生活保護の審査請求をしよう

生活保護の質問に答えます。役所の決定に疑問があったら、生活保護の審査請求をしましょう。

<生活保護と障害年金(後編)> 【問】私は うつ病で,障害年金の受給可能性があるので,裁定請求手続きを行うよう指導を受けていますが,なぜ手続きを行わなければならないのですか。

 私は うつ病で,障害年金の納付要件を満たしており,病状的にも障害年金に該当するので,ケースワーカーから,障害年金の裁定請求手続きを行うよう指導を受けています。

 しかし,障害年金の裁定請求手続きは,「病歴・就労状況等申立書」の作成など,老齢年金の裁定請求手続きと比べてかなり難しく,手続きがなかなか進まないため,途中でイヤになって,手続きを辞めようかと思っています。

 ですが,ケースワーカーからは,障害年金2級以上を受給できるようになると,障害者加算を支給できて,今より生活が楽になるので,手続きを行うよう何度も言われます。

 そこで,何かアドバイスがあったら,お願いします。 (【問】は「前編」と同じ)

 

 

【答】

(「前編」から続く)

 このブログの9月24日の記事「生活保護障害年金(前編)」の最後に「厚生労働省は,社会保険労務士障害年金の裁定請求手続きを委託し,その結果,障害年金を受給できたとしても,社会保険労務士報酬を必要経費として認めない考えのようです。

 しかし,その場合でも,自立更生費として認める可能性はあります。」と書きましたが,この理由は,都道府県(おそらく山梨県)の生活保護担当部署から厚生労働省への照会に対して,厚生労働省の次の回答があるからです。

 

 「 年金の裁定請求を保護開始申請前から社会保険労務士等に委任していた場合であって,保護開始後に裁定(支給決定)された場合,社会保険労務士への成功報酬等を必要経費として控除することは可能か。 なお,可能とした場合,保護受給中の者が委任した場合の取扱いも同様か。」

 

 「 年金の裁定請求を保護開始申請前から社会保険労務士等に委任していた場合に限り,次第8-3-(2)-ア-(イ)により,成功報酬等を必要経費として控除することとして差し支えない。 なお,保護受給中の場合には,福祉事務所の支援等により手続きを行うことが可能であると考えられることから,原則として社会保険労務士の成功報酬等を必要経費と認めることはできないものである。」

 

 しかし,この厚生労働省の回答は,どのように考えてもおかしなものです。 「福祉事務所の支援等により手続きを行うことが可能である」とは,老齢年金については可能かもしれませんが,障害年金については,福祉事務所の実態を何も知らない,厚生労働省の官僚の考えです。

 

 「生活保護障害年金(前編)」に書いたとおり,障害年金の裁定請求手続きは,老齢年金の裁定請求手続きと比べて,非常に手間もかかり 難しいものです。 ケースワーカー全体の中で,代理で障害年金の裁定請求手続きを行うことができる能力があり,実際に代理でその手続きを行ったことがある人は,せいぜい1割程度であり,多くても2割程度であると思います。

 私は ケースワーカー時代に,生活保護を受けている人の代理で,年金の裁定請求手続きを行ったことがありますが,老齢年金は約30件,障害年金は6件程度でした。 そのように障害年金の裁定請求手続きは,老齢年金と比べて,手間もかかるし難しいのです。

 そのような福祉事務所の実態や 障害年金の裁定請求手続きの難しさを知らずに,「福祉事務所の支援等により手続きを行うことが可能である」などと書けるものだと思います。 自分の無知をさらけ出すようなものです。

 

 例えば,生活保護の運用において,慰謝料請求訴訟等において,弁護士に依頼し慰謝料を受け取ったときは,弁護士費用は必要経費として慰謝料(収入)から控除することができます。

 また,不動産登記において,司法書士報酬も必要経費として不動産売却収入から控除することができます。

 

 ケースワーカーは,弁護士の業務を代理を行うことはできませんが,不動産登記において,ケースワーカーが 登記申請書の作成事務等の司法書士の業務を代理で行ったり,支援をしたりすることは可能です。 インターネットで調べると,登記申請書の書き方等は載っており,それを見ると簡単にできますし,私は個人的に自分で登記申請書を作成し,不動産登記を行ったことが何回もあります。 私の経験では,不動産登記手続きは,障害年金の裁定請求手続きと比べると,比較的簡単です。

