生活保護の審査請求をしよう

生活保護の質問に答えます。役所の決定に疑問があったら、生活保護の審査請求をしましょう。

<生活保護と申請後の義務> 【問】生活保護の申請後は,生活保護が決定してないにも関わらず,福祉事務所の指導に従う義務があるのですか。

 私は,先日,福祉事務所で生活保護の申請をして,申請書を受理してもらいました。 そのとき,まだ引っ越しが終わっていなかったので,数日後に兄の車を借りて自分で運転し,引っ越しを行う予定でしたので,そのことを担当ケースワーカーに言ったところ,そのケースワーカーから,生活保護の申請後は,車の運転をしないように言われました。

 しかし,私は,生活保護の申請をしたばかりで,まだ生活保護の適用が決定してないにもかかわらず,ケースワーカーから,車の運転をしないよう指導を受けることには納得できません。 私は,ケースワーカー(福祉事務所)からの指導に従う義務はあるのでしょうか。

 また,私が,生活保護の申請日から決定日までの間に,車の運転をして,それが福祉事務所に見つかったときは,私は,福祉事務所の指導に従わなかったことを理由に,生活保護の申請が却下されることはありますか。

 

 

【答】

 生活保護の申請後,生活保護の適用が決定した場合に,仮に生活保護の決定日から生活保護が適用されるのであれば,生活保護の申請日から決定日までの間は,福祉事務所の指導に従う「義務」はありませんが,その代わりに,申請日から決定日までの生活保護費を受けたり,医療費の支払い受けたりする「権利」もありません。

 

 例えば,突然の病気で病院に入院し 手術が必要になり,医療費などに困って生活保護の申請をしたとき(入院中で福祉事務所に行くことができないときは,電話による生活保護の申請が可能です。),生活保護の決定日から生活保護が適用されると,生活保護の申請日から決定日までの医療費などは,福祉事務所から支払われないことになります。

 

 そうなると,生活保護の申請をした人が,医療費の支払いに困るため,生活保護の適用が決定した場合は,生活保護の申請日に遡って 生活保護が適用され,日割で生活保護費が支給されたり,医療費が無料になったりしますので(権利),自動車の運転などについても,生活保護を受けている人と同様に,指導の対象になります(義務)。 つまり,「権利と義務」の関係です(厳密に言いますと,「生活保護申請後で,生活保護決定前の人に対する指導」は,「生活保護を受けている人に対する指導」とは 少し性質が異なり,前者は「依頼」に近いものですが,現実的には 福祉事務所の言うことに従わざるを得なくなります。)。

 

 例えば,生活保護申請後、生活保護決定前に,親や兄弟などから仕送りをしてもらったり,借金をしたりした場合は,生活保護が決定されると,申請日に遡って 生活保護が適用されますので,仕送りや借金は収入として認定され,生活保護費が その分 減額されることになります。

 

 

 次に,生活保護法では,車の運転まで禁止されているものではありません

 詳しくは,このブログの5月14日の記事「生活保護と自動車の運転」を見ていただきたいのですが,ケースワーカーの中には,「生活保護を受けている人は,自動車の運転をしてはならない。」と勘違いしている人が少なからずいます。 しかし,生活保護法には,「生活保護を受けている人は,自動車の運転をしてはならない。」とは,どこにも書かれていません

 

 それでは,なぜ ケースワーカーの中には,「生活保護を受けている人は,自動車の運転をしてはならない」と勘違いしている人がいるかと言いますと,生活保護手帳 別冊問答集」の「問3-20 他人名義の自動車利用」に,「自動車の使用は,所有又は借用を問わず原則として認められない。」と書かれているからです。

 

 しかし,この「問3-20 他人名義の自動車利用」をよく読むと,「特段の緊急かつ妥当な理由が無いにもかかわらず,遊興等 単なる利便のため 度々 使用することは,法第60条の趣旨からも,法第27条による指導指示の対象となるものである。」と記されています。

 

 つまり,この文章を逆に読むと,「特段の緊急かつ妥当な理由が無いにもかかわらず,遊興等単なる利便のため度々使用すること」は認められていませんが, 特段の緊急かつ妥当な理由があれば,又は度々使用するのでなく,年に数回 利用するのであれば,他人から自動車を借りて運転することは認められるということになります。

 厚生労働省は,わざと極端な例を挙げて,生活保護を受けている人は,自動車の運転が禁止されているかのような誤解を与えようとしているのです(全く姑息な手段だなあ。)。

 

 要するに,生活保護法では,生活保護を受けている人が,自動車を運転することまで禁止されているわけではないので(法律で禁止されてないことを,国の通知で禁止することは問題です。),年に2~3回,知人等から自動車を借りたり,レンタカーを借りて,荷物を運んだり,家族でドライブをしたりすることは,当然,許されるものです。

 

