと。

17 平成〇年〇月〇日付けで,本件社会保険労務士は処分庁宛て「〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇」と題する文書を送付したこと。

18 平成〇年〇月〇日,処分庁は請求人に対し,代行費用が必要経費とは認められない旨再度伝えたこと。

19 平成〇年〇月〇日付けで請求人の〇の年金給付が決定され,同年〇月〇日に年金証書の写しが処分庁に提出されたこと。

20 平成〇年〇月〇日付けで,本件社会保険労務士は請求人に対し,年金請求手続代行費用として〇〇〇〇〇円を請求したこと。

21 平成〇牢〇月〇日,請求人の〇の年金の初回支給分〇〇〇〇〇〇〇円が請求人の〇の銀行口座に入金されたこと。

22 平成〇年〇月〇日,処分庁はケース診断会議を開催し,年金請求手続の代行費用について,以下の理由により必要経費とは認められないとの判断をしたこと。

請求人が自身の判断で社会保険労務士に相談して契約直前に処分庁に報告があったものであり,その後,処分庁から必要経費とは認められない旨伝えたにもかかわらず,請求人の意思で契約を継続したものであるため。

23 平成〇年〇月〇日付けで,処分庁は法第63条に基づく返還金を決定し,請求人に通知したこと。

24 平成27年4月10日付けで,本件審査請求が提起されたこと。

25 処分庁から平成〇年〇月〇日付けで弁明書が提出されたこと.

26 請求人から平成〇年〇月〇日付けで反論書が提出されたこと。

27 請求人から平成〇年〇月〇日付けで反論書の追加補充書面,証拠説明書及び証拠書類が提出されたこと。

28 処分庁から平成〇年〇月〇日付けで再弁明書が提出されたこと。

29 請求人から平成〇年〇月〇日付けで再反論書及び証拠書類が提出されたこと。.

30 請求人から平成〇年〇月〇〇日付けで証拠説明書2及び証拠書類が提出されたこと。

 

 

第7 当庁の判断

1 法第4条第1項は,「保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」としている。

 

2 また,昭和36年4月1日付け厚生省発社第123号厚生事務次官通知「生活保護法による保護の実施要領について」(以下「次官通知」という。)の第6は,「他の法律又は制度による保障,援助等を受けることができる者又は受けることができると推定される者については,極力その利用に努めさせること。」としている。

 

3 年金等の収入を得るための必要経費について,次官通知の第8-3 (2) ア(イ)は,「交通費,所得税,郵便料等を要する場合又は受給資格の証明のために必要とした費用がある場合は,その実際必要額を認定すること」としている。

 

4 法第63条に基づく返還額の取扱いについて,同条は「被保護者は ‥‥ 保護の実施機関の定める額を返還しなければならない」としており,返還額については保護の実施機関の裁量に委ねている。

 また,平成21年3月31日付け厚生労働省社会・援護局保護課長事務連絡「生活保護問答集について」(以下「問答集」という。)の問13-5の答(2)は「保護金品の全額を返還額とすることが当該世帯の自立を著しく阻害すると認められるような場合については,次の範囲においてそれぞれの額を本来の要返還額から控除して返還額を決定する取扱いとして差し支えない。」とし,「エ 当該世帯の自立更生のためやむを得ない用途にあてられたものであって,地域住民との均衡を考慮し,社会通念上容認される程度として実施機関が認めた額」と定めている。

 さらに,平成24年7月23日付け社援保発0723第1号保護課長通知「生活保護費の費用返還及び費用徴収決定の取扱いについて」において,遡及して受給した年金収入にかかる自立更生費の取扱いについては,定期的に支給される年金の受給額の全額が収入認定されることとの公平性の観点から,真にやむを得ない理由により控除する場合は,被保護世帯が事前に保護の実施機関に相談することが必要であり,保護の実施機関として慎重に必要性を検討することとされている。

5 以上の見地から,本件審査請求について判断する。

 請求人が処分庁からの指導を受け,〇の〇〇年金受給に向けて年金請求手続を進めたことは,前記1及び2に照らし適正な行為であることは明らかである。

 しかし,その手続を社会保険労務士に代行させたことについて,処分庁は,請求人が処分庁の指導によるものではなく,自らの意思で本件社会保険労務士と契約し,処分庁から必要経費とは認められない旨伝えられた後も当該契約を継続したものであること,請求人が自らの持つ手続能力や扶養義務者の手続能力を十分に活用していないこと,また社会保険労務士への相談は社会通念上未だ一般的ではないことを理由として,前記3に基づく必要経費には該当せず,前記4に基づく控除の対象にも当たらないと判断し,本件処分を行っている。

 確かに,処分庁が主張するとおり,年金請求手続は,〇〇〇〇に係るものであっても,必ずしも社会保険労務士等の専門家でなければ行えないものとは認められない。また,請求人らが当該手続を行う能力を有していなかったとも言えない。

 しかし,請求人は当時,年金請求手続について十分な知識を有しておらず,就労や家事等を継続しながら当該手続を行うことが可能なのか,適確に判断ができる状態ではなかったと認められる。

 処分庁からの助言指導についても,年金受給の可能性の確認のため年金事務所に出向くようにとの指導はあったものの,年金受給に至るまでの具体的な諸手続の内容や手順等,請求人が自らの能力で手続を行えるかどうかを判断できるほどの内容であったとは認められず,また別居している父に当該手続の支援を依頼するようにとの助言もなされていない。

 このような状況下で,請求人が「〇〇〇〇〇〇〇〇〇」への相談を経て社会保険労務士に手続の代行を依頼したことは,やむを得ないものと認められ,前記1に反する行為とは言えない。

 その後においても,前記第6の9のとおり,請求人は処分庁に社会保険労務士との契約を継続して年金請求手続を進めている旨報告しているが,処分庁は請求人に対し,社会保険労務士による手続の代行に代わる方法を示すなどして社会保険労務士との契約を解除するよう促すような助言指導は行っていない

 したがって,代行費用が必要経費として認められない旨伝えられた後も,社会保険労務士による代行以外に年金請求手続を継続する方法を見出すことができなかった請求人が本件社会保険労務士との契約を継続したことは,やむを得ないものと認められる

 前記3に基づく必要経費は,相当軽易な場合を除き,請求手続の代行費用も含まれるものと解されるが,本件社会保険労務士が行った具体的な手続は相当軽易とは認められず,また請求人が本件社会保険労務士に手続の代行を依頼した経緯を参酌すると,本件における手続代行費用はこの規定に基づく必要経費として認定すべきものと判断される

 したがって,請求人の〇が遡及受給した〇〇年金にかかる法第63条に基づく返還金の決定において,年金請求手続に要した手続代行費用を必要経費として認定せずに行われた本件処分は不当である

 

 

第8 結論

 以上検討したとおり,本件審査請求には理由が認められるため,行政不服審査法第40条第3項の規定により主文のとおり裁決する。

 

     平成27年9月17日

                    審査庁 埼玉県知事 上 田 清 司

 

 

 

<生活保護と障害年金(前編)> 【問】私は うつ病で,障害年金の受給可能性があるので,裁定請求手続きを行うよう指導を受けていますが,なぜ手続きを行わなければならないのですか。

 私は うつ病で,障害年金の納付要件を満たしており,病状的にも障害年金に該当するので,ケースワーカーから,障害年金の裁定請求手続きを行うよう指導を受けています。

 しかし,障害年金の裁定請求手続きは,「病歴・就労状況等申立書」の作成など,老齢年金の裁定請求手続きと比べてかなり難しく,手続きがなかなか進まないため,途中でイヤになって,手続きを辞めようかと思っています。