 

 したがって,不動産登記において,司法書士報酬も必要経費として 不動産売却収入から控除することを認めているならば,当然,社会保険労務士報酬も必要経費として 年金収入から控除することを認めることができるはずです。

 そんなことも知らない,厚生労働省の官僚に,あのような回答を書いてほしくありません。

 

 しかし,あの厚生労働省の回答があるため,生活保護を受けている人が,社会保険労務士障害年金の裁定請求手続きを依頼し,障害年金を受給した場合に,社会保険労務士報酬を必要経費として控除することは難しいのでしょうか。

 ところが,上記の厚生労働省の回答は,照会を行った県以外の都道府県や市には通知してないのです。

 

 このような回答は,当然,全国の都道府県や市に通知すべきであると思いますが,不思議なことに,厚生労働省は,この照会以外のものでも,照会した都道府県にのみ回答し,他の都道府県や市には ほとんど通知していません。

 そのため,この厚生労働省の回答を知らない都道府県や市では,社会保険労務士報酬を必要経費として認めているところがあります。

 

 例えば,さいたま市では,社会保険労務士報酬を必要経費として認めなかったことに対して,平成27年4月10日に審査請求が行われ,埼玉県知事は,「本件社会保険労務士が行った具体的な手続は 相当軽易とは認められず,また請求人が本件社会保険労務士に手続の代行を依頼した経緯を参酌すると,本件における手続代行費用はこの規定に基づく必要経費として認定すべきものと判断される。 したがって,請求人の〇が遡及受給した障害年金にかかる法第63条に基づく返還金の決定において,年金請求手続に要した手続代行費用を必要経費として認定せずに行われた本件処分は不当である。」として,平成27年9月17日さいたま市の処分を取り消す裁決を出しました。 そのため,埼玉県では,現在でも,社会保険労務士報酬を必要経費として認めていると思われます。

 障害年金の裁定請求手続きの難しさを考えると,この埼玉県知事裁決は妥当なものであると思います。

 

 したがって,生活保護手帳や別冊問答集に載ってない事項については,厚生労働省にヘタに照会しない方がよいのかもしれません。 厚生労働省に照会して,その回答が 従来の運用と異なっていた場合は,厚生労働省の回答に従わざるを得ないからです。

 

 また,ある市では,社会保険労務士障害年金の裁定請求手続きを依頼した場合において,社会保険労務士報酬を必要経費として控除可能か否かについて照会したところ,厚労省からの回答は,上記のように,社会保険労務士報酬を必要経費として控除することは認められないが,真にやむを得ない事情があると場合は,自立更生費として控除することは可能であるという趣旨の回答があったそうです。

 そのため,その市では,社会保険労務士報酬を必要経費としては控除できないが,真にやむを得ない事情があるとときは,自立更生費として控除しているとのことでしたので,自立更生費として認められる余地はあると思います。

 

 このように,厚生労働省の考えが必ずしも正しいものではないのですが,生活保護事務の大部分が法定受託事務であるため,地方自治体は,原則として厚生労働省の通知・指導に従わざるを得ないのです。

 

 したがって,あなたは,福祉事務所に 次の埼玉県知事裁決書を提示して,社会保険労務士報酬を必要経費又は自立更生費として認めてもらえるか否かを相談し,認めてもらえるときは,インターネット等により,着手金なし・成功報酬のみで,障害年金の裁定請求手続きを引き受けてもらえる社会保険労務士を探し,その人に障害年金の裁定請求手続きを委託することを検討したらよいのではないかと思います。

 

 なお,福祉事務所には,社会保険事務所又は年金事務所の元職員を 年金調査員として配置していますが,この年金調査員は,老齢年金は詳しいのですが,障害年金については,あまり詳しくありません。

 したがって,障害年金制度に詳しい社会保険労務士を 年金調査員として雇用し配置した方がよいのではないかと思います。 そうすれば,障害年金の裁定請求手続きは,格段に進むでしょう。

 

 

(参考)

