生活保護の審査請求をしよう

生活保護の質問に答えます。役所の決定に疑問があったら、生活保護の審査請求をしましょう。

<生活保護と交通事故(続々編:過失割合と保険金)> 【問】交通事故に遭ったとき,自賠責保険や任意保険から支払われ治療費や慰謝料の額は,どのように算定されるのですか。

 私は 生活保護を受けていますが,先日,交通事故に遭いました。

 そこで,過失割合によって,自賠責保険や任意保険から支払われ治療費や慰謝料の額が変わると聞きましたが,自賠責保険や任意保険から支払われ治療費や慰謝料の額は,どのように算定されるのか,教えてください。

 

【答】

 被保護者が交通事故の被害者になったときは,法テラスに相談し,弁護士に 加害者側の保険会社との交渉を依頼した方がよい場合が多いと思いますが, 損害額が小さく,弁護士報酬を支払うと,慰謝料がほとんど残らなかったり,マイナスになったりして,弁護士に依頼することが難しい場合もありますので,ある程度 交通事故に係る知識が必要になります。

 

 まず自賠責保険について説明します。

 自賠責保険は 法律によって,自動車,バイク,原付を使用する際に強制的に加入が義務づけられている損害保険(強制加入)で,賠償金の上限額は,傷害のときは120万円,死亡のときは3,000万円,重度の後遺障害のとき4,000万円となっています。

 自賠責保険契約に未加入,又は 有効期限切れで車を運行しますと,1年以下の懲役 又は 50万円以下の罰金に処せられることになります。

 

 次に,自賠責保険は,自動車事故により死傷した被害者の保護救済を図ることを目的としていますので,「人身事故」のみ適用され,物損事故には適用されません

 

 また,自賠責保険では,過失の大小に関わらず,ケガをした人や死亡した人被害者」となります。 例えば,交差点での右折車Aと直進車Bの事故で,Aがケガを負い過失割合が A:B=6:4となっても,自賠責上ではAが被害者,Bが加害者となります。

 

 任意保険の場合,被害者に過失があった場合は厳格に過失相殺が行われますが,自賠責保険では過失相殺は行われません。 例えば,交差点での右折車Aと直進車Bの事故で,Aがケガを負い,過失割合がA:B=6:4,損害額は100万円の場合は,自賠責保険の限度額内(120万円)については,過失相殺されることなく,AはBの自賠責保険から100万円を受け取ることができます。

 ただし,被害者に重大な過失(7割以上の過失)があった場合は,支払限度額の120万円から2割減額され,自賠責保険金の支払上限額は 96万円になり,これを重過失減額といいます。

 以上が自賠責保険についての説明です。

 

 次に,自賠責保険と任意保険の関係」については,書籍やインターネットに具体的に書かれており,私が読んだ本やインターネットの説明の中で 分かりやすいものがあり,私が説明するよりも,それを読んでいただいた方が 理解しやすいと思いますので,その内容を2つ紹介します。

 

 なお,8月21日のこのブログ(生活保護と交通事故(続編))で書いたとおり,交通事故の慰謝料の基準には,「① 自賠責保険基準」,「② 任意保険基準」,「③ 裁判所基準(=弁護士基準)」の3つの基準があり,「③ 裁判所基準(=弁護士基準)」は,「② 任意保険基準」よりも,慰謝料の額が約1.8倍~2倍に増加しますので,交通事故で入院・手術が必要なケガをしたときは,法テラスに相談し,弁護士に 相手側の保険会社との交渉を依頼した方がよいと思います。

 

 

(参考)

○「交通事故の損害賠償と解決」(抜粋)

   (著者:薄金孝太郎、出版社:新星出版社)

 自賠責保険と任意保険では,過失相殺適用の範囲が違います。 交通事故で被害者側に支払われる保険は,まず自賠責保険から支払われ,それでも損害賠償金が不足する場合に,任意保険によってその不足分を補填する形で支払われることになっています。

 

自賠責で適用がなくても任意保険では厳しくなる

 自賠責保険の支払いでは,被害者側に過失相殺の適用がないような事案であっても,任意保険の支払いに際しては,個別具体的に詳細な過失割合が決められており,保険会社ではこの被害者側の過失責任を厳しく指摘し,減額を主張してきます。

 具体例を挙げてみましょう。

 

【具体例】損害賠償請求額 200万円の場合

 交通事故でAさんが負傷して,治療費,通院交通費,休業損害などの損害賠償請求額が200万円だったとします。

 

(1)過失割合 0%の場合

 自賠責保険から傷害事故の上限である120万円の保険金が支払われ,その後,任意保険から不足分の80万円が支払われます。

 

(2)過失割合 10%の場合

 自賠責保険が先に支払われます。 自賠責保険上では,10%の過失責任では,被害者に重大な過失があったとはみなされず,自賠責保険から満額の120万円が支払われます。 しかし,任保険を支払う保険会社では,200万円の損害額のうち,Aさんの過失割合10%を減額します。

