生活保護の審査請求をしよう

生活保護の質問に答えます。役所の決定に疑問があったら、生活保護の審査請求をしましょう。

<生活保護と敷金等の支給> 【問】 役所の転居指導なく、現在より安い住宅に転居した場合は、敷金等は支給してもらえないのですか?

 私は 生活保護を受けており,現在 住んでいるアパートの家賃は月額38,000円で,生活保護の基準額以内ですが,将来,生活保護から自立するため,現在のアパートより少しでも安い家賃の住居に転居しようと考えて,市営住宅の入居申し込みを行った結果,月額28,000円の市営住宅に当選しました。

 しかし,役所の担当者から,現住居は基準内家賃であり,役所は転居指導をしてないので,敷金等は支給できないと言われました。

 現在のアパートより月額1万円も家賃が安くなるのですが,役所の担当者から転居指導を受けてないので,敷金等は支給してもらえないのでしょうか。

 

 

【答】

 生活保護を受給している人が転居の際に支給される「敷金等」(敷金,礼金,仲介手数料,保証会社の保証料,火災保険料の5項目)の支給要件については,課長通知問(第7の30)〔転居に際し敷金等を必要とする場合〕に規定されていますが,この答の2において,「実施機関の指導に基づき,現在支払われている家賃又は間代よりも低額な住居に転居する場合」とされています。

 つまり,基準内家賃を超える高額家賃の住居に居住している場合に,福祉事務所の転居指導により,現在支払われている家賃よりも低額な基準内家賃の住居に転居する場合に,敷金等が支給できるとされているわけです。

 

 それでは,現在 基準内家賃の住居に住んでいて,福祉事務所の転居指導なく,現在支払われている家賃よりも低額な住居に転居した場合は,敷金等は支給してもらえないのでしょうか。

 これについては,「実施機関の指導に基づき」と規定されていますので,通常,「実施機関の転居指導がない場合,つまり,基準内家賃の住居に住んでいる場合」は,現在支払われている家賃よりも低額な住居に転居した場合であっても,敷金等は支給できないと考えているケースワーカーもいます。

 

 しかし,大阪市 生活保護疑義照会集」においては,「高額家賃の住居に居住している場合以外には,敷金等の支給は認められないか。」という問いに対して,「家賃が低額になることにより,就労収入等により将来的に自立が見込まれるなど,自立更生に資することが見込まれる場合」や「高齢者等であっても,家賃が低額になり,なおかつ環境が整うことで将来にわたって居宅での安定した生活が可能になるような場合」などは,敷金等を支給しても差し支えないとされています(下の資料を参照。 なお,私が大阪市の資料を入手したのは,約8年前であり,現在は改正されている可能性もありますので,必要があれば,改めて確認してください。)。

 

 また,福岡県内において,30,000円の家賃の住居から11,800円の家賃の住居に転居することにより,住宅扶助費が減額になるものの,転居が福祉事務所の指導によるものではないことを理由に,敷金等の支給を認められなかったことに対して審査請求が行われ,福岡県は,平成25年3月21日の県知事裁決(下の資料を参照)において,

 ① 当該規定は,家賃基準を超える住居に居住する場合を想定しているものと解され,請求人のように家賃基準額以内の住居に居住する者がさらに低額家賃に転居する場合においても,実施機関の転居指導がなかったことをもって敷金等を認めないとすることは相当ではないと思料されること,

 ② 敷金の支給を認めなければ,現状より低家賃の市営住宅への転居を処分庁が拒否した結果となること

から,住宅扶助費の減額となる今回の転居に対しては,最低限度の生活の保障という法の目的に照らし,その必要性や合理性を検証し,転居の可否について検討する余地があったものと判断され,十分な検討がなされず行われた本件処分については不当であるとし,転居の際の敷金及び移送費の申請却下処分を取り消しました

 

 したがって,現在の基準内家賃の住居よりも月額2,000~3,000円程度 家賃が安い住居に転居する場合等は,敷金等の支給が認められることは難しいかもしれませんが,現在の基準内家賃の住居よりも,例えば 月額5,000円以上 又は 2割以上低額な家賃の住居に転居する場合であって,かつ,大阪市生活保護疑義照会集に記載されているように,「家賃が低額になることにより,就労収入等により将来的に自立が見込まれるなど,自立更生に資することが見込まれる場合」や,「高齢者等であっても,家賃が低額になり,なおかつ環境が整うことで将来にわたって居宅での安定した生活が可能になるような場合」などについては,高額家賃の住居からの転居ではなくても,つまり,ケースワーカーの転居指導がなくても,敷金等の支給を検討する余地があるのではないかと考えます。