埼玉県知事裁決>

         裁  決  書

 

 

                     審査請求人 〇〇〇〇〇〇〇〇〇

 

                     処分庁   〇〇〇〇〇〇〇〇〇

 

 

 上記審査請求人(以下「請求人」という。)から平成27年4月10日付けで提起された,処分庁が平成〇年〇月〇日付け〇〇第〇〇〇〇号で行った生活保護法(以下「法」という。)第63条に基づく返還金決定処分(以下「本件処分」という。)に係る審査請求(以下「本件審査請求」という。)について,次のとおり裁決する。

 

                主  文

 本件処分を取り消す

 

                理  由

 第1 審査請求の趣旨及び理由

 本件審査請求の趣旨及び理由は次のとおりであり,本件処分は違法又は不当であると主張しているものと解される。

 

1 審査請求の趣旨

 本件審査請求の趣旨は,本件処分を取り消し,請求人の〇の年金請求手続に要した手続代行費用を必要経費として認めるよう求めるものと解される。

 

2 審査請求の理由

 審査請求の理由の要旨は,概ね次のとおりと解される。

 

 一般的に〇〇年金の請求手続は煩雑であり,〇〇〇〇を患う請求人の〇が請求手続を行う場合,専門家の援助が必要なことは明らかである。

 実際に,請求人の〇の年金請求手続は,〇〇〇〇に少なくとも2回,年金事務所に少なくとも5回出向いて対応に当たり,〇〇〇〇〇〇〇〇〇がわかる〇〇〇等の資料を用意するなど,多岐にわたり煩雑なものであった。

 請求人の〇は,当時独立して生活を営むことが困難な状態にあり,〇〇もなかったため,自身で上記のような手続を行うことは不可能であったと言える。

 請求人は,当時〇歳であった〇の世話と仕事のため,〇に代わって請求手続を行うことは不可能であった。

 請求人の〇及び〇は,それぞれ当時〇齢,〇歳と未成年であり,請求手続を行うことは不可能であった。

 以上から,年金請求手続を社会保険労務士に依頼することはやむを得ないことであり,手続代行費用は必要経費として認められるべきである。

 

 

第2 処分庁の弁明

 処分庁は弁明書により本件審査請求の棄却を求めており,その理由は次のとおりと解される。

 

 請求人は,〇〇年金の請求手続が煩雑であると主張しているが,請求人の〇の〇〇〇〇は一か所で終始しており,〇〇〇も本人が把握していたことから,資料の取り揃えに関して煩雑な手続きを踏むとは考えづらい。

 また請求人は,請求人らには手続能力がなかったと主張しているが,〇単身での手続は困難であるにしても,以下のとおり,請求人等の援助があれば受給権の確認は可能であったと考えられる。

 まず,請求人については,継続して就労しており体調面でも問題なく,十分な手続能力を有していたと考えられる。当時,請求人の〇は〇〇〇〇〇であり,〇は〇〇〇〇〇〇であったが,〇〇〇〇〇〇〇〇を利用しており,常時監護を要する状況ではなかったので,請求人が仕事の合間に〇に付き添って年金事務所に出向くことは十分可能であった。

 次に,別居状態ではあるが請求人〇と〇〇にある請求人の〇がおり,請求人咽と請求人世帯との交流状況を鑑みると,請求人の〇が請求人〇に付き添って年金事務所に出向くことも可能であったと考えられる。

 そもそも,処分庁は請求人に対し,年金請求手続について期限を定めるなど強く指導していたものではなく,年金の受給可否の確認のため請求人の都合のつく時間帯に〇に付き添って年金事務所に出向くよう指導していたものである。

 そのような指導に対し,請求人は報酬等の費用が発生することを認識しながら,処分庁に対して事前相談や問い合わせ,報告をせずに社会保険労務士との契約を締結し,担当ケースワーカーから費用の控除ができない旨伝えられた後もこの契約を継続したものである。

 以上により,請求人はその手続能力を十分に活用しておらず,処分庁から確実な確認を取らないまま処分庁の指導の範囲を超えて社会保険労務士との契約を締結し,更に控除は認められない旨を処分庁から伝えられた後も契約を継続していることから,手続代行費用は必要経費として認められるものではない。