 200万円×(1-0.1)=180万円。 この過失相殺後の180万円から自賠責保険で支払われた120万円を差し引いた60万円(=180万円-120万円)が任意保険から支払われる金額となります。

 

(3)過失割合 70%の場合

 自賠責保険から先に支払われますが,70%の過失責任では,自賠責保険上も被害者に重大な過失があったとみなされ,傷害事故に対する一定の減額率である20%が減額されます(120万円の80%で96万円)。

 自賠責保険では,損害額が200万円の場合,自賠責保険の上限の120万円より高いので,保険金額を基準に120万円×(1-0.2)=96万円が損害額として算定され,自賠責保険から96万円が支払われます。

 

 次に,任意保険の方ですが,任意保険を支払う保険会社で,過失責任の70%を先に減額します。 200 万円×(1-0.7)=60万円。 この過失相殺後の60万円から,自賠責保険で支払われた96万円を差し引きます。

 60万円-96万円=△36万円(保険金の払い過ぎ)となりますので,保険会社では,任意保険の支払いを拒否することになります。

 

 例えば,(3)の例で,損害額が100万円であった場合には,自賠責保険の上限の120万円より低いので,100万円の20%を減額した80万円自賠責保険で支払われます。 この場合にも70%を過失相殺すると,100 万円×(1-0.7)=30万円となり,やはり保険金の過払いとなるので,任意保険の支払いはありません。

 

 このように,保険会社の算定では,被害者側の過失相殺を適用して滅額し,その支払われ険金額を差し引き,その残りがあれば,任意保険から支払いが行われますが,その残額がなければ支払いはありません。

 また,自賠責保険では満額が支払われた場合でも,任意保険の支払いでは,過失割合が厳しく査定され,大幅に減額されたり,全く支払われないこともあります。

 

 

 

〇全損害額150万円だが過失割合が50%ある場合の支払額は? (出典:「交通事故サポートセンター」)

 

【問】

 後遺障害はなかったが,損害額が治療費70万円,休業損害20万円,通院慰謝料60万円の合計150万円だった。  自分の過失が50%あるが,相手側保険会社からの支払いはいくらか?  150万円?  120万円?  75万円?

  

【答】

 傷害事件(事故)で被害者と加害者が示談金の話し合いをする場合に,双方に過失があるようなとき,加害者から支払われる賠償金額は過失相殺されて,「加害者の過失分」のみが支払われます。

 

 過失が50%ある被害者の全損害額が150万円だった場合,普通に考えれば,50%を過失相殺されて75万円しか支払われません。 ですが,交通事故(自動車事故)の場合は自賠責保険があり,「任意保険会社は,自賠責保険から支払われる金額を下回って支払いをしてはならない」ことになっています。

 

 自賠責保険では,被害者の過失が7割以上ある場合でないと,支払額の減額はされません7割以上の過失があると,20%減額され,支払額の上限額は96万円(120万円×80%)になります。)。

 ですから,「被害者の損害額が150万円で過失が50%だった場合,加害者が支払うべき損害賠償責任は75万円ですが,自賠責保険から120万円支払われますので,結果的に支払われる金額は120万円となります。 「過失相殺(7割未満)後の金額が120万円を下回る場合は,120万円(上限)が支払われる」ということです。

 

 150万円の損害で過失割合は50%でしたが,受取額は120万円だったので,結果的に20%減(自分の過失20%と同じ)ということになります。

 

 ですが,被害者にとって重要なことは,その内訳です。

 本来であれば,75万円となってしまうところ,自賠責があったので120万円出ましたが,実は,そのうち 70万円は治療費で使われてしまっています。

 

 被害者に過失が半分あるからといって,病院が治療費の支払いを免除してくれるわけではないのです。 つまり,120万円のうち,休業損害や慰謝料として被害者自身が受け取るのは,治療費を差し引いた残りの50万円です。

 相殺前の損害額は,休業損害20万円と慰謝料60万円の合計80万円だったのが,50万円(80万円に対して62.5% = 自分の過失37.5%と同じ)になってしまいました。

 このようなことですから,自分に過失が多い場合には,治療費を圧縮するために健康保険を使うことを検討しましょう。

 

 なお,損害額150万円,過失50%の場合,自賠責の120万円を超える部分の「30万円」に対してのみ過失50%がかかり15万円減額され,合計は15万円+120万円の135万円が支払われるのではないかと考える人もいるようですが,現実にはこのような支払われ方はされません。 過失相殺は 損害額全額に対してかかってくるものです。

 

 

 

