生活保護の審査請求をしよう

生活保護の質問に答えます。役所の決定に疑問があったら、生活保護の審査請求をしましょう。

<生活保護と老齢年金(後編)> 【問】年金制度は,このままでは 将来 破綻するという人がいますが,本当に破綻するのでしょうか。

 私は 国民年金を40年間 満額を支払いましたが,老齢基礎年金が月額66,250円(令和5年度)しか支給されず,預貯金を使い果たしたため,生活保護を受けるかどうか 迷っています。

 国民年金を40年間 満額を支払っても,老齢年金が月額66,250円しか支給されないならば,生活することができず,生活保護を受けざるを得ません。

 これって,おかしくないですか。 いくら預貯金を貯めていても,老齢年金を月額66,250円しか受け取ることができないならば,預貯金を取り崩して生活するしかなく,長生きすればするほど,預貯金を早く使い果たし,生活保護に頼るしかありません。 国が,年金制度の制度設計を間違っていたとしか思えないのです。

 

 また,現在,高齢者1人を現役世代2人で支えていますが,2065年には 高齢者1人を現役世代1.3人で支えることになると言われています。 そのため,年金制度は いずれ破綻すると言う人がいますが,本当に破綻するのでしょうか。

 

 

【答】

 (このブログの9月3日の「生活保護と老齢年金(前編)」から続く。)

  サラリーマンなどの厚生年金に加入している人の中には,時々,国民年金保険料よりも厚生年金保険料の方が高いので,国民年金より厚生年金の年金額が多いのは当たり前だ という人がいますが,それは一部の要素であって,厚生年金に加入している人については,会社(雇用主)が,本人が支払っている厚生年金保険料と同額の厚生年金保険料を支払っていますので,国民年金だけに加入している人と比べて,その分 受け取る老齢年金の額が多くなります。

 

 年金制度は,平成27年9月までは「国民年金」,「厚生年金」,「共済年金」等に別れていましたが,平成27年10月に厚生年金と共済年金一元化され,厚生年金に統合されましたので,1階部分が 老齢基礎年金(国民年金),2階部分が 老齢厚生年金(厚生年金),3階部分厚生年金基金企業年金)となっており,国民年金しか加入していなかった方は,1階部分の老齢基礎年金しか受け取ることができないため,受給する年金額も少なくなります。

 

 また,国民年金に加入している人には,国民年金基金があり,亡くなるまで一生涯 受け取ることができる「終身年金」と,一定期間 受け取ることができる「確定年金」がありますが,任意加入であり,収入が多い人しか加入しないため,加入者数はまだ少ないようです。

 

 次に,厚生年金には遺族年金があり,老齢厚生年金を受け取っていた夫が亡くなっても,その妻は,夫が受け取っていた老齢厚生年金の報酬比例部分の75%(ただし,細かい規定があります。)の遺族厚生年金を受け取ることができます。

 一方,国民年金にも遺族基礎年金がありますが,支給対象者が18歳未満の子がいる配偶者と子となっており,遺族厚生年金よりも支給要件が厳しくなっています。

 

 ご存じの方も多いと思いますが,平成19年2月から消えた年金記録問題」が発生しました。 例えば,私が担当していた「高木」氏は,「タカギ」と「タカキ」の2つの読み方があるため,「タカギ」の名前での年金加入期間は23年6月で 25年未満でしたので,年金受給資格の25年を満たすために,1年6月の任意加入を検討していた。 しかし,その後,「タカキ」の名前で加入期間が3年あることが判明し,2つの年金記録を統合した結果,加入期間が26年6月となり,老齢年金の受給期間を満たすことが分かりました。

 つまり,同一人物にもかかわらず,2つの年金記録があり,それが統合されていなかったものであり,そのような事例がいくつもありました。 例えば,「光希」を「コウキ」や「ミツキ」,「剛志」を「ツヨシ」や「タケシ」の名前で記録されているものもありました。

 

 また,会社が 厚生年期保険料を本人から徴取したにもかかわらず,それを会社で使ってしまい,社会保険事務所に納めていなかったということもありました。

 

 この消えた年金記録問題」は,今,思い出しても,相当 酷いものでした。 同じ行政機関でありながら,社会保険庁社会保険事務所のいい加減な事務処理に怒りを覚えたものです。 これが原因で,私たちケースワーカーも,その対応にかなりの時間をとられ 振り回されました。

 社会保険庁社会保険事務所は,組織が改変され,日本年金機構年金事務所に変わりましたが,中身は 社会保険庁社会保険事務所から抜本的に変わったのでしょうか。 名称が変わっただけではないのでしょうか。

 

 令和4年10月現在,65歳以上の高齢者の割合は29.1%で,世界で最も高齢者の割合が高く,これを生産年齢人口(15歳~64歳)59.4%で支えていますので,高齢者1人を生産年齢人口2人で支えることになります。 しかし,国民年金の加入年齢は20歳から59歳までですので,年金制度については,高齢者1人を1.7人(20歳~59歳の人口)で支えることになります(ただし,厚生年金や共済年金加入者がいて,厚生年金の加入年齢は70歳までですので,実際は 1.7人より少し多くなると思われます。  また,2065年には高齢者1人を現役世代1.3人で支えることになると言われています。)。

 

 つまり,年金制度は「積立方式」でなく,「賦課方式」のため,高齢者を現役世代が支えることになるわけです。 「賦課方式」とは,年金支給のために必要な財源を,その時々の保険料収入から用意する方式であり,現役世代から年金受給世代への仕送りに近いイメージです。