 

 

第3 請求人の反論

 処分庁の弁明に対し,請求人から平成〇年〇月〇日付けで反論書が提出され,同年〇月〇日付けで反論書の追加補充書面,証拠説明書及び証拠書類が提出された。その趣旨は次のとおりと解される。

 

 処分庁は,請求人又は請求人の〇に手続能力があったと主張している。

 しかし,請求人は当時,パートタイムではあるものの,〇曜日から〇曜日及び第〇曜日の午前〇時から午後〇時まで就労していた。午後〇時から午後〇時頃まで残業をすることもよくあり,特にこの当時は午前〇時頃まで勤務しなければならないこともあり,平日の日中に1,2回でも〇〇や年金事務所を訪れることは困難な状況であったため,年金請求手続を行うことは不可能であった。

 請求人の〇については,当時,請求人世帯との交流はほとんどなく,請求人は〇が何処でどのように生活しているかについても知らない状況であったため,支援を期待することはできない状況であった。

 また処分庁は,年金請求手続が煩雑とは考えづらいとも主張している。

 しかし,〇〇〇〇〇による年金受給の可否基準は,〇〇〇〇の場合に比べ明確ではなく,専門家ではない請求人らが必要書類を作成することは極めて困難である。

 現に,請求人から依頼を受けた社会保険労務士が行った手続は,処分庁が考えている以上に多数存在しており,これらの手続を専門家ではない請求人らが行った場合は,さらに多くの時間的負担を強いられたことは間違いなく,請求人にはそのような時間的余裕はなかった。

 証拠として提出した厚生労働省の〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇において配布された資料においても,埼玉県が全国と比較して〇〇〇〇に基づく〇〇年金の受給が困難な地域であることが明らかとなっている。

 これらのことから,専門家が適確な資料を作成しなかった場合,受給の可否判断に影響することが考えられ,請求人の〇の年金請求手続においては,社会保険労務士等の専門家の介在が必要不可欠であったと言える。

 さらに処分庁は,請求人が処分庁に対し,事前相談拝問い合わせ,報告をしないまま社会保険労務士との契約を締結したと主張している。

 しかし,請求人は〇〇〇〇〇〇に相談した旨を処分庁の担当ケースワーカーに報告しており,請求人から相談を受けた社会保険労務士が平成〇年〇月に処分庁問合せを行った際には,請求人と契約を締結したこと及び発生する報酬の目安についても伝えている。

 年金請求手続の代行に要した費用を必要経費として認める取扱いについては,他県や他市において存在するので,他との均衡を欠くようなものでもない。仮に本件にかかる費用が高額であると判断されるにしても,その一切を認めないとする判断は不合理である。

 

 

第4 処分庁の再弁明

 請求人の反論に対し,処分庁から平成〇年〇月〇日付けで再弁明書が提出され,その趣旨は次のとおりと解される。

 

 請求人は,勤務状況から平日の日中に1,2回でも〇〇や年金事務所を訪れることが困難な状況にあり,煩雑な請求手続を行うためには何度も勤務を休まなければならなくなるため,不可能であったと主張している。

 しかし,請求人が処分庁に提出した給与明細書等から判断する限り,実際の就労日数は請求人が主張する日数には至っておらず,勤務状況を理由に手続能力がないとは言えない。

 請求人は,請求人の〇についても,ほとんど交流がなく生活状況も知らなかったことを理由に手続能力がなかった旨主張しているが,そもそも請求人の〇は請求人の〇にとって生活保護上の重点的扶養義務者であり,〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇にある者である。したがって,その協力は優先されるべきであり,処分庁が把握していた限り,当時,請求人の〇は請求人世帯との交流に前向きであり,それ相当の関わりがあったと考えられる。

 また請求人は,社会保険労務士が行った具体的な業務を挙げて,専門家による代行が必要であったと主張しているが,社会保険労務士が出向いた〇〇〇〇や年金事務所はそれぞれ一か所に終始しており,業務内容についても請求人らでは行うことが不可能なものは認められない。請求人が提出した厚生労働省の資料からも,埼玉県が〇〇年金の受給が困難な地域であることと請求手続が煩雑であることの因果関係は読み取れない。