 ですが,ケースワーカーからは,障害年金2級以上を受給できるようになると,障害者加算を支給できて,今より生活が楽になるので,何度も手続きを行うよう言われます。 そこで,何かアドバイスがあったら,お願いします。

 

 

【答】

 生活保護は,生活保護法第4条により「他法他施策優先」とされており(保護の補足性),老齢年金や障害年金,健康保険の傷病手当金雇用保険の失業給付金など,他の法律や制度などにより給付を受ける権利があるときは,その請求又は申請手続き受けるよう指導を受けます。

 

 しかし,障害年金の裁定請求手続きは,老齢年金の裁定請求手続きと比べて,非常に手間もかかり 難しいものです。 障害年金制度に詳しいケースワーカーの中には,代理で障害年金の裁定請求手続きを行う人もいますが,ケースワーカー全体の中で,代理で障害年金の裁定請求手続きを行うことができる能力があり,実際に代理でその手続きを行ったことがある人は,せいぜい1割程度であり,多くても2割程度であると思います。

 

 その理由は,まず障害年金制度が複雑で難しいということです。 老齢年金制度は,納付・免除期間を満たしていれば,裁定請求手続きは比較的簡単ですが,障害年金制度を理解するためには,相当の期間 勉強をしなければならず,ある程度の知識があっても,実際に手続きを行うとなると,相当の手間と時間を必要とします。

 

 しかし,ケースワーカーの担当世帯数は,標準数の80世帯に対して,平均で100~120世帯を担当していて,多い人は140世帯を担当している人もいます。 これだけ多くの世帯を担当していれば,毎日の通常業務に追われ,障害年金制度を勉強したり,代理で障害年金の裁定請求手続きを行ったりする余裕がないことが実情です。

 

 そのため,実際に代理で障害年金の裁定請求手続きを行ったことがあるケースワーカーの数は,全体の1割程度しかいないことになり,大部分の生活保護を受けている人は,自分で裁定請求手続きを行わざるを得ない状況ですが, 実際に自分で障害年金の裁定請求手続きを行うことができる人は,極めて少ないと思います。 つまり,事務処理に慣れたケースワーカーでさえ難しい手続きを,生活保護を受けている人に求めることは,あまりにも酷なことです。

 私だったら,担当ケースワーカーに対して,「できるのなら,あなたがやってみてください。」と言うでしょう。

 

 したがって,毎年作成する『援助方針』には,何年も前から,「障害年金の裁定請求手続きを指導する。」と書かれることになり,誰も手をつけずに何年も先送りになっていくのです。

 この状態が続いたとしても,生活保護を受けている人にデメリットがなければよいのですが,「障害者加算」に影響します。 生活保護を受けている人が,障害年金の納付要件を満たしていて,かつ,病状的にも障害年金に該当する場合は,障害年金の受給資格があるため,ケースワーカーは,障害年金の裁定請求手続きを行うよう指導する必要があり,裁定請求の結果,障害年金の障害等級が2級以上に該当するときは,障害者加算を認定することができます。

 

 一方,生活保護を受けている人が,障害年金の納付要件を満たしてないか,又は 覚醒剤後遺症等の病名が障害年金に該当しない場合は,障害年金の受給資格がないため,ケースワーカーは,精神障害者保健福祉手帳の障害等級2級以上に該当するときは,障害者加算を認定することができます。

 

 精神障害者保健福祉手帳の障害認定基準は,障害年金の障害認定基準をもとに作成されていますので,原則として精神障害者保健福祉手帳の障害等級と障害年金の障害等級は,同じであるべきですが,往々にして異なることがあり,実態としては,精神障害者保健福祉手帳の障害等級が,障害年金の障害等級よりも高くなりがちです。

 

 この理由は, 障害年金の障害等級の認定は,金銭の受給に直結しますが,精神障害者保健福祉手帳の障害等級の認定は,生活保護を受けている人を除いて,金銭の受給に直結しないため,障害年金の障害等級の認定の方が,精神障害者保健福祉手帳の障害等級の認定よりも厳しくなりがちということや,

  精神疾患専門の医師の全員が,必ずしも障害年金制度や精神障害者保健福祉手帳制度に詳しいわけではないことです。

 

 つまり,障害年金制度や精神障害者保健福祉手帳制度は,行政がつくった制度ですので,名医が 必ずしも障害年金制度や精神障害者保健福祉手帳制度に精通しているわけではないことに その原因があります。

 

 そのため,ある病院で障害年金精神障害者保健福祉手帳の障害等級に該当しないと言われた人が,別の病院で障害年金精神障害者保健福祉手帳の障害等級に該当すると言われた人は何人もいますし,医師によって病名が異なることも しばしばあります。

 これは,身体障害者と比べて,精神障害者の場合は,検査しても数値として明確には現れないことにも原因があります。

 

 そして,障害者加算の認定にあたっては,障害年金の障害等級が,精神障害者保健福祉手帳の障害等級に優先しますので,例えば,障害年金の障害等級が2級で,精神障害者保健福祉手帳の障害等級1級のときは,障害年金の障害等級2級に基づき障害者加算3級を認定することになります。

 

 そのため,障害年金の受給資格があるときは,ケースワーカーは,障害年金の裁定請求手続きを行い,裁定請求の結果,障害年金の障害等級が2級以上に該当すれば,障害者加算を認定することになるわけです。

 

 しかし,障害年金の裁定請求手続きは,複雑でかなり手間がかかるため,生活保護を受給している人にとっては,非常に難しく,また,裁定請求手続きを支援してもらえるような親族もいない人が多いため,結局,障害者加算を認定してもらえないことになります。

 

 そこで,障害年金制度に詳しい社会保険労務士に 裁定請求手続きを委任する方法もありますが,通常,社会保険労務士報酬が必要であり,報酬には着手金と成功報酬があります。

 障害年金を受給できるようになれば,社会保険労務士報酬(着手金と成功報酬)については,必要経費又は自立更生費として,収入から控除することを認める福祉事務所がありますので,その場合は,社会保険労務士報酬を自己負担する必要はありませんが,障害年金を受給できないときは,着手金については,自分で負担することになります。

 そのため,着手金なし・成功報酬のみで,障害年金の裁定請求手続きを引き受けてもらえる社会保険労務士に委託すればよいのですが,そのような社会保険労務士の数が少ないのが実情です。

 

 また,厚生労働省は,社会保険労務士障害年金の裁定請求手続きを委託し,その結果,障害年金を受給できたとしても,社会保険労務士報酬を必要経費として認めない考えのようです。しかし,その場合でも,自立更生費として認める可能性はあります。

 

 (障害年金について書き始めると長くなりますので,申し訳ありませんが,今回はここで終わり,この続きは、後日、「後編」に書きます。)

 

<生活保護と申請後の義務> 【問】生活保護の申請後は,生活保護が決定してないにも関わらず,福祉事務所の指導に従う義務があるのですか。

 私は,先日,福祉事務所で生活保護の申請をして,申請書を受理してもらいました。 そのとき,まだ引っ越しが終わっていなかったので,数日後に兄の車を借りて自分で運転し,引っ越しを行う予定でしたので,そのことを担当ケースワーカーに言ったところ,そのケースワーカーから,生活保護の申請後は,車の運転をしないように言われました。

 しかし,私は,生活保護の申請をしたばかりで,まだ生活保護の適用が決定してないにもかかわらず,ケースワーカーから,車の運転をしないよう指導を受けることには納得できません。 私は,ケースワーカー(福祉事務所)からの指導に従う義務はあるのでしょうか。