 

 そこで,あたなの役所の担当者に,「大阪市 生活保護疑義照会集」や 福岡県知事裁決を示して,敷金等の支給について相談してみてください。

 それでも,あたなの役所の担当者が,敷金等の支給を認めないときは,法テラスを通じて生活保護制度に詳しい弁護士や,各地の生活保護支援ネットワークなどの生活困窮者支援団体に相談し,役所に説明してもらったり,都道府県知事に対して,敷金等の支給却下処分の取り消しを求める審査請求を行うことを検討しましょう。

 

 

(参考)

〇敷金等の支給要件について

〔転居に際し敷金等を必要とする場合〕

問(第7の30)局長通知第7の4の(1)のカにいう「転居に際し,敷金等を必要とする場合」とは, どのような場合をいうか。

 

「転居に際し,敷金等を必要とする場合」とは,次のいずれかに該当する場合で,敷金等を必要とするときに限られるものである。

 

1 入院患者が実施機関の指導に基づいて退院するに際し帰住する住居がない場合

 

2 実施機関の指導に基づき,現在支払われている家賃又は間代よりも低額な住居に転居する場合

 

3 土地収用法都市計画法等の定めるところにより立退きを強制され,転居を必要とする場合

 

4 退職等により社宅等から転居する場合

 

5 法令又は管理者の指示により社会福祉施設等から退所するに際し帰住する住居がない場合(当該退所が施設入所の目的を達したことによる場合に限る。)

 

6 宿所提供施設,無料低額宿泊所等の利用者が居宅生活に移行する場合(R2年度 一部修正)

 

7 現に居住する住宅等において,賃貸人又は当該住宅を管理する者等から,居室の提供以外のサービス利用の強要や,著しく高額な共益費等の請求などの不当な行為が行われていると認められるため,他の賃貸住宅等に転居する場合(R2年度 新規追加)

 

8 現在の居住地が就労の場所から遠距離にあり,通勤が著しく困難であって,当該就労の場所の附近に転居することが世帯の収入の増加,当該就労者の健康の維持等世帯の自立助長に特に効果的に役立つと認められる場合

 

9 火災等の災害により現住居が消滅し,又は,居住にたえない状態になったと認められる場合

 

10 老朽又は破損により居住にたえない状態になったと認められる場合

 

11 居住する住居が著しく狭隘又は劣悪であって,明らかに居住にたえないと認められる場合

 

12 病気療養上著しく環境条件が悪いと認められる場合 又は 高齢者若しくは身体障害者がいる場合であって設備構造が居住に適さないと認められる場合

 

13 住宅が確保できないため,親戚,知人宅等に一時的に寄宿していた者が転居する場合

 

I4 家主が相当の理由をもって立退きを要求し,又は借家契約の更新の拒絶若しくは解約の申入れを行ったことにより,やむを得ず転居する場合

 

15 離婚(事実婚の解消を含む。)により新たに住居を必要とする場合

 

16 高齢者,身体障害者等が扶養義務者の日常的介護を受けるため,扶養義務者の住居の近隣に転居する場合

または,双方が被保護者であって,扶養義務者が日常的介護のために高齢者,身体障害者等の住居の近隣に転居する場合

 

17 被保護者の状態等を考慮の上,適切な法定施設(グループホームや有料老人ホーム等,社会福祉各法に規定されている施設及びサービス付き高齢者向け住宅をいう。)に入居する場合であって,やむを得ない場合

 

18 犯罪等により被害を受け,又は同一世帯に属する者から暴力を受け,生命及び身体の安全の確保を図るために新たに借家等に転居する必要がある場合

  

 

大阪市 生活保護疑義照会集

(7) 低額な住居へ転居する場合の敷金支給

 

問1 課長通知第7 の30 答え2では「実施機関の指導に基づき,現在支払われている家賃又は間代よりも低額な住居に転居する場合」と示されていますが,実施機関が指導するというのはどのような場合か。

 

答1 高額家賃の住居に居住しており,家賃を支払うことにより最低生活費が確保できないような場合が代表的です。

 

 

問2 高額家賃の住居に居住している場合以外には認められないか

 

答2-1 家賃が低額になることにより,就労収入等により将来的に自立が見込まれるなど,自立更生に資することが見込まれる場合があります

 