 さらに請求人は,他県や他市において請求手続の代行費用が必要経費として認められている例があるとし,他との均衡を欠くものではないと主張しているが,そのような取扱いについて厚生労働省等からの通知等はなく,個々の事例に対する判断は処分庁に委ねられている。

 処分庁は平成〇年〇月〇日にケース診断会議を開催し,請求人の話や社会保険労務士から提出された資料を基に代行費用の取扱いについて再度検討して本件処分を行っており,本件処分は妥当であると考える。

 

 

第5 請求人の再反論

 処分庁の再弁明に対し,請求人から平成〇年〇月〇日付けで再反論書及び証拠書類が提出され,同年〇月〇日付けで証拠説明書2及び証拠書類が提出された。その趣旨は次のとおりと解される。

 

 処分庁は,請求人の1か月の勤務日数がおおよそ〇日未満であり,勤務状況を理由に手続能力がなかったとは言えないと主張しているが,勤務先の事情で〇日を下回った月もあるものの,それ以外はおおむね反論書において主張したとおりの勤務状況であり,請求手続を行う余裕はなかった。

 また処分庁は,請求人の〇が扶養義務者であり,請求人の〇との〇〇〇〇〇〇〇〇が存在していること及び請求人世帯とそれ相当の関わりがあったと主張しているが,請求人の〇が週に 1回程度請求人世帯を訪れていたのは1~2か月程度の期間のみで,その後は連絡もとれなくなり,請求人との交流は途絶えている。したがって,現実的に支援を期待することは不可能であった。

 さらに処分庁は,請求人が提出した厚生労働省の資料について,年金の受給が困難な地域であることと受給手続が煩雑であることとの因果関係は読み取れないと主張している。しかし,当該資料からは〇〇〇〇〇〇〇〇〇と〇〇〇〇〇〇〇〇〇について相関関係があることを読み取ることができ,このことは,〇〇〇〇〇に基づく〇〇年金の受給を十分に可能とするためには社会保険労務士等の専門家の介在が必要であるという主張を支える事実である。

 

 

第6 当庁の認定事実.

 調査したところ,次の事実が認められる。

 

1 請求人は,平成〇年〇月〇日から〇〇〇〇〇〇にて,請求人及び請求人の〇〇〇〇の〇人世帯で生活保護を受給していること。

当時,請求人はスーパー2店を掛け持ちしてパート就労を行っていたこと。

2 請求人は,平成〇年〇月末まででスーパー1店を退職したこと。

3 請求人は,平成〇年〇月〇日までで継続就労していたスーパー1店を退職したこと。

4 請求人は,平成〇年〇月〇日から「〇〇〇〇〇〇」でパート就労を開始したこと。

5 請求人の〇は,平成〇年〇月〇日付けで〇〇〇〇〇〇〇〇を取得し,請求人は同年〇月〇日,処分庁に当該〇〇の写しを提出したこと。

6 請求人は,平成〇年〇月末日までで「〇〇〇〇〇〇」を退職したこと。

また,〇〇〇〇〇〇を理由として,〇〇〇〇を受診したこと。

7 処分庁は,平成〇年〇月〇日,平成〇年〇月〇日及び同年〇月〇日に請求人世帯への家庭訪問を実施し,その際,請求人に対し〇の〇〇年金受給の可否について年金事務所へ出向き納付期間を確認するよう伝えたこと。

また,それまで請求人は〇〇年金の制度を知らなかったこと。

8 請求人は,平成〇年〇月〇日から「〇〇〇〇〇」でパート就労を開始したこと。

9 平成〇年〇月〇日,請求人は〇の年金請求手続について,電話で「〇〇〇〇〇〇〇」に相談し,同〇〇〇〇〇から社会保険労務士(本件社会保険労務士」という。)の紹介を受けたこと。

10 平成〇年〇月頃,請求人から〇の年金請求手続について相談を受けた本件社会保険労務士は,処分庁に対し,生活保護受給者が〇〇年金を得た際に,年金請求手続の代行費用が必要経費として認められるかについて電話にて問い合わせたこと。