 また,私が,生活保護の申請日から決定日までの間に,車の運転をして,それが福祉事務所に見つかったときは,私は,福祉事務所の指導に従わなかったことを理由に,生活保護の申請が却下されることはありますか。

 

 

【答】

 生活保護の申請後,生活保護の適用が決定した場合に,仮に生活保護の決定日から生活保護が適用されるのであれば,生活保護の申請日から決定日までの間は,福祉事務所の指導に従う「義務」はありませんが,その代わりに,申請日から決定日までの生活保護費を受けたり,医療費の支払い受けたりする「権利」もありません。

 

 例えば,突然の病気で病院に入院し 手術が必要になり,医療費などに困って生活保護の申請をしたとき(入院中で福祉事務所に行くことができないときは,電話による生活保護の申請が可能です。),生活保護の決定日から生活保護が適用されると,生活保護の申請日から決定日までの医療費などは,福祉事務所から支払われないことになります。

 

 そうなると,生活保護の申請をした人が,医療費の支払いに困るため,生活保護の適用が決定した場合は,生活保護の申請日に遡って 生活保護が適用され,日割で生活保護費が支給されたり,医療費が無料になったりしますので(権利),自動車の運転などについても,生活保護を受けている人と同様に,指導の対象になります(義務)。 つまり,「権利と義務」の関係です(厳密に言いますと,「生活保護申請後で,生活保護決定前の人に対する指導」は,「生活保護を受けている人に対する指導」とは 少し性質が異なり,前者は「依頼」に近いものですが,現実的には 福祉事務所の言うことに従わざるを得なくなります。)。

 

 例えば,生活保護申請後、生活保護決定前に,親や兄弟などから仕送りをしてもらったり,借金をしたりした場合は,生活保護が決定されると,申請日に遡って 生活保護が適用されますので,仕送りや借金は収入として認定され,生活保護費が その分 減額されることになります。

 

 

 次に,生活保護法では,車の運転まで禁止されているものではありません

 詳しくは,このブログの5月14日の記事「生活保護と自動車の運転」を見ていただきたいのですが,ケースワーカーの中には,「生活保護を受けている人は,自動車の運転をしてはならない。」と勘違いしている人が少なからずいます。 しかし,生活保護法には,「生活保護を受けている人は,自動車の運転をしてはならない。」とは,どこにも書かれていません

 

 それでは,なぜ ケースワーカーの中には,「生活保護を受けている人は,自動車の運転をしてはならない」と勘違いしている人がいるかと言いますと,生活保護手帳 別冊問答集」の「問3-20 他人名義の自動車利用」に,「自動車の使用は,所有又は借用を問わず原則として認められない。」と書かれているからです。

 

 しかし,この「問3-20 他人名義の自動車利用」をよく読むと,「特段の緊急かつ妥当な理由が無いにもかかわらず,遊興等 単なる利便のため 度々 使用することは,法第60条の趣旨からも,法第27条による指導指示の対象となるものである。」と記されています。

 

 つまり,この文章を逆に読むと,「特段の緊急かつ妥当な理由が無いにもかかわらず,遊興等単なる利便のため度々使用すること」は認められていませんが, 特段の緊急かつ妥当な理由があれば,又は度々使用するのでなく,年に数回 利用するのであれば,他人から自動車を借りて運転することは認められるということになります。

 厚生労働省は,わざと極端な例を挙げて,生活保護を受けている人は,自動車の運転が禁止されているかのような誤解を与えようとしているのです(全く姑息な手段だなあ。)。

 

 要するに,生活保護法では,生活保護を受けている人が,自動車を運転することまで禁止されているわけではないので(法律で禁止されてないことを,国の通知で禁止することは問題です。),年に2~3回,知人等から自動車を借りたり,レンタカーを借りて,荷物を運んだり,家族でドライブをしたりすることは,当然,許されるものです。

 

 したがって,あなたの担当ケースワーカーに,私のブログを印刷するか,スマホで見せて,「このブログは,ケースワーカー歴10年の人が書いたものです。」と言ってみてください。

 そのときは,ケースワーカーとのやり取りを 必ず録音してください。 録音をしてないと,後で必ず「言った。言わない。」と揉めることになります。

 

 それでも,担当ケースワーカーから,「このブログの内容は 間違っている。」と言われたときは,法テラスを通じて生活保護制度に詳しい弁護士や,各地の生活保護支援ネットワークなどの生活困窮者支援団体に,福祉事務所に同行してもらうか,又は 福祉事務所に申入れを行うことを相談してみてください。 福祉事務所は,弁護士や生活困窮者支援団体などには弱いものです。

 

 また,【問】の中の「生活保護の申請日から決定日までの間に,車の運転をして,それが福祉事務所に見つかったときは,私は,福祉事務所の指導に従わなかったことを理由に,生活保護の申請が却下されることはありますか。」ということについては,生活保護の申請を却下する理由にはなりません

 

 もしかすると,あなたが住む自治体の福祉事務所は,運転したことを理由に却下するような無謀なことをするかもしれません(ケースワーカーは,3~4年で異動しますので,福祉事務所の中には,勉強不足の人が多く,生活保護制度に詳しい人材が少ないため,信じられないことに,本当に いい加減な 誤った対応をするところが多いのです。)。 そのときは,すぐに2回目の生活保護の申請をしてください。

 2回目の生活保護の申請後に車の運転をしなければ,1回目の生活保護の申請後に運転したことを理由に,2回目の申請を却下することはできないので,生活保護は適用されます。

 

 そして,あなたが1回目の却下処分に納得できないときは,生活保護が適用された後で,法テラスを通じて生活保護制度に詳しい弁護士に相談し,1回目の生活保護の申請に係る却下処分に対して審査請求や取消訴訟を行えば,あなたの主張が認められる可能性が高いと思います。

 

 なお,生活保護の申請書が提出されたときは,福祉事務所は,その申請書を必ず受理する義務がありますので,必ず福祉事務所に申請書を提出してください。

 もし福祉事務所が 生活保護の申請書を渡さないときは,生活保護の申請は 不要式行為ですので,普通の用紙に「生活保護の開始を申請します」と書いて,氏名,生年月日,住所,電話番号を記載して提出すれば大丈夫です。

 

 また,福祉事務所が申請書を受け取らないときは,内容証明の書留郵便で申請書を福祉事務所に送ってください。 福祉事務所の中には,水際作戦といって,申請書を渡さなかったり,申請書を受理しないなどの違法な行為をするところが,本当にあります。昔,このような対応は,北九州市方式として有名でした。 悲しいことに,役所の不当で悪質なやり方には,ここまでして対抗しなければならないのです。

 

 次に,福祉事務所から,「生活保護の申請後は 車の運転をしてはならない。」と言われ,それに従わず,それを理由に 生活保護の申請が却下されることが心配な場合は,生活保護申請却下処分という行政処分を受けなければ,却下処分の取消しを求める審査請求や取消訴訟を起こすことはできませんので,必ず申請書を提出してください。 審査請求や取消訴訟で 福祉事務所に対抗しましょう。

 

 また,福祉事務所から,「申請後に車の運転をしてはならないという指導に従わないときは,生活保護を適用することはできない。」と言われたため,申請書を提出しなかったときは,必ず担当者とのやり取りを録音してください。 後で,それが申請書を提出しなかった理由・証拠になります。

 

 この他に,このブログには,自動車の関連で,5月13日の記事「生活保護と自動車の保有や,7月6日の記事「生活保護と自動車の処分」を載せていますので,参考にしてください。

 

 

(参考)