答2-2 高齢者等であっても,家賃が低額になり,なおかつ環境が整うことで将来にわたって居宅での安定した生活が可能になるような場合があります

 

 

問3 家賃が低額になり問1,問2の条件に当てはまる場合はすべて支給してよいか

 

答3 問1,問2にあてはまる場合であっても,次の点に注意すること

① 現行家賃との差額が1割以上低額になる場合とする。

② 転居後すぐに家賃額の増額が想定される場合は認められない。

契約期間(通常2年間)は家賃の値上げがないことを確認すること

③ 転居後少なくとも2年以上は同一住居に住み続けるような将来設計がなされていること(高齢者の場合は永住可能な場所を検討する。)。

④ 再度,転居を希望する可能性があると考えられる場合は,状況を確認して申請却下すること(例:高齢でエレベーターのない高層階への転居希望など)。

⑤ 近い将来,課長問答第7の30 答にある理由での転居が想定される場合は認められない。

⑥ 転居を繰り返している場合や,現在の住居に入居して間がない場合は認められない。

 

 

 

〇福岡県知事 裁決書

                             23保援第3112号-13

 

            裁  決  書

 

                       審査請求人  ○○○○○○○○

 

                       処 分 庁  ○○○○○○○○

 

 

 上記審査請求人(以下「請求人」という。)から,平成23年12月26日付けで提起のあった上記処分庁の生活保護法(昭和25年法律第144号。以下「法」という。)に基づく扶助申請(転居の際の敷金及び移送費)却下処分(以下「本件処 分」という。)に対する審査請求(以下「本件審査請求」という。)について,次のとおり裁決します。

 

                主 文

 本件処分を取り消します

 

                理 由

第1 審査請求の趣旨及び理由

 本件審査請求の趣旨は,本件処分の取消しを求めるというもので,その理由 として請求人は,次のとおり主張しているものと解されます。

1 転居前のアパート(以下「前住居」という。)は,古くて,間取りが悪く,不自由であった。3年越しに応募していた市営住宅に当選し,家賃も3分の1に下がったのに転居を認めてもらえず,敷金が支給されなかった。

2 毎日の生活費も節約し,家電製品など買い替えができず,不自由過ぎて惨め な生活になっているため,引越し費用を支給してほしい。

 

 

第2 処分庁の弁明の趣旨及び理由

 処分庁の弁明の趣旨は,本件審査請求の棄却を求めるというもので,その理由は次のとおりです。

1 請求人は,前住居は老朽化していて居住に耐えないと主張しているが,当時の担当者が家庭訪問した際に,請求人の部屋を確認したところ,アパートは古いが,請求人がきちんと掃除を行っていることから衛生的な状態が保たれており,古くて住めない状態ではなかった。

 また,前住居は,平成22年9月6日に,請求人自身が家屋の状態を確認し転居したばかりである。

 

2 従前より低額な家賃のアパートに転居すれば,当然に敷金等を支給できるわけではない。

 平成23年8月2日に請求人と次女が処分庁へ来庁した際に,請求人より市営住宅へ転居する際の敷金及び引越し費用の請求の申し出があったが,家賃が安くなる場合であっても実施機関の指導に基づかない場合は当該費用の支給はできないことを説明し,請求人は理解を示していた。

 請求人は当該費用が認められない説明を事前に受けているにもかかわらず,処分庁の事前承認のないまま自身の判断により自費で転居を行ったものである。

 

3 また,○○○○から前住居に転居を認められた理由は,請求人の次女(以下「次女」という。)の近隣に住むことで請求人の統合失調症の病状安 定を図るという観点から必要であると判断されたものであり,前住居と次女の 住居とは700メートル程度しか離れておらず,前住居のままでも次女宅と交流を行うには十分であると考えられる。

 以上のことから,転居する正当な理由がないこと,転居に当たり,移送費を 支給する真にやむを得ない理由がないことを理由に行った本件処分に違法性は認められない。

 

 

第3 反論の趣旨

 請求人の反論の要旨は,次のとおりです。

1 平成23年8月2日に市営住宅の当選のハガキを持って処分庁へ出向き,家賃が安い市営住宅へ転居したいので,転居費用を認めて欲しいとの請求人の申 し出に対し,処分庁は,住宅費が安くなる場合の転居だからといって転居費用が出せるわけではないと説明したと弁明しているが,その説明の状況は,「いくら家賃が安くてもこちらからお願いして引っ越してもらうわけではないから,援助金は出せない。」,「親戚にお金を出してもらいなさい。Jなどと笑いながら説明され,同席した次女が怒って帰るような説明であった。

