生活保護の審査請求をしよう

生活保護の質問に答えます。役所の決定に疑問があったら、生活保護の審査請求をしましょう。

<生活保護と老齢年金(前編)> 【問】老齢年金の支給額が少ないため 生活できず,生活保護を受けるかどうか 迷っています。

 私は 国民年金を40年間 満額を支払いましたが,老齢基礎年金が月額66,250円(令和5年度)しか支給されず,預貯金を使い果たしたため,生活保護を受けるかどうか 迷っています。

 国民年金を40年間 満額を支払っても,老齢年金が月額66,250円しか支給されないならば,生活することができず,生活保護を受けざるを得ません。

 これって,おかしくないですか。 いくら預貯金を貯めていても,老齢年金を月額66,250円しか受け取ることができないならば,預貯金を取り崩して生活するしかなく,長生きすればするほど,預貯金を早く使い果たし,生活保護に頼るしかありません。 国が,年金制度の制度設計を間違っていたとしか思えないのです。

 

 

【答】

 現在,生活保護を受けている世帯のうち,高齢者世帯(65歳以上)の割合は 55.6であり,高齢者世帯のうち,単身者世帯の割合が 92.6%を占めていますので, 生活保護を受けている世帯の 51.5%が,単身高齢者世帯ということになります(以上は 令和5年5月現在の数値)。 この割合は,今後,ますます増加していくでしょう。

 

 国民年金の加入期間は,20歳の誕生日の月から60歳の誕生日の前月までの40年間ですが,40年間 満額を支払っても,あなたが言われるとおり,老齢基礎年金を月額66,250円(令和5年度)しか受け取ることができません。

 また,消費税率が8#から10%に引き上げられた 令和元年10月より年金生活者支援給付金制度が始まり,年金等の収入が少ない方(前年の年金等の収入が 約88万円以下)については,年金とは別に 月額5,140円(令和5年度:非課税)の年金生活者支援給付金が支給されるようになりました。 しかし,老齢基礎年金と年金生活者支援給付金を合わせても,月額71,390円にしかなりません。

 

 一緒に生活する家族がいて,家賃を支払う必要がなく,その全額を 食費や衣類費,医療費などの自分だけの消費に使えるのであれば,月額71,390円でも十分に生活できると思いますが,単身世帯の場合は,月額71,390円では,自宅が持ち家で 家賃を支払わなかったとしても,生活はギリギリであり,医療費などは捻出できません。

 

 それに,受け取る年金額等が月額71,390円であっても,国民健康保険料が月額 約1,600円,介護保険料が月額 約2,000円を支払う必要がありますので,手元に残る金額は月額67,790円で,これでは最低生活費以下の生活を強いられることになり,病院にかかることもできません(なお,上記の国民健康保険料と介護保険料は,市町村によって異なります。)。

 

 例えば,1級地-2(政令指定都市等)の70歳の単身世帯の生活保護の生活扶助費(最低生活費)は 月額71,690円であり,上記の月額67,790円では,生活保護の基準額(最低生活費)を3,900円下回りますので,預貯金の額が少ない場合は,生活保護を受けることができます。

 

 今までは,自宅が持ち家で 家賃を支払わなかった場合の事例ですが,賃貸住宅に住んでいる場合は,これに住宅扶助費(家賃)の上限額 月額35,000円が加わり,最低生活費は 106,690円(=生活扶助費71,690円+住宅扶助費35,000円)となりますので,年金収入の月額71,390円(年金生活者支援給付金 月額5,140円を含む)では,とても生活していけないことになります。

 

 仮に夫婦で 持ち家に住んでいて 家賃を支払う必要がなく,老齢基礎年金と年金生活者支援給付金を月額 計7万円,夫婦2人で月額14万円を受け取ることができれば,生活保護を受けずに生活できると思いますが, 夫婦の片方が亡くなり,単身世帯となったときは,持ち家に住んでいて 家賃を支払う必要がないとしても,月額7万円であれば,医療費を捻出することは難しいので,生活保護を受けざるを得なくなるわけです。