生活保護手帳・別冊問答集

 問3-20 他人名義の自動車利用

(問)

 資産の保有とは,所有のみをいうものか。例えば,自動車の保有を認められていない者が,他人名義の自動車を一時借用を理由に遊興等のために使用している場合は,どのようにすべきか。

 

(答)

 生活保護における資産の保有とは,次第3に示してあるとおり,最低生活の内容としてその保有又は利用をいうものであって,その資産について所有権を有する場合だけでなく,所有権が他の者にあっても,その資産を現に占有し,利用することによって,それによる利益を享受する場合も含まれるものである。

 設問の場合には,特段の緊急かつ妥当な理由が無いにもかかわらず,遊興等 単なる利便のため 度々使用すること,法第60条の趣旨からも,法第27条による指導指示の対象となるものである。 これは,最低生活を保障する生活保護制度の運用として国民一般の生活水準,生活感情を考慮すれば,勤労の努力を怠り,遊興のため度々自動車を使用するという生活態度を容認することも,またなお不適当と判断されることによるものである。

 

<生活保護と審査請求書> 【問】県知事に審査請求を行おうと考えていますが,審査請求書の書き方が分からないので 教えてください。

 私は,うつ病により 障害年金の裁定請求を行った結果,令和元年6月分から障害厚生年金3級の受給を開始するとともに,令和元年6月15日に精神障害者保健福祉手帳2級の交付を受けたため,令和元年7月から精神障害者保健福祉手帳2級に基づき障害者加算3級の支給を受けました。

 

 ところが,令和5年8月16日にA市福祉事務所の担当ケースワーカーCから,「障害者加算の認定にあたっては,障害年金の障害等級が,精神障害者保健福祉手帳の障害等級に優先するため,令和元年7月分から障害者加算を支給していたことは誤りであったので,令和5年9月から障害者加算を削除するとともに,令和元年7月分から令和5年8月分までの4年2か月分の障害者加算に相当する保護費 890,500円を返還してもらう必要がある(障害厚生年金3級の場合は,障害者加算3級を認定できないため)。」と言われ,同年9月6日に「保護費返還決定通知書」を受け取りました。

 

 しかし,私は,A市福祉事務所の担当ケースワーカーCが,誤って保護費を多く支給していたとは全く思いもしませんでしたので,保護費のほとんどを生活費などに使ってしまいました。

 それに,私には何の落ち度もなく,A市福祉事務所の担当ケースワーカーCの過誤により保護費を多く支給していたにもかかわらず,担当ケースワーカーCや A市福祉事務所は何の責任もとらず,まるで私だけが悪いかのように,過払いとなった保護費を全額返還するよう言われても,納得できまん。

 そのため,B県知事に審査請求を行おうと思いますが,審査請求書の書き方が分からないので 教えてください。

 

【答】

 今回は,福祉事務所の過誤による保護費の過払金の返還処分に対する審査請求について説明します。

 審査請求書については,都道府県によって様式が定められているところもありますので,審査請求を行おうとする都道府県のホームページから審査請求書の様式をダウンロードするか,又は 各都道府県の審査請求担当部署に問い合わせ,審査請求書の様式を入手してください。

 

 自分で審査請求書を作成しようと思う人は,次の「審査請求書の記載例」を参考にして作成してください(次の「審査請求書の記載例」の「5 審査請求の理由」の最初の10行部分は,あなたの事案をもとに修正し,添付資料として平成29年2月1日 東京地方裁判所判決文を 審査請求書に付けてください。)。

 また,自分で審査請求書を作成することが難しいときは,法テラスを通じて弁護士などに審査請求書の作成を相談・依頼してください。

 

 なお,審査請求の手続きが面倒な人は,福祉事務所に対して返還には納得できないと主張し,納付書が送られてきても返還しなければ,福祉事務所としては,あなたに返還をお願いするしか方法はありません(法第78条の徴収金については,返済しない場合は 罰則がありますが,法第63条の返還金については,返還しなくても 罰則はありません。)。

 また,毎月少しずつでも返還したいと思う人は,月額500円~1,000円の返還でも差し支えありません。 毎月500円~1,000円の返還しかできない と福祉事務所に主張すれば,福祉事務所としては,自分たちに過失があるので,それを認めざるを得ないのです。

 

 

(記載例)

              審査請求書(案)

 

                               令和5年○月○日 

 

  B県知事 ○○ ○○ 殿

 

                      審査請求人 ○○ ○○

 

 生活保護法による保護決定処分について不服があるので,次のとおり審査請求をします。

 

1 審査請求人の住所,氏名及び年齢

  住 所 ○○○○○○○○○○○○○○○

  氏 名 ○○ ○○    (○歳)

 

2 審査請求に係る処分

  A市福祉事務所長が私に対して行った,令和5年9月4日付の保護費返還処分

 

3 審査請求に係る処分があったことを知った年月日

  令和5年9月6日

 

4 審査請求の趣旨

 A市福祉事務所長が私に対して行った,令和5年9月4日付の保護費返還処分を取り消す,との裁決を求めます。

 

5 審査請求の理由

 私は うつ病により 障害年金の裁定請求を行った結果,令和元年6月分から障害厚生年金3級の受給を開始するとともに,令和元年6月15日に精神障害者保健福祉手帳2級の交付を受けたため,令和元年7月分から精神障害者保健福祉手帳2級に基づき 障害者加算3級の支給を受けました。

 ところが,令和5年8月16日にA福祉事務所の担当ケースワーカーCから,障害者加算の認定にあたっては,障害年金の障害等級が,精神障害者保健福祉手帳の障害等級に優先するため,令和元年7月分から障害者加算を支給していたことは誤りであったので,令和5年9月から障害者加算を削除するとともに,令和元年7月分から令和5年8月分までの4年2か月分の障害者加算に相当する保護費 890,500円を返還する必要があると言われました。

 

 しかし,私は,福祉事務所が誤って保護費を多く支給していたとは 全く思いもしませんでしたので,保護費のほとんどを生活費などに使ってしまいました。

 そのため,担当ケースワーカーCに相談しましたが,生活費などに消費した場合は,自立更生費としては認められないので,返還金から自立更生費として控除することはできないと言われ,同年9月6日に,生活保護法第63条に基づき,令和元年7月から令和5年8月までの障害者加算に相当する保護費 890,500円全額の返還を求める旨の「保護費返還決定通知書」を受け取りました。

 しかし,私には何の落ち度もなく,福祉事務所の担当ケースワーカーの過誤により保護費を多く支給していたにもかかわらず,担当ケースワーカーや A福祉事務所は 何の責任もとらず,まるで私だけが悪いかのように,過払いとなった保護費の全額を返還するよう言われても,納得できません。

 生活保護法第63条に基づく返還額の決定方法を定めた「別冊問答集」問13-5の答には,「原則として当該資力を限度として支給した保護金品の全額を返還額とすべきであるが,保護金品の全額を返還額とすることが,当該世帯の自立を著しく阻害すると認められるような場合については,次の範囲においてそれぞれの額を本来の要返還額から控除して返還額を決定する取扱いとして差し支えない。」とされており,消費した生活費を自立更生費として認めることができる旨の記述はありませんが,「保護金品の全額を返還額とすることが当該世帯の自立を著しく阻害すると認められるような場合については,次の範囲においてそれぞれの額を本来の要返還額から控除して返還額を決定する取扱いとして差し支えない。」とされています。

 私は,過払いとなった保護費のほとんどを消費済みであり,返還すべき保護費は手元になく,保護金品の全額を返還額とすることは,最低生活費を下回る生活を強いられ,当該世帯の自立を著しく阻害すると考えられますので,本来の要返還額から一定額を控除して返還額とすることができると考えます。