 

2 当時の担当者の家庭訪問は,平成23年1月から2月頃までであり,その後,一度も訪問はなかった。

 転居したのは,前住居が木造の平屋建てで,排水溝もすぐそばにあり,初夏には,やぶ蚊やねずみが多く,食料,衣服,紙などがかじられるため,精神的に穏やかではいられない状況であったためである。

 

 

第4 認定事実

 当庁が認定した事実は,次のとおりです。

1 平成19年6月

 請求人は,平成3年9月から行橋市において単身で生活保護を受給していた ところ,○○○○に転居し,引き続き生活保護を受給したこと。

 

2 平成21年8月20日

 請求人は,「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」(昭和25年法律第123号)第45条に規定する精神障害者保健福祉手帳2級の交付を受けたこと。 なお,同手帳は,平成25年8月31日まで更新されていること。

 

3 平成22年9月6日

 請求人は,次女宅から700メートル程度離れた前住居に転居したこと。 当該転居については,一福祉事務所が,請求人が統合失調症により通院していた病院の主治医に意見を求めたところ,次女の近隣に居住することにより精神的安定が図れるとの意見を得たため,処分庁管内へ転居することを認めたものであること。なお,前住居の家賃は30,000円であったこと。

 

4 平成23年1月6日

 処分庁は,請求人の前住居を訪問し,○○福祉事務所から請求人 の生活保護を引き継ぐための調査を行ったこと。前住居は,平屋建てで,間取りは1K(トイレ,浴室付)であったこと。また,請求人は,国民年金障害基 礎年金2級を受給していたこと。

 

5 平成23年2月1日

 処分庁は,○○福祉事務所から請求人の生活保護を引き継いだこと。

 

6 平成23年8月2日

 請求人及び次女が処分庁に来庁し,前住居より家賃の安い市営住宅(月額11,800円)へ転居するため,敷金及び引越し費用を出してほしい旨述べたこと。

 これに対し処分庁は,家賃が安くなる場合であっても実施機関の指導に基づかない転居の場合には,転居費用は認められないことを説明したこと。

 また,請求人力  から転居した時には転居費用が支給された旨述べたのに対し,処分庁は,その際は,○○福祉事務所が請求人の病状回復につながると判断し認めたものであると説明したこと。

 

7 平成23年10月5日

 請求人から10月3日に現住居への転居及び住民票の異動が完了したとの連絡があり,住宅費の認定変更を行ったこと。(30,000円から11,800円へ)

 

8 平成23年11月10日

 処分庁が転居先の請求人宅を訪問したところ,請求人から,再度,転居費用の請求の申出があったこと。 請求人は,家賃が前住居より安くなったこと,前住居は風呂桶が汚れていたり,ネズミが出たりで住める環境ではなかったため転居したのに,転居費用が支給されないことには納得がいかないと述べたこと。

 

9 平成23年11月18日

 請求人が処分庁へ来所し,転居費用についての「一時扶助申請書」(引越代52,500円,敷金35,400円)を提出したこと。

 

10 平成23年12月20日

 処分庁は,12月8日付けで行った上記申請却下通知書の表記に誤りがあったため,12月20日付けで上記申請却下取消を行い,同日付けで本件処分通知書を請求人に送付したこと。

 なお,却下理由として,「転居の必要性が認められないため。」と記載されていたこと。

 

11 平成23年12月26日

 請求人は,本件審査請求を提起したこと。

 

 

第5 審査庁の判断

1 法は,住宅扶助について,「困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対して,左に掲げる事項の範囲内において行われる。」と規定し, 左に掲げる事項として,「住居」及び「補修その他住宅の維持のために必要な もの」をあげ(法第14条),家賃等の基準額については,「生活保護法による保護の基準」(昭和38年4月1日厚生省告示第158号)において,「厚生労働大臣が別に定める額の範囲内の額とする。」とされ,平成23年度の処分庁における厚生労働大臣の定める額は,31,500円とされています。