 

 また,年金制度は いずれ破綻するという人がいますが,政府は 年金制度を破綻させないために,「① 年金支給開始年齢を引き上げる(年金受給者の増加を抑える), ② 年金加入者を増やす(年金制度を支える人を増やす), ③ 年金支給額を引き下げる」という方法を実施しています。

 

 まず,「① 年金支給開始年齢を引き上げる(年金受給者の増加を抑える)」については,厚生年金・共済加入者の老齢年金支給開始年齢は,以前は60歳でしたが,段階的に引き上げられ,令和5年度現在では,男性は64歳,女性は62歳となっています(国民年金の老歴基礎年金の支給開始年齢は,以前から65歳です。)。 厚生年金・共済加入者の老齢年金支給開始年齢が65歳になる時期は,男性は令和8年度,女性は令和13年度となっていますが,老齢年金の支給開始年齢は,いずれ段階的に65歳から70歳に引き上げられるでしょう。

 

 また,「② 年金加入者を増やす(年金制度を支える人を増やす)」については,国民年金の加入期間が60歳から65歳に引き上げることが検討されていますし(厚生年金の加入期間は,現在70歳です。),厚生年金や健康保険の加入要件が緩和され,パート従業員等も,会社の従業員数や勤務時間に応じて,段階的に厚生年金や健康保険への加入が義務付けられています。

 

 次に,「③ 年金支給額を引き下げる」については,平成30年4月から年金額の算定方法には,マクロ経済スライド方式が導入され,年金額改定率が 物価上昇率を下回っており,実質的な年金額の引き下げが始まっています。

 

 さらに,老齢年金の支給開始年齢が65歳から70歳へ引き上げられた場合は,退職年齢も60歳から65歳に引き上げられるとともに,就労希望者は70歳まで再雇用されるよう制度が改正され,多くの人が,老齢年金の支給開始年齢の70歳まで働かざるを得ないということになるでしょう。

 

 また,国民年金保険料の納付免除制度には,「法定免除」と「申告免除」があり,生活保護を受けて方は「法定免除」のため,納付免除申請を行っていなかったとしても,生活保護開始日までさかのぼって,国民年金保険料は納付免除されますが, 生活保護を受けていても外国籍の方は,「法定免除」ではなく「申告免除」のため,最大2年1月までしかさかのぼって 国民年金保険料は納付免除されず,1年1回,申請免除手続きを行う必要があります。

 

 ケースワーカーの中には,このことを知らず,生活保護を受けている外国籍の方に対して,国民年金保険料の申請免除手続きを指導していなかったため,老齢基礎年金の受給資格を満たさず,65歳になっても老齢基礎年金を受給できない方が毎年一定数生じます。

 このため,生活保護を受けている外国籍の方の担当を引き継いだ後に,国民年金保険料の申請免除手続きを行っておらず,65歳になっても老齢基礎年金を受給できないことを知って,ガッカリしたことが何度もありました。

 

 現在,高齢者の定義は65歳以上となっていますが,昔とは違い,65歳以上でも元気な人は多いので,いずれ高齢者の定義は70歳以上に引き上げられ,働ける人は,70歳まで働くことが当たり前の社会になるのでしょう。

 

 年金制度等について,このように書いてきますと,暗い未来しか思い描くことができないのですが,国は 年金制度が,いずれこのような事態になることは,出生率の低下や年齢推計人口等から,早い時期に分かっていたことであり,これらの問題を解決せずに 先送りしてきたため,そのツケが 少しずつ表に出てきたと思われます。

 また,私たち世代も,政府を動かすような有効な行動・手段を取ることができず,抜本的な年金制度改革や社会保障制度改革を進めることができずに,溜まったツケを若い世代の人に渡してしまうことを心苦しく思います。

 

 しかし,世の中には「棚から牡丹餅」ということはあり得ません。 何もせずに ただ黙って待っていても,上の世代の人たちは,自分たちのことだけで精一杯であり,若い世代の人たちのことを考える余裕はありません。 残念ながら,自分たちだけ良ければ それでよいと考える人たちの方が,数が多いのです。 若い世代の人たちが,何も見ずに,何も行動せずに,だだ黙って見ていると,この世の中の仕組みは,上の世代の人たちから 自分たちの都合の良いようにされてしまいます。

 

 したがって,40年間 国民年金をかけても,年金等を月額 約7万円しか受け取ることができないのであるならば,国民年金に加入している人の多くは,生活保護を受けなければ,生活ができないということになりますので,私の結論は,あなたと同じで,現行の年金制度については,制度設計を間違っており,国が 問題の解決を先送りしてきた結果と言わざるを得ないと思います。

 

 そのため,政府や国会,議員の活動内容等を絶えず注視し,声を上げていく必要があります。

 「天は自ら助くる者を助く」という「ことわざ」があるとおり,自ら動かないと,自ら行動しないと,誰も助けてくれません。 「助けて」と声を上げることによって,周りの誰かが助けてくれることがあります。

 

 したがって,生活保護費や生活保護の運用に関して疑問があれば,役所の担当者に質問し,それでも疑問があれば,このブログに質問し,必要に応じて,法テラスを通じて弁護士等に相談の上,都道府県知事に審査請求を行いましょう。 行動しないと,役所は  いくら待っても 変わらないのです。

 なお,後日,このブログに参考として,生活保護の審査請求の記入例を載せたいと思います。