 また,生活保護法第63条には,「被保護者が,急迫の場合等において資力があるにもかかわらず,保護を受けたときは,保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して,すみやかに,その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。」と定められており,消費した生活費を自立更生費として認めてはならない旨の規定はありません。

 さらに,大野城市の事案における福岡地裁判決(平成26年3月11日)では,「保護手帳は,自立更生費については,① 浪費した額, ② 贈与等当該世帯以外のために充てられた額, ③ 保有が容認されない物品等の購入に充てられた額は該当しないと規定しているにすぎないことからすると,一定の生活費についても自立更生費に該当すると解釈することも可能と解される。」とし,一定の生活費についても自立更生費に該当すると解釈することも可能と解されると判示しており,この福岡地裁の判決については,大野城市が控訴しなかったため,同市の敗訴で判決が確定しています。

 また,東京都の事案における東京地裁判決(平成29年2月1日)では,「本件全証拠によっても,本件処分に至る過程で,東京都A福祉事務所長において,本件処分当時の原告の資産や収入の状況,その今後の見通し,本件過支給費用の費消の状況等の諸事情を具体的に調査し,その結果を踏まえて,本件過支給費用の全部又は一部の返還を たとえ分割による方法によってでも求めることが,原告に対する最低限度の生活の保障の趣旨に実質的に反することとなるおそれがあるか否か,原告及びその世帯の自立を阻害することとなるおそれがあるか否か等についての具体的な検討をした形跡は見当たらない。 (略) このような,専ら東京都D福祉事務所の職員の過誤により相当額に上る生活保護費の過支給がされたという本件過支給が生じた経緯に鑑み,また,法63条の規定が不当に流出した生活保護費用を回収して損害の回復を図るという側面をも趣旨として含むものと解されることを併せ考慮すれば,本件過支給費用の返還を義務付けることとなる処分が,処分行政庁側の過誤を被保護者である原告の負担に転嫁する一面を持つことは否定できず,本件過支給費用の返還額の決定に当たっては,損害の公平な分担という見地から,上記の過誤に係る職員に対する損害賠償請求権の成否や これを前提とした当該職員による過支給費用の全部又は一部の負担の可否についての検討が不可欠であるものというべきである。 ところが,本件全証拠によっても,本件処分に当たり,上記のような検討がされたものとはうかがわれないから,そのような検討を欠いたままで本件過支給費用の全額の返還を原告に一方的に義務付けることとなる本件処分は,社会通念に照らして著しく妥当性を欠くものといわざるを得ない。」と判示しており,東京都は,この判決に対して控訴しなかったため,都の敗訴で判決が確定しています。

 東京地裁の判決では,「たとえ分割返還であっても,原告に対する最低限度の生活の保障の趣旨に実質的に反することとなるおそれがあるか否か,原告及びその世帯の自立を阻害することとなるおそれがあるか否か等についての具体的な検討する必要があり,また,本件過支給費用の返還を義務付けることとなる処分が,処分行政庁側の過誤を被保護者である原告の負担に転嫁する一面を持つことは否定できず,本件過支給費用の返還額の決定に当たっては,損害の公平な分担という見地から,上記の過誤に係る職員に対する損害賠償請求権の成否や,これを前提とした当該職員による過支給費用の全部又は一部の負担の可否についての検討が不可欠であるものというべきであるが,本件全証拠によっても,本件処分に当たり,上記のような検討がされたものとはうかがわれないから,そのような検討を欠いたままで本件過支給費用の全額の返還を原告に一方的に義務付けることとなる本件処分は,社会通念に照らして著しく妥当性を欠く。」との判断を示しており,分割返還したからと言って,返還額の合計額が変わるわけではなく,毎月の返還額を少額にすれば,それだけ返還期間が長くなり,長期間にわたって最低生活費以下の生活を強いることになることから,返還処分の適法性が認められるものではありません。

 したがって,行政不服審査法第5条に基づき,本件審査請求を行うものです。

 

6 処分庁の教示の有無及びその内容

 保護変更決定通知書に付記された教示文により,「この決定に不服があるときは,決定のあったことを知った目の翌日から起算して60日以内に県知事に対し,審査請求することができる」旨の教示を受けた。

 

7 本件の審査については,行政不服審査法第25条1項ただし書による口頭審理,及び同法33条2項による処分庁から提出された書類その他の物件の閲覧を求めます。

 

 

 

(添付資料)

1 平成29年2月1日 東京地方裁判所判決  086893_hanrei.pdf (courts.go.jp)

 

2 大野城市63条返還及び住宅扶助特別基準設定事件(福岡地裁 平成26年3月11日判決)

【事案の内容】

 生活保護を受給していた原告が、処分行政庁から、①処分行政庁が原告の受給していた厚生年金を看過して生活保護費の過誤払いを行ったところ、生活保護法63条に基づきその全額の返還を命じられた処分、②転居するにあたって住宅扶助費(家賃)月額4万3600円の申請に対し、実施機関かぎりで認定できる上限額である月額4万1100円と認定された処分、③転居に要する敷金を支給する旨の申請に対し、これを支給しない旨の処分を受けたため、これらの各処分の取消しを求めて提訴した。

 

【問題の所在】

(1)法63条は「…資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは…その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。」と費用返還義務を定めるが、その判断枠組みが問題となる。

(2)被保護者に転居が必要な一定の場合に転居費用(敷金等)が支給されるが、転居先の家賃が特別基準額を超える場合にも敷金は支給されるか。(現在の運用では、実施要領の規定を形式的に解釈し、転居先の家賃が特別基準額を超える場合には敷金支給が一切認められない。)

 

【判断】

(1)法63条の適用について

 法63条の適用について、最高裁判決(平成18年2月7日第三小法廷判決)を参照し、「保護の実施機関が、返還額決定について有する裁量は、全くの自由裁量ではなく、返還額の決定に当たり、自立更生のためのやむを得ない用途にあてられた金品及びあてられる予定の金品(以下、併せて「自立更生費」という。)の有無、地域住民との均衡、その額が社会通念上容認される程度であるか否か、全額返還が被保護者世帯の自立を著しく阻害するかという点について考慮すべきである」、「その裁量権の行使が逸脱濫用に当たるか否かの司法判断においては、その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が重要な事実を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くと認められる場合に限って、裁量権の逸脱又は濫用として違法となる」として、本件については原告の生活実態や収入、過誤払いの額、原告が過誤払いを知らなかったこと、原告が過誤払金を浪費したとの事実は認められないこと等を踏まえて、処分取り消しを認めた。

 

(2)住宅扶助費について

   転居の必要性を認めたが、裁量権の逸脱・濫用を認めなかった。

 

(3)転居費用(敷金支給)について

 実施要領の規定が、特別基準額「以内の家賃又は間代を必要とする住居に転居するとき」としているものの、これは「特別基準額に3を乗じて得た額の範囲内であれば、処分行政庁において、必要な額を認定して差しつかえない旨を定めたものにすぎない」として、支給することの可否等について厚生労働省に情報提供するなどして検討すべきであったのに、形式的判断により敷金相当額を一切支給しなかったもので、裁量権の逸脱・濫用があったとして、処分を取り消した。(一審で確定)

 

 

 

 

<生活保護と老齢年金(後編)> 【問】年金制度は,このままでは 将来 破綻するという人がいますが,本当に破綻するのでしょうか。

 私は 国民年金を40年間 満額を支払いましたが,老齢基礎年金が月額66,250円(令和5年度)しか支給されず,預貯金を使い果たしたため,生活保護を受けるかどうか 迷っています。