 また,転居に伴う敷金については,「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和38年4月1日社発第246号厚生省社会局長通知。 以下「局長通知」という。)において,「被保護者が転居に際し,敷金等を必要とする場合で」,厚生労働大臣が別に定める額以内の家賃の住居に転居するときは,「必要な額を認定して差しつかえない」とされ(第7-4-(1)-カ),転居に際し敷金を必要とする場合については,「生活保護法による保護の実施要領の取り扱いについて」(昭38年4月1日社保第34号厚生省社会局保護課長通知。以下「課長通知」という。)において,「次のいずれかに該当する場合」とし,「実施機関の指導に基づき,現在支払われている家賃又は間代よりも低額な住居に転居する場合」,「老朽又は破損により居住にたえない状態になったと認められる場合」,「病気療養上著しく環境条件が悪いと認められる場合」等があげられています(第7の問30) 。

 

2 次に,法は,生活扶助について,「困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対して,左に掲げる事項の範囲内において行われる。」と規定し,左に掲げる事項の一つとして「移送」をあげています(法第12条)。 また,最低生活費については,「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和36年4月1日社発第123号厚生事務次官通知)において,月々の経常的な最低生活需要のすべてを満たすための費用として認定する経常的最低生活費と特別な需要のある者に臨時的に認定する臨時的最低生活費(一時扶助費)とに区分され,移送費は臨時的最低生活費(一時扶助費)の一つに位置付 けられています。

 さらに,移送費の一つである引越し費用については,局長通知において,「被保護者が転居する場合」で,「真に必要やむを得ないとき」に,「実施機関が事前に承認した必要最小限度の額を認定して差しつかえない。」とされています(第7-2- (7)-ア-(サ))。

 

3 本件審査請求の争点は,審査請求の理由,弁明の理由及び反論の趣旨から,請求人の転居の必要性及び処分庁の指導によらない転居の取扱いであると思料されますので,以下検討します。

(1)転居の必要性について

 請求人は,転居の理由として前住居は古くて間取りが悪く不自由で,初夏にはやぶ蚊やねずみの被害で大変であったと主張していますが,処分庁は, 認定事実の4とおり,転居後の平成23年1月6日に訪問した際,アパートは古いものの掃除も行き届き,衛生的な状態が保たれていたこと, 認定事実の3のとおり,病状の安定を図る観点から転居した前住居と次女宅との間は,700m程度しか離れておらず,前住居のままでも次女宅と交流を行うには十分であり,転居の必要性は認められないと主張しています。

 しかし, 認定事実の4の平成23年1月6日の訪問調査後,前住居への家庭訪問の事実はなく,住環境の把握ができていなかったこと, 前住居への転居に当たって,認定事実の3のとおり,福祉事務所は,請求人の病状から主治医に意見を求め,次女の近隣に居住することにより精神的安定が図れるとの意見を得たため,処分庁管内へ転居することを認めている経緯から,請求人の病状を考慮すれば,次女宅のすぐそばの市営住宅である新住居への入居が可能となった時点で,請求人の病状の安定を図る観点から病状調査を行い,転居の必要性を検討すべき理由があったものと解されます。

 これらの経過から,本件処分については,「老朽又は破損により居住にたえない状態になったと認められる場合」,「病気療養上著しく環境条件が悪いと認められる場合」等の敷金を支給できる場合に該当するか否か十分な検討が行われたと判断することはできません

 

(2)処分庁の指導によらない転居について

 転居に際し敷金等を必要とする場合として,「実施機関の指導に基づき,現在支払われている家賃又は間代よりも低額な住居に転居する場合」が規定されています(課長通知第7の問30)。 今回の転居は,民間アバートから市営住宅への転居によるもので,処分庁は,30,000円の家賃から11,800円と減額になるものの,処分庁の指導によるものではないことを理由に,敷金の支給要件に該当しないとしています。

 認定事実の6のとおり,確かに処分庁の指導によるものではないことは明らかですが, 当該規定は,家賃基準を超える住居に居住する場合を想定しているものと解され,請求人のように家賃基準額以内の住居に居住する者がさらに低額家賃に転居する場合においても,実施機関の転居指導がなかったことをもって敷金等を認めないとすることは相当ではないと思料されること, 敷金の支給を認めなければ,現状より低家賃の市営住宅への転居を処分庁が拒否した結果となることから,住宅扶助費の減額となる今回の転居に対しては,最低限度の生活の保障という法の目的に照らし,その必要性や合理性を検証し,転居の可否について検討する余地があったものと判断されます

 よって,十分な検討がなされず行われた本件処分については,不当であると判断せざるを得ません

 

 

第6 結論

 以上のとおり,本件審査請求には理由があるので行政不服審査法第40条第3項の規定に基づき,主文のとおり裁決します。

 

 

      平成25年3月21日

                       福岡県知事  小 川   洋