 また,子ども世帯も,この失われた30年間に収入が増えなかったため,親に仕送りをする余裕がなくなりました。 その結果,生活保護を受けている世帯の51.5%(令和5年5月)単身高齢者世帯ということになったわけです。

 

 時々,生活保護の最低生活費が 年金額よりも高いのは おかしいという人がいますが,それは逆の考え方であり,本当は 生活保護の最低生活費よりも年金額が少ないことの方が問題なのです。

 

 また,平成29年7月までは,国民年金と厚生年金の納付期間と納付免除期間の合計が25年以上なければ,老齢年金を全く受け取ることができませんでした。 仮に年金を24年間かけていても,25年に満たないため,老齢年金を1円も受け取ることができなかったわけです。

 しかし,平成29年8月から老齢年金の受給資格期間が25年から10年に短縮され国民年金と厚生年金の納付期間と納付免除期間の合計が10年あれば,老齢年金を受け取ることができるようになりました。 ただし,実際に受け取ることができる老齢年金の額は,納付した期間・保険料によりますので,納付期間が短ければ,受け取ることができる老齢年金の額も少なくなります。

 

 老齢年金の受給資格期間が25年から10年に短縮されたとは言ながら,いくら年金保険料を支払っていても,その期間(納付免除期間を含む)が10年に満たないときは,1円も年金をもらえないというのは,どこかおかしな制度であると思います。

 これでは,年金保険料を支払わずに,その分を銀行等に預金していた方がよいと考える人がいても,やむを得ないでしょう。 このおかしな制度は,どうにかならないものでしょうか。 10年未満の場合は,支払った年金保険料を全額返せとは言いませんが,せめて半分くらいは返してもよいのではないかと思います。

 しかし,国は,国民年金は強制加入だから,保険料を納付しなかった人が悪いということで,納付期間と納付免除期間の合計が10年未満の場合は,納めた保険料を全く返還しないのでしょう。

 

 それでは,年金保険料をかけずに,その分を銀行等に預金していた方がよいのでしょうか。 それが,そうとも言えないのです。 それは,国民年金保険財政に多額の税金が投入されているからです。

 

 令和3年度の国民年金財政を見ますと,保険料収入が30.0%,税金が49.5%,その他が20.5%となっています。 つまり,国民年金財政では,保険料収入よりも税金が占める割合が大きくなっているわけです。 本来は,保険料収入と税金の占める割合は同じであるはずですが(原則は5割が税金(国庫負担)),国民年金保険料の未納者や納付免除者が増加したこと(令和4年度の国民年金保険料の納付率は76.1%)や,年金生活者支援給付金制度が開始されたこと等により,保険料収入よりも税金が占める割合が大きくなっているのではないかと思われます。

 したがって,年金保険料を支払わずに,その分を銀行等に預金するよりも,年金保険料を支払い,老齢年金を受け取った方が,税金投入分は 受け取る金額が多くなります。

 

 それに,預貯金の場合は,長生きしたときは,預貯金を取り崩した後の期間は,金銭を全く受け取ることができませんが,年金の場合は,長生きしても,生きている間は老齢年金が支払われますので,年金額が少ないにしても,安心感があります。

 

 しかしながら,40年間 国民年金をかけても,月額71,390円(年金生活者支援給付金を含む)しか受け取ることができないならば,国民年金加入者は,その多くの人が,生活保護を受けなければ,生活ができないということになってしまいます。 こんな年金制度なんて,制度設計自体が間違っていたと言わざるを得ません。

 

 ですが,国の年金担当者は,仮に月額10万円の老齢年金を支払うならば,国民年金保険料を 従来の1.5倍以上に増やす必要があり,その場合は,月額16,520円(令和5年度)の国民年金保険料を,月額 約25,000円に引き上げる必要があるので,加入者の負担が大きすぎて,保険料を支払うことができない人が増えてしまうと言うのでしょう。

 しかし,国は,いずれこのような事態になることは,出生率の低下や年齢推計人口等から,早い時期に分かっていたことであり,これらの問題の解決を先送りしてきたため,そのツケが 今になって表に出てきたとしか思えません。

 

 年金制度について書き始めると長くなりますので,前編と後編の2回に分けて掲載することにします。 前編はここまでとし,後編については,後日,掲載します。