 国民年金を40年間 満額を支払っても,老齢年金が月額66,250円しか支給されないならば,生活することができず,生活保護を受けざるを得ません。

 これって,おかしくないですか。 いくら預貯金を貯めていても,老齢年金を月額66,250円しか受け取ることができないならば,預貯金を取り崩して生活するしかなく,長生きすればするほど,預貯金を早く使い果たし,生活保護に頼るしかありません。 国が,年金制度の制度設計を間違っていたとしか思えないのです。

 

 また,現在,高齢者1人を現役世代2人で支えていますが,2065年には 高齢者1人を現役世代1.3人で支えることになると言われています。 そのため,年金制度は いずれ破綻すると言う人がいますが,本当に破綻するのでしょうか。

 

 

【答】

 (このブログの9月3日の「生活保護と老齢年金(前編)」から続く。)

  サラリーマンなどの厚生年金に加入している人の中には,時々,国民年金保険料よりも厚生年金保険料の方が高いので,国民年金より厚生年金の年金額が多いのは当たり前だ という人がいますが,それは一部の要素であって,厚生年金に加入している人については,会社(雇用主)が,本人が支払っている厚生年金保険料と同額の厚生年金保険料を支払っていますので,国民年金だけに加入している人と比べて,その分 受け取る老齢年金の額が多くなります。

 

 年金制度は,平成27年9月までは「国民年金」,「厚生年金」,「共済年金」等に別れていましたが,平成27年10月に厚生年金と共済年金一元化され,厚生年金に統合されましたので,1階部分が 老齢基礎年金(国民年金),2階部分が 老齢厚生年金(厚生年金),3階部分厚生年金基金企業年金)となっており,国民年金しか加入していなかった方は,1階部分の老齢基礎年金しか受け取ることができないため,受給する年金額も少なくなります。

 

 また,国民年金に加入している人には,国民年金基金があり,亡くなるまで一生涯 受け取ることができる「終身年金」と,一定期間 受け取ることができる「確定年金」がありますが,任意加入であり,収入が多い人しか加入しないため,加入者数はまだ少ないようです。

 

 次に,厚生年金には遺族年金があり,老齢厚生年金を受け取っていた夫が亡くなっても,その妻は,夫が受け取っていた老齢厚生年金の報酬比例部分の75%(ただし,細かい規定があります。)の遺族厚生年金を受け取ることができます。

 一方,国民年金にも遺族基礎年金がありますが,支給対象者が18歳未満の子がいる配偶者と子となっており,遺族厚生年金よりも支給要件が厳しくなっています。

 

 ご存じの方も多いと思いますが,平成19年2月から消えた年金記録問題」が発生しました。 例えば,私が担当していた「高木」氏は,「タカギ」と「タカキ」の2つの読み方があるため,「タカギ」の名前での年金加入期間は23年6月で 25年未満でしたので,年金受給資格の25年を満たすために,1年6月の任意加入を検討していた。 しかし,その後,「タカキ」の名前で加入期間が3年あることが判明し,2つの年金記録を統合した結果,加入期間が26年6月となり,老齢年金の受給期間を満たすことが分かりました。

 つまり,同一人物にもかかわらず,2つの年金記録があり,それが統合されていなかったものであり,そのような事例がいくつもありました。 例えば,「光希」を「コウキ」や「ミツキ」,「剛志」を「ツヨシ」や「タケシ」の名前で記録されているものもありました。

 

 また,会社が 厚生年期保険料を本人から徴取したにもかかわらず,それを会社で使ってしまい,社会保険事務所に納めていなかったということもありました。

 

 この消えた年金記録問題」は,今,思い出しても,相当 酷いものでした。 同じ行政機関でありながら,社会保険庁社会保険事務所のいい加減な事務処理に怒りを覚えたものです。 これが原因で,私たちケースワーカーも,その対応にかなりの時間をとられ 振り回されました。

 社会保険庁社会保険事務所は,組織が改変され,日本年金機構年金事務所に変わりましたが,中身は 社会保険庁社会保険事務所から抜本的に変わったのでしょうか。 名称が変わっただけではないのでしょうか。

 

 令和4年10月現在,65歳以上の高齢者の割合は29.1%で,世界で最も高齢者の割合が高く,これを生産年齢人口(15歳~64歳)59.4%で支えていますので,高齢者1人を生産年齢人口2人で支えることになります。 しかし,国民年金の加入年齢は20歳から59歳までですので,年金制度については,高齢者1人を1.7人(20歳~59歳の人口)で支えることになります(ただし,厚生年金や共済年金加入者がいて,厚生年金の加入年齢は70歳までですので,実際は 1.7人より少し多くなると思われます。  また,2065年には高齢者1人を現役世代1.3人で支えることになると言われています。)。

 

 つまり,年金制度は「積立方式」でなく,「賦課方式」のため,高齢者を現役世代が支えることになるわけです。 「賦課方式」とは,年金支給のために必要な財源を,その時々の保険料収入から用意する方式であり,現役世代から年金受給世代への仕送りに近いイメージです。

 

 また,年金制度は いずれ破綻するという人がいますが,政府は 年金制度を破綻させないために,「① 年金支給開始年齢を引き上げる(年金受給者の増加を抑える), ② 年金加入者を増やす(年金制度を支える人を増やす), ③ 年金支給額を引き下げる」という方法を実施しています。

 

 まず,「① 年金支給開始年齢を引き上げる(年金受給者の増加を抑える)」については,厚生年金・共済加入者の老齢年金支給開始年齢は,以前は60歳でしたが,段階的に引き上げられ,令和5年度現在では,男性は64歳,女性は62歳となっています(国民年金の老歴基礎年金の支給開始年齢は,以前から65歳です。)。 厚生年金・共済加入者の老齢年金支給開始年齢が65歳になる時期は,男性は令和8年度,女性は令和13年度となっていますが,老齢年金の支給開始年齢は,いずれ段階的に65歳から70歳に引き上げられるでしょう。

 

 また,「② 年金加入者を増やす(年金制度を支える人を増やす)」については,国民年金の加入期間が60歳から65歳に引き上げることが検討されていますし(厚生年金の加入期間は,現在70歳です。),厚生年金や健康保険の加入要件が緩和され,パート従業員等も,会社の従業員数や勤務時間に応じて,段階的に厚生年金や健康保険への加入が義務付けられています。

 

 次に,「③ 年金支給額を引き下げる」については,平成30年4月から年金額の算定方法には,マクロ経済スライド方式が導入され,年金額改定率が 物価上昇率を下回っており,実質的な年金額の引き下げが始まっています。

 

 さらに,老齢年金の支給開始年齢が65歳から70歳へ引き上げられた場合は,退職年齢も60歳から65歳に引き上げられるとともに,就労希望者は70歳まで再雇用されるよう制度が改正され,多くの人が,老齢年金の支給開始年齢の70歳まで働かざるを得ないということになるでしょう。

 

 また,国民年金保険料の納付免除制度には,「法定免除」と「申告免除」があり,生活保護を受けて方は「法定免除」のため,納付免除申請を行っていなかったとしても,生活保護開始日までさかのぼって,国民年金保険料は納付免除されますが, 生活保護を受けていても外国籍の方は,「法定免除」ではなく「申告免除」のため,最大2年1月までしかさかのぼって 国民年金保険料は納付免除されず,1年1回,申請免除手続きを行う必要があります。

 