 したがって,あなたの担当ケースワーカーに,私のブログを印刷するか,スマホで見せて,「このブログは,ケースワーカー歴10年の人が書いたものです。」と言ってみてください。

 そのときは,ケースワーカーとのやり取りを 必ず録音してください。 録音をしてないと,後で必ず「言った。言わない。」と揉めることになります。

 

 それでも,担当ケースワーカーから,「このブログの内容は 間違っている。」と言われたときは,法テラスを通じて生活保護制度に詳しい弁護士や,各地の生活保護支援ネットワークなどの生活困窮者支援団体に,福祉事務所に同行してもらうか,又は 福祉事務所に申入れを行うことを相談してみてください。 福祉事務所は,弁護士や生活困窮者支援団体などには弱いものです。

 

 また,【問】の中の「生活保護の申請日から決定日までの間に,車の運転をして,それが福祉事務所に見つかったときは,私は,福祉事務所の指導に従わなかったことを理由に,生活保護の申請が却下されることはありますか。」ということについては,生活保護の申請を却下する理由にはなりません

 

 もしかすると,あなたが住む自治体の福祉事務所は,運転したことを理由に却下するような無謀なことをするかもしれません(ケースワーカーは,3~4年で異動しますので,福祉事務所の中には,勉強不足の人が多く,生活保護制度に詳しい人材が少ないため,信じられないことに,本当に いい加減な 誤った対応をするところが多いのです。)。 そのときは,すぐに2回目の生活保護の申請をしてください。

 2回目の生活保護の申請後に車の運転をしなければ,1回目の生活保護の申請後に運転したことを理由に,2回目の申請を却下することはできないので,生活保護は適用されます。

 

 そして,あなたが1回目の却下処分に納得できないときは,生活保護が適用された後で,法テラスを通じて生活保護制度に詳しい弁護士に相談し,1回目の生活保護の申請に係る却下処分に対して審査請求や取消訴訟を行えば,あなたの主張が認められる可能性が高いと思います。

 

 なお,生活保護の申請書が提出されたときは,福祉事務所は,その申請書を必ず受理する義務がありますので,必ず福祉事務所に申請書を提出してください。

 もし福祉事務所が 生活保護の申請書を渡さないときは,生活保護の申請は 不要式行為ですので,普通の用紙に「生活保護の開始を申請します」と書いて,氏名,生年月日,住所,電話番号を記載して提出すれば大丈夫です。

 

 また,福祉事務所が申請書を受け取らないときは,内容証明の書留郵便で申請書を福祉事務所に送ってください。 福祉事務所の中には,水際作戦といって,申請書を渡さなかったり,申請書を受理しないなどの違法な行為をするところが,本当にあります。昔,このような対応は,北九州市方式として有名でした。 悲しいことに,役所の不当で悪質なやり方には,ここまでして対抗しなければならないのです。

 

 次に,福祉事務所から,「生活保護の申請後は 車の運転をしてはならない。」と言われ,それに従わず,それを理由に 生活保護の申請が却下されることが心配な場合は,生活保護申請却下処分という行政処分を受けなければ,却下処分の取消しを求める審査請求や取消訴訟を起こすことはできませんので,必ず申請書を提出してください。 審査請求や取消訴訟で 福祉事務所に対抗しましょう。

 

 また,福祉事務所から,「申請後に車の運転をしてはならないという指導に従わないときは,生活保護を適用することはできない。」と言われたため,申請書を提出しなかったときは,必ず担当者とのやり取りを録音してください。 後で,それが申請書を提出しなかった理由・証拠になります。

 

 この他に,このブログには,自動車の関連で,5月13日の記事「生活保護と自動車の保有や,7月6日の記事「生活保護と自動車の処分」を載せていますので,参考にしてください。

 

 

(参考)

生活保護手帳・別冊問答集

 問3-20 他人名義の自動車利用

(問)

 資産の保有とは,所有のみをいうものか。例えば,自動車の保有を認められていない者が,他人名義の自動車を一時借用を理由に遊興等のために使用している場合は,どのようにすべきか。

 

(答)

 生活保護における資産の保有とは,次第3に示してあるとおり,最低生活の内容としてその保有又は利用をいうものであって,その資産について所有権を有する場合だけでなく,所有権が他の者にあっても,その資産を現に占有し,利用することによって,それによる利益を享受する場合も含まれるものである。

 設問の場合には,特段の緊急かつ妥当な理由が無いにもかかわらず,遊興等 単なる利便のため 度々使用すること,法第60条の趣旨からも,法第27条による指導指示の対象となるものである。 これは,最低生活を保障する生活保護制度の運用として国民一般の生活水準,生活感情を考慮すれば,勤労の努力を怠り,遊興のため度々自動車を使用するという生活態度を容認することも,またなお不適当と判断されることによるものである。