生活保護の審査請求をしよう

生活保護の質問に答えます。役所の決定に疑問があったら、生活保護の審査請求をしましょう。

<生活保護と通院交通費> 【問】障害者加算を認定している場合は,通院交通費は支給できないのですか?

 私は,手の障害があり働くことができないため,生活保護を受けており,病院に週2回通院していますが,交通費が月に4,000円を超え,生活を圧迫しています。

 そこで,役所の担当者に相談したところ,あなたには障害者加算を認定しており,通院交通費は,その障害者加算の中で賄うこととなっているので,支給できないと言われました。

 しかし,通院交通費は医療扶助で,障害者加算は生活扶助であり,別のものだと思うのですが,本当に障害者加算が認定されている場合は,通院交通費は支給してもらえないのでしょうか。

 

【答】

 役所の担当者によっては,障害者加算が認定されている場合は,通院交通費(通院移送費)は,その障害者加算の中で賄うように指導している事例も見られます。

 しかし,あなたが書いているように,通院交通費は医療扶助で,障害者加算は生活扶助であり,別のものですので,厚生労働省の通知を見ても,障害者加算の中で通院交通費を賄うこととは書かれていません。

 

 また,過去の判例でも,役所の担当者から,通院交通費を生活扶助費の中で賄うよう指導され,支給されなかった事例において,裁判で原告の生活保護受給者が勝訴し,過去に遡って通院交通費が支給された判決(平成30年3月の奈良地裁判決)がありますので,法テラスを通じて生活保護制度に詳しい弁護士や,各地の生活保護支援ネットワークなどの生活困窮者支援団体に相談し,都道府県知事に対して通院交通費(通院移送費)の却下処分の取消しを求める審査請求を行うことを検討してもよいのではないかと思います。

 

 なお,おむつ代等については,生活一時扶助であり,生活一時扶助については,原則として障害者加算を含めた生活扶助費で賄うこととなっています(「生活保護手帳・別冊問答集」: 被服(おむつ代を含む)や家具什器の更新その他通常予測される生活需要については,経常的最低生活費(基準生活費,加算等)の範囲内で賄われるべきものであること。)

 

 

 

(参考)

奈良市に支払い命令 生保受給男性勝訴 地裁判決

   毎日新聞 2018年3月28日

 

 生活保護を受給している奈良市内の男性(83歳)が,通院のための交通費(通院移送費)を申請・受給できなかったなどとして,市に約120万円を支払うよう求めた訴訟で,奈良地裁は(2018年)3月27日,市に対して約10万円の支払いを命じる判決を言い渡した。

 判決などによると,2006年から生活保護を受けていた男性は,入院していた県内の病院で交通費が受給できることを知り,2014年5月,2008年9月~2013年8月分の交通費の支給を市に申請。 市は確認できる範囲で支給すると回答したが,その後,支給額を2カ月分に訂正した

 市側は「事前の申請が原則」と主張していたが,奈良地裁は「(最初の回答に反して)申請を却下したため,男性は移送費を遡って受けられないという経済的不利益を受けた」と市の違法行為を認定した。 市は「判決内容を精査し,控訴するかどうか検討する」としている。

 

 

奈良市生活保護・通院交通費の遡及支給命じる地裁「申請却下は裁量逸脱」禁反言の法理適用

   ニュース奈良の声 2018年4月1日

 

 生活保護の通院交通費を巡り,奈良市が周知を怠ったために支給を受けられなかったとして,市内の男性が市に対し,過去にさかのぼって支給を申請し却下された問題で,この男性が,市を相手取り,却下処分の取り消しや交通費支給の義務付けを求めた訴訟の判決言い渡しが(2018年)3月27日,奈良地裁であった。 地裁は市の却下処分を取り消し,市に対し,過去5年分の交通費10万5,790円の支給を決定するよう命じた

 市は支給を求める男性に対し,5年前に遡って支給するといったん通知していた。 裁判長は,通知に反する市の却下処分に禁反言の法理を適用,「申請却下は市の裁量を逸脱した違法な処分」と断じた。

 

<申請権の侵害は認めず>

 一方,男性は通院のための交通費が出ないか市職員(ケースワーカー)に相談していたのに,出せないとの誤った説明で申請権を侵害されたとして,国家賠償法に基づく損害賠償も求めていたが,同裁判長は「相談を裏付ける客観的証拠がない」として退けた