 ケースワーカーの中には,このことを知らず,生活保護を受けている外国籍の方に対して,国民年金保険料の申請免除手続きを指導していなかったため,老齢基礎年金の受給資格を満たさず,65歳になっても老齢基礎年金を受給できない方が毎年一定数生じます。

 このため,生活保護を受けている外国籍の方の担当を引き継いだ後に,国民年金保険料の申請免除手続きを行っておらず,65歳になっても老齢基礎年金を受給できないことを知って,ガッカリしたことが何度もありました。

 

 現在,高齢者の定義は65歳以上となっていますが,昔とは違い,65歳以上でも元気な人は多いので,いずれ高齢者の定義は70歳以上に引き上げられ,働ける人は,70歳まで働くことが当たり前の社会になるのでしょう。

 

 年金制度等について,このように書いてきますと,暗い未来しか思い描くことができないのですが,国は 年金制度が,いずれこのような事態になることは,出生率の低下や年齢推計人口等から,早い時期に分かっていたことであり,これらの問題を解決せずに 先送りしてきたため,そのツケが 少しずつ表に出てきたと思われます。

 また,私たち世代も,政府を動かすような有効な行動・手段を取ることができず,抜本的な年金制度改革や社会保障制度改革を進めることができずに,溜まったツケを若い世代の人に渡してしまうことを心苦しく思います。

 

 しかし,世の中には「棚から牡丹餅」ということはあり得ません。 何もせずに ただ黙って待っていても,上の世代の人たちは,自分たちのことだけで精一杯であり,若い世代の人たちのことを考える余裕はありません。 残念ながら,自分たちだけ良ければ それでよいと考える人たちの方が,数が多いのです。 若い世代の人たちが,何も見ずに,何も行動せずに,だだ黙って見ていると,この世の中の仕組みは,上の世代の人たちから 自分たちの都合の良いようにされてしまいます。

 

 したがって,40年間 国民年金をかけても,年金等を月額 約7万円しか受け取ることができないのであるならば,国民年金に加入している人の多くは,生活保護を受けなければ,生活ができないということになりますので,私の結論は,あなたと同じで,現行の年金制度については,制度設計を間違っており,国が 問題の解決を先送りしてきた結果と言わざるを得ないと思います。

 

 そのため,政府や国会,議員の活動内容等を絶えず注視し,声を上げていく必要があります。

 「天は自ら助くる者を助く」という「ことわざ」があるとおり,自ら動かないと,自ら行動しないと,誰も助けてくれません。 「助けて」と声を上げることによって,周りの誰かが助けてくれることがあります。

 

 したがって,生活保護費や生活保護の運用に関して疑問があれば,役所の担当者に質問し,それでも疑問があれば,このブログに質問し,必要に応じて,法テラスを通じて弁護士等に相談の上,都道府県知事に審査請求を行いましょう。 行動しないと,役所は  いくら待っても 変わらないのです。

 なお,後日,このブログに参考として,生活保護の審査請求の記入例を載せたいと思います。

 

<生活保護と老齢年金(前編)> 【問】老齢年金の支給額が少ないため 生活できず,生活保護を受けるかどうか 迷っています。

 私は 国民年金を40年間 満額を支払いましたが,老齢基礎年金が月額66,250円(令和5年度)しか支給されず,預貯金を使い果たしたため,生活保護を受けるかどうか 迷っています。

 国民年金を40年間 満額を支払っても,老齢年金が月額66,250円しか支給されないならば,生活することができず,生活保護を受けざるを得ません。

 これって,おかしくないですか。 いくら預貯金を貯めていても,老齢年金を月額66,250円しか受け取ることができないならば,預貯金を取り崩して生活するしかなく,長生きすればするほど,預貯金を早く使い果たし,生活保護に頼るしかありません。 国が,年金制度の制度設計を間違っていたとしか思えないのです。

 

 

【答】

 現在,生活保護を受けている世帯のうち,高齢者世帯(65歳以上)の割合は 55.6であり,高齢者世帯のうち,単身者世帯の割合が 92.6%を占めていますので, 生活保護を受けている世帯の 51.5%が,単身高齢者世帯ということになります(以上は 令和5年5月現在の数値)。 この割合は,今後,ますます増加していくでしょう。

 

 国民年金の加入期間は,20歳の誕生日の月から60歳の誕生日の前月までの40年間ですが,40年間 満額を支払っても,あなたが言われるとおり,老齢基礎年金を月額66,250円(令和5年度)しか受け取ることができません。

 また,消費税率が8#から10%に引き上げられた 令和元年10月より年金生活者支援給付金制度が始まり,年金等の収入が少ない方(前年の年金等の収入が 約88万円以下)については,年金とは別に 月額5,140円(令和5年度:非課税)の年金生活者支援給付金が支給されるようになりました。 しかし,老齢基礎年金と年金生活者支援給付金を合わせても,月額71,390円にしかなりません。

 

 一緒に生活する家族がいて,家賃を支払う必要がなく,その全額を 食費や衣類費,医療費などの自分だけの消費に使えるのであれば,月額71,390円でも十分に生活できると思いますが,単身世帯の場合は,月額71,390円では,自宅が持ち家で 家賃を支払わなかったとしても,生活はギリギリであり,医療費などは捻出できません。

 

 それに,受け取る年金額等が月額71,390円であっても,国民健康保険料が月額 約1,600円,介護保険料が月額 約2,000円を支払う必要がありますので,手元に残る金額は月額67,790円で,これでは最低生活費以下の生活を強いられることになり,病院にかかることもできません(なお,上記の国民健康保険料と介護保険料は,市町村によって異なります。)。

 

 例えば,1級地-2(政令指定都市等)の70歳の単身世帯の生活保護の生活扶助費(最低生活費)は 月額71,690円であり,上記の月額67,790円では,生活保護の基準額(最低生活費)を3,900円下回りますので,預貯金の額が少ない場合は,生活保護を受けることができます。

 

 今までは,自宅が持ち家で 家賃を支払わなかった場合の事例ですが,賃貸住宅に住んでいる場合は,これに住宅扶助費(家賃)の上限額 月額35,000円が加わり,最低生活費は 106,690円(=生活扶助費71,690円+住宅扶助費35,000円)となりますので,年金収入の月額71,390円(年金生活者支援給付金 月額5,140円を含む)では,とても生活していけないことになります。

 

 仮に夫婦で 持ち家に住んでいて 家賃を支払う必要がなく,老齢基礎年金と年金生活者支援給付金を月額 計7万円,夫婦2人で月額14万円を受け取ることができれば,生活保護を受けずに生活できると思いますが, 夫婦の片方が亡くなり,単身世帯となったときは,持ち家に住んでいて 家賃を支払う必要がないとしても,月額7万円であれば,医療費を捻出することは難しいので,生活保護を受けざるを得なくなるわけです。

 また,子ども世帯も,この失われた30年間に収入が増えなかったため,親に仕送りをする余裕がなくなりました。 その結果,生活保護を受けている世帯の51.5%(令和5年5月)単身高齢者世帯ということになったわけです。

 

 時々,生活保護の最低生活費が 年金額よりも高いのは おかしいという人がいますが,それは逆の考え方であり,本当は 生活保護の最低生活費よりも年金額が少ないことの方が問題なのです。

 

 また,平成29年7月までは,国民年金と厚生年金の納付期間と納付免除期間の合計が25年以上なければ,老齢年金を全く受け取ることができませんでした。 仮に年金を24年間かけていても,25年に満たないため,老齢年金を1円も受け取ることができなかったわけです。