11 平成〇〇年〇月〇日,請求人は,〇の年金請求手続の代行について本件社会保険労務士と契約を締結したこと。

12 平成〇年〇月頃,本件社会保険労務士は,請求人の〇の〇〇金請求手続を代行し,年金が支給された場合に,代行費用が必要経費として認められるかについて電話にて問い合わせたこと。

 また,この問い合わせに対し処分庁の担当ケースワーカーは,上司と検討の上後日回答する旨伝えたこと。

13 平成〇年〇月〇日,処分庁は,来庁した請求人に対し,代行費用が必要経費とは認められない旨伝え,請求人は「わかりました」と答えたこと。

14 平成〇年〇月〇日,処分庁は請求人世帯への家庭訪問を実施し,請求人から,社会保険労務士との契約は継続しており,現在〇〇年金の受給が可能か調査をしてもらっているとの旨聴取し,請求人に対し,結果が出た際には処分庁に連絡するよう伝えたこと。

15 平成〇〇年毎月衝日,請求人の〇の年金請求書が〇〇年金事務所に提出されたこと。

16 平成〇年〇月〇〇日,処分庁は請求人世帯への家庭訪問を実施し,請求人から,〇の〇〇年金の資料が揃ったため,先月年金事務所に審査を依頼し結果を待っているとの報告を受けたこと。

17 平成〇年〇月〇日付けで,本件社会保険労務士は処分庁宛て「〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇」と題する文書を送付したこと。

18 平成〇年〇月〇日,処分庁は請求人に対し,代行費用が必要経費とは認められない旨再度伝えたこと。

19 平成〇年〇月〇日付けで請求人の〇の年金給付が決定され,同年〇月〇日に年金証書の写しが処分庁に提出されたこと。

20 平成〇年〇月〇日付けで,本件社会保険労務士は請求人に対し,年金請求手続代行費用として〇〇〇〇〇円を請求したこと。

21 平成〇牢〇月〇日,請求人の〇の年金の初回支給分〇〇〇〇〇〇〇円が請求人の〇の銀行口座に入金されたこと。

22 平成〇年〇月〇日,処分庁はケース診断会議を開催し,年金請求手続の代行費用について,以下の理由により必要経費とは認められないとの判断をしたこと。

請求人が自身の判断で社会保険労務士に相談して契約直前に処分庁に報告があったものであり,その後,処分庁から必要経費とは認められない旨伝えたにもかかわらず,請求人の意思で契約を継続したものであるため。

23 平成〇年〇月〇日付けで,処分庁は法第63条に基づく返還金を決定し,請求人に通知したこと。

24 平成27年4月10日付けで,本件審査請求が提起されたこと。

25 処分庁から平成〇年〇月〇日付けで弁明書が提出されたこと.

26 請求人から平成〇年〇月〇日付けで反論書が提出されたこと。

27 請求人から平成〇年〇月〇日付けで反論書の追加補充書面,証拠説明書及び証拠書類が提出されたこと。

28 処分庁から平成〇年〇月〇日付けで再弁明書が提出されたこと。

29 請求人から平成〇年〇月〇日付けで再反論書及び証拠書類が提出されたこと。.

30 請求人から平成〇年〇月〇〇日付けで証拠説明書2及び証拠書類が提出されたこと。

 

 

第7 当庁の判断

1 法第4条第1項は,「保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」としている。

 

2 また,昭和36年4月1日付け厚生省発社第123号厚生事務次官通知「生活保護法による保護の実施要領について」(以下「次官通知」という。)の第6は,「他の法律又は制度による保障,援助等を受けることができる者又は受けることができると推定される者については,極力その利用に努めさせること。」としている。

 

3 年金等の収入を得るための必要経費について,次官通知の第8-3 (2) ア(イ)は,「交通費,所得税,郵便料等を要する場合又は受給資格の証明のために必要とした費用がある場合は,その実際必要額を認定すること」としている。

 

4 法第63条に基づく返還額の取扱いについて,同条は「被保護者は ‥‥ 保護の実施機関の定める額を返還しなければならない」としており,返還額については保護の実施機関の裁量に委ねている。