 男性Aさん(83歳)。 判決などによると,Aさんは2006年から生活保護の利用を開始。複数の疾患を抱えていたことから,医療扶助を利用して複数の病院や診療所に定期的に通っていた。通院には鉄道,バス,タクシーを利用した。

 生活保護は国に実施責任があり,事務は都道府県や市などが設置する福祉事務所が行う。 通院交通費は医療扶助の一つで,通院に要する必要最小限度の実費が通院の頻度や額の大小に関係なく支給される

 厚生労働省は,2010年3月の通知で支給制度の周知徹底を求め,2008年4月から周知が行われるまでの間の交通費について,事後申請による遡及支給を認めるとした。 奈良市は2014年10月下旬ごろまで,保護のしおりなどによる周知を行っていなかった。 Aさんは市に対し,交通費の支給を受けるようになった2013年9月より以前についても支給を求めた。

 市は,通院回数を確認できるレセプト(診療報酬請求明細書)の保存期間(5年)の範囲で支給すると,2014年7月,文書でAさんに伝えたAさんは,2008年9月から2013年8月までの交通費10万5,790円の支給を申請した。 しかし,市は2015年3月,申請を却下した却下の理由について市は,厚労省に照会したところ,「2カ月のみ遡及可能」との回答であったため,とAさんに説明した

 判決は,「保護の実施機関が要保護者に対し,公的見解を表示したことにより,要保護者が信頼して行動し,要保護者の責に帰すべき事由がないにもかかわらず,同表示に反する処分が行われ,要保護者が経済的不利益を受けることになった場合は,禁反言の法理の適用により違法」と述べ,「市が遡及期間を2カ月に限定したことは,裁量を逸脱したもの」とした。

 一方,国家賠償請求を巡っては,Aさんは,市のケースワーカーに対し,交通費が出ないか繰り返し相談していたにもかかわらず,その可能性はないとの誤った回答をしていたと主張した。 これに対し,当時のケースワーカーらは,裁判で相談を受けた事実を否定する証言をした。 市のケース記録にも記載がないことから,判決は「いつ誰にどのような相談をしたのか,裏付けるメモや日記などの客観的証拠も存在しない。 原告の主張は採用できない」とした。

 

<Aさんは病院から出廷,判決に「警鐘鳴らせたら」>

 病気入院中のAさんはこの日,重い病状を押して出廷した。 看護師に付き添われ,車いすで原告席に着いた。 Aさんの訴訟を支援してきた市民団体「奈良生活と健康を守る会」の会員によると,判決後,「問題はこれからですね。 今回のことだけでなく,これからどのように考えてくれるのかということですね。 警鐘を鳴らせたらいいのですが」と付き添いの看護師に感想を話したという。

 訴訟代理人のB弁護士は記者会見を開き,交通費の支給を命じた判決を得られたことを評価する見解を述べた。 一方で,B弁護士は「裁判で一貫して主張したのは,生活保護利用者が治療を受けていれば,一体のものとして交通費が掛かることが分かる。 生活保護利用者が積極的に尋ねることがなくても,支給制度があることを教示するのが本当のケースワークである。 裁判所にはもっと踏み込んだ判断をしてほしかった」と不満も述べた。

 Aさんを支援してきた人たちは判決後,地裁近くで報告集会を開いた。 Aさんの支援に中心となってきた病院相談員のCさんは,奈良市に控訴をしないよう求める要請文を示し,署名の上,奈良市に送ってほしいと協力を呼び掛けた。 要請文は「奈良市が控訴すれば原告をさらなる裁判闘争にさらすことになり,その負担は計り知れない」とAさんの体調を案じ,「控訴することなく本件裁判を確定させることを強く求めます」と述べている。

 

奈良市「弁護士,厚労省と協議して対応検討」>

 奈良市保護課のD課長補佐は「奈良の声」の取材に対し,「判決内容を精査して,弁護士,厚生労働省と協議して対応を検討していく」と話した。

 

厚労省「市から相談あれば助言することも」>

 また,厚生労働省保護課審査係のE係長は「(『奈良の声』の取材を受けて)奈良市に問い合わせたところ,市は判決が出たばかりのため,どう対応するか精査中とのことであった。 判決については,国が被告でなく,判決の詳細も把握していないためコメントできない。 市から相談があって,必要とあれば助言したりすることもある」と話した。