 しかし,平成29年8月から老齢年金の受給資格期間が25年から10年に短縮され国民年金と厚生年金の納付期間と納付免除期間の合計が10年あれば,老齢年金を受け取ることができるようになりました。 ただし,実際に受け取ることができる老齢年金の額は,納付した期間・保険料によりますので,納付期間が短ければ,受け取ることができる老齢年金の額も少なくなります。

 

 老齢年金の受給資格期間が25年から10年に短縮されたとは言ながら,いくら年金保険料を支払っていても,その期間(納付免除期間を含む)が10年に満たないときは,1円も年金をもらえないというのは,どこかおかしな制度であると思います。

 これでは,年金保険料を支払わずに,その分を銀行等に預金していた方がよいと考える人がいても,やむを得ないでしょう。 このおかしな制度は,どうにかならないものでしょうか。 10年未満の場合は,支払った年金保険料を全額返せとは言いませんが,せめて半分くらいは返してもよいのではないかと思います。

 しかし,国は,国民年金は強制加入だから,保険料を納付しなかった人が悪いということで,納付期間と納付免除期間の合計が10年未満の場合は,納めた保険料を全く返還しないのでしょう。

 

 それでは,年金保険料をかけずに,その分を銀行等に預金していた方がよいのでしょうか。 それが,そうとも言えないのです。 それは,国民年金保険財政に多額の税金が投入されているからです。

 

 令和3年度の国民年金財政を見ますと,保険料収入が30.0%,税金が49.5%,その他が20.5%となっています。 つまり,国民年金財政では,保険料収入よりも税金が占める割合が大きくなっているわけです。 本来は,保険料収入と税金の占める割合は同じであるはずですが(原則は5割が税金(国庫負担)),国民年金保険料の未納者や納付免除者が増加したこと(令和4年度の国民年金保険料の納付率は76.1%)や,年金生活者支援給付金制度が開始されたこと等により,保険料収入よりも税金が占める割合が大きくなっているのではないかと思われます。

 したがって,年金保険料を支払わずに,その分を銀行等に預金するよりも,年金保険料を支払い,老齢年金を受け取った方が,税金投入分は 受け取る金額が多くなります。

 

 それに,預貯金の場合は,長生きしたときは,預貯金を取り崩した後の期間は,金銭を全く受け取ることができませんが,年金の場合は,長生きしても,生きている間は老齢年金が支払われますので,年金額が少ないにしても,安心感があります。

 

 しかしながら,40年間 国民年金をかけても,月額71,390円(年金生活者支援給付金を含む)しか受け取ることができないならば,国民年金加入者は,その多くの人が,生活保護を受けなければ,生活ができないということになってしまいます。 こんな年金制度なんて,制度設計自体が間違っていたと言わざるを得ません。

 

 ですが,国の年金担当者は,仮に月額10万円の老齢年金を支払うならば,国民年金保険料を 従来の1.5倍以上に増やす必要があり,その場合は,月額16,520円(令和5年度)の国民年金保険料を,月額 約25,000円に引き上げる必要があるので,加入者の負担が大きすぎて,保険料を支払うことができない人が増えてしまうと言うのでしょう。

 しかし,国は,いずれこのような事態になることは,出生率の低下や年齢推計人口等から,早い時期に分かっていたことであり,これらの問題の解決を先送りしてきたため,そのツケが 今になって表に出てきたとしか思えません。

 

 年金制度について書き始めると長くなりますので,前編と後編の2回に分けて掲載することにします。 前編はここまでとし,後編については,後日,掲載します。

 

 

<生活保護と税金滞納> 【問】生活保護を受けると,生活保護を受ける前に滞納した税金の支払いは,どのようになるのですか。

 私は 最近 生活保護を受け始めましたが,生活保護が開始されると,所得税や住民税は課税されないと聞きました。 しかし,私が 生活保護を受ける前に滞納した税金の支払いは,どのようになるのですか。

 

【答】

 インターネットや書籍等で調べますと,生活保護を受ける前に滞納した税金については,次のとおり執行停止」扱い等となり,生活保護受給中は,基本的に請求されることはありません執行停止期間が3年間経つと,納入義務は消滅となります。」と記載されていますので,納付について心配しなくてもよいと思います。

 

 また,生活保護を受けると,自宅が持ち家のときは,その固定資産税が免除されますし,国民年金保険料の納付免除,NHK受信料の免除,住民票等の交付手数料の免除(市町村で異なる)を受けることができます。

 

 さらに,国民健康保険には加入できなくなりますので,国民健康保険の資格を喪失し,国民健康保険料を支払う必要がなくなります(医療費は,医療扶助として福祉事務所から病院へ直接支払われます。)。

 

生活保護受給前に滞納した税金の取扱いについて>

○ 税金の滞納分については,自治体によって多少の対応は違うかもしれませんが,執行停止」扱い等となり,生活保護受給中は,基本的に請求されることはありません。 執行停止になった滞納税は,いきなり消滅するわけではありませんが,執行停止期間が3年間経つと,納入義務は消滅となります

 

生活保護の受給は,地方税法第15条の7第1項第2号の「滞納処分をすることによって,その生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき。」に該当しますので,滞納処分の執行停止がなされるのが通常です執行停止がなされると,新たな滞納処分をすることができなくなり,2号の執行停止をした場合において差押中の財産があれば,差押えを解除しなければならないとされています(同条3項)。

 

 生活保護が廃止になると,「滞納処分をすることによって,その生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき。」に該当しなくなりますので,執行停止も取消しとなりますが,生活保護が継続すれば,執行停止も継続し,執行停止が3年継続した場合には,執行停止の対象となった租税は,絶対的に消滅します(同条第4項)。

 ただし,3年が経過する前に,税の消滅時効である5年が経過した場合には,時効完成時点で,税は絶対的に消滅します。 債権差押えの場合には,取立ての日の翌日から,差押解除の場合には,解除の日の翌日から,それぞれ時効期間が進行します。

 

 執行停止は,職権でなされるものであり,申立てによってなされるものではありません。 ただし,生活保護の受給によって,ほぼ2号の執行停止がなされるのが通常です。 特に,市町村税の場合には,福祉課(福祉事務所)から税務課への内部連絡によって,税務課は,直ちに生活保護の開始を認識しますし(税務署⾧や県税事務所⾧は,生活保護の開始の有無を市町村に文書照会しますので,その認識は遅くなります。),生活保護受給者から税を徴収すると,納税資金を提供するため生活保護費を支給する結果となりますので,直ちに2号の執行停止がなされるのが通常です。

 

 

(参考)

地方税法

 第15条の7(滞納処分の停止の要件等)

 地方団体の⾧は,滞納者につき次の各号の一に該当する事実があると認めるときは,滞納処分の執行を停止することができる

 ① 滞納処分をすることができる財産がないとき。

 ② 滞納処分をすることによってその生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき

 ③ どの所在及び滞納処分をすることができる財産がともに不明であるとき。

2 地方団体の⾧は,前項の規定により滞納処分の執行を停止したときは,その旨を滞納者に通知しなければならない。

3 地方団体の⾧は,第1項第2号の規定により滞納処分の執行を停止した場合において,その停止に係る地方団体の徴収金について差し押えた財産があるときは,その差押を解除しなければならない

4 第1項の規定により滞納処分の執行を停止した地方団体の徴収金を納付し,又は納入する義務は,その執行の停止が3年間継続したときは,消滅する。

5 第1項第1号の規定により滞納処分の執行を停止した場合において,その地方団体の徴収金が限定承認に係るものであるときその他その地方団体の徴収金を徴収することができないことが明らかであるときは,地方団体の⾧は,前項の規定にかかわらず,その地方団体の徴収金を納付し,又は納入する義務を直ちに消滅させることができる。