 また,平成21年3月31日付け厚生労働省社会・援護局保護課長事務連絡「生活保護問答集について」(以下「問答集」という。)の問13-5の答(2)は「保護金品の全額を返還額とすることが当該世帯の自立を著しく阻害すると認められるような場合については,次の範囲においてそれぞれの額を本来の要返還額から控除して返還額を決定する取扱いとして差し支えない。」とし,「エ 当該世帯の自立更生のためやむを得ない用途にあてられたものであって,地域住民との均衡を考慮し,社会通念上容認される程度として実施機関が認めた額」と定めている。

 さらに,平成24年7月23日付け社援保発0723第1号保護課長通知「生活保護費の費用返還及び費用徴収決定の取扱いについて」において,遡及して受給した年金収入にかかる自立更生費の取扱いについては,定期的に支給される年金の受給額の全額が収入認定されることとの公平性の観点から,真にやむを得ない理由により控除する場合は,被保護世帯が事前に保護の実施機関に相談することが必要であり,保護の実施機関として慎重に必要性を検討することとされている。

5 以上の見地から,本件審査請求について判断する。

 請求人が処分庁からの指導を受け,〇の〇〇年金受給に向けて年金請求手続を進めたことは,前記1及び2に照らし適正な行為であることは明らかである。

 しかし,その手続を社会保険労務士に代行させたことについて,処分庁は,請求人が処分庁の指導によるものではなく,自らの意思で本件社会保険労務士と契約し,処分庁から必要経費とは認められない旨伝えられた後も当該契約を継続したものであること,請求人が自らの持つ手続能力や扶養義務者の手続能力を十分に活用していないこと,また社会保険労務士への相談は社会通念上未だ一般的ではないことを理由として,前記3に基づく必要経費には該当せず,前記4に基づく控除の対象にも当たらないと判断し,本件処分を行っている。

 確かに,処分庁が主張するとおり,年金請求手続は,〇〇〇〇に係るものであっても,必ずしも社会保険労務士等の専門家でなければ行えないものとは認められない。また,請求人らが当該手続を行う能力を有していなかったとも言えない。

 しかし,請求人は当時,年金請求手続について十分な知識を有しておらず,就労や家事等を継続しながら当該手続を行うことが可能なのか,適確に判断ができる状態ではなかったと認められる。

 処分庁からの助言指導についても,年金受給の可能性の確認のため年金事務所に出向くようにとの指導はあったものの,年金受給に至るまでの具体的な諸手続の内容や手順等,請求人が自らの能力で手続を行えるかどうかを判断できるほどの内容であったとは認められず,また別居している父に当該手続の支援を依頼するようにとの助言もなされていない。

 このような状況下で,請求人が「〇〇〇〇〇〇〇〇〇」への相談を経て社会保険労務士に手続の代行を依頼したことは,やむを得ないものと認められ,前記1に反する行為とは言えない。

 その後においても,前記第6の9のとおり,請求人は処分庁に社会保険労務士との契約を継続して年金請求手続を進めている旨報告しているが,処分庁は請求人に対し,社会保険労務士による手続の代行に代わる方法を示すなどして社会保険労務士との契約を解除するよう促すような助言指導は行っていない

 したがって,代行費用が必要経費として認められない旨伝えられた後も,社会保険労務士による代行以外に年金請求手続を継続する方法を見出すことができなかった請求人が本件社会保険労務士との契約を継続したことは,やむを得ないものと認められる

 前記3に基づく必要経費は,相当軽易な場合を除き,請求手続の代行費用も含まれるものと解されるが,本件社会保険労務士が行った具体的な手続は相当軽易とは認められず,また請求人が本件社会保険労務士に手続の代行を依頼した経緯を参酌すると,本件における手続代行費用はこの規定に基づく必要経費として認定すべきものと判断される

 したがって,請求人の〇が遡及受給した〇〇年金にかかる法第63条に基づく返還金の決定において,年金請求手続に要した手続代行費用を必要経費として認定せずに行われた本件処分は不当である

 

 

第8 結論

 以上検討したとおり,本件審査請求には理由が認められるため,行政不服審査法第40条第3項の規定により主文のとおり裁決する。

 

     平成27年9月17日

                    審査庁 埼玉県知事 上 田 清 司