<生活保護と鍵交換代等> 【問】アパートに入居する際に,生活保護では 鍵交換代や部屋の消毒代は支給してもらえないのですか。

 私が現在 住んでいるアパートは,生活保護の基準内家賃を越えているため,役所の担当者から転居指導を受け,不動産会社に頼んで,今回,新しいアパートを見つけました。

 しかし,新しいアパートの不動産管理会社から,入居時に 敷金や仲介手数料の他に,鍵交換代2万円と部屋の消毒代2万円の計4万円を支払うように言われ,役所の担当者からは,鍵交換代と部屋の消毒代は 生活保護費として支給できないので,自己負担になると言われました

 鍵交換代と部屋の消毒代の計4万円は,私にとっては負担が大きいので,どうしたらよいのか悩んでいます。 何かアドバイスがありましたら,お願いします。

 

【答】

 生活保護を受けている方が,新しい住居に転居する際に 生活保護で支給できる項目は,引っ越し代(移送費)や「敷金等」があります。 この「敷金等」とは,敷金,礼金,仲介手数料,保証会社の保証料,火災保険料の5項目を言い,鍵交換代や部屋の消毒代は 支給対象項目には入っていません。

 

 この理由は,鍵交換代や部屋の消毒代については,本来,賃貸人が負担すべきものであり,賃借人が負担すべきものではないからです。 アパートの部屋は,住むことができる状態にして賃借人に貸すべきものであるので,鍵交換代や部屋の消毒代は,当然,賃貸人が負担すべきであり,賃借人に負担させることは適当でないと考えられています。

 

 例えば,国土交通省が作成している「原状回復をめぐるトラブルとガイドラインには,「鍵の取替え(破損,鍵紛失のない場合)」については,「<考え方> 入居者の入れ替わりによる物件管理上の問題であり,賃貸人の負担とすることが妥当と考えられる。」とされ,また,「全体のハウスクリーニング(専門業者による)」についても,「<考え方> 賃借人が通常の清掃(具体的には,ゴミの撤去,掃き掃除,拭き掃除,水回り,換気扇,レンジ回りの油汚れの除去等)を実施している場合は,次の入居者確保のためのものであり,賃貸人負担とすることが妥当と考えられる。」とされています。

 

 このガイドラインには 法的拘束力はありませんが,判例や実例等をもとに作成されていますので,訴訟になったときは,裁判所は,このガイドラインに沿った判断を示すことが多く,また,不動産会社に このガイドラインを示したときは,このガイドラインの内容に従う会社もありますので,不動産会社にこのガイドラインを提示して,鍵交換代や部屋の消毒代の支払いについて交渉してみてください。

 

 また,不動産業界団体の相談窓口として,(公益社団法人)全国宅地建物取引業(保証)協会がありますので,そこに相談する方法がありますが,業界団体の相談窓口であり,会員である不動産業者に対する強い指導力はないという意見もあります。

 

 次に,宅地建物取引業の免許権限者である都道府県 又は 国土交通省の地方整備局の相談窓口に相談する方法があります。 その不動産業者が 県知事免許か大臣免許かについては,免許番号に記載されています。

 さらに,消費者契約法の関係で,消費生活センターに相談する方法もあります。

 

 それでもなお,不動産会社から,鍵交換代や部屋の消毒代を支払わない場合は,部屋を貸すことはできないと言われたときは,我慢して鍵交換代や部屋の消毒代を支払い そのアパートを借りるか,又は,そのアパートを借りることを諦め,他の不動産会社に 鍵交換代や部屋の消毒代を支払う必要のない 別のアパートの紹介を依頼するしか適当な方法はないと思われます。

 

 しかし,以前は,賃借人に 鍵交換代や部屋の消毒代の支払いを求める不動産会社が多かったのですが,最近は,そのような不動産会社は 次第に少なくなり,鍵交換代や部屋の消毒代を支払う必要のないアパートも増えてきていますので,地道に あなたの希望に合うアパートを探してみてください。

 

<生活保護と敷金等の支給> 【問】 役所の転居指導なく、現在より安い住宅に転居した場合は、敷金等は支給してもらえないのですか?

 私は 生活保護を受けており,現在 住んでいるアパートの家賃は月額38,000円で,生活保護の基準額以内ですが,将来,生活保護から自立するため,現在のアパートより少しでも安い家賃の住居に転居しようと考えて,市営住宅の入居申し込みを行った結果,月額28,000円の市営住宅に当選しました。

 しかし,役所の担当者から,現住居は基準内家賃であり,役所は転居指導をしてないので,敷金等は支給できないと言われました。

 現在のアパートより月額1万円も家賃が安くなるのですが,役所の担当者から転居指導を受けてないので,敷金等は支給してもらえないのでしょうか。

 

 

【答】

 生活保護を受給している人が転居の際に支給される「敷金等」(敷金,礼金,仲介手数料,保証会社の保証料,火災保険料の5項目)の支給要件については,課長通知問(第7の30)〔転居に際し敷金等を必要とする場合〕に規定されていますが,この答の2において,「実施機関の指導に基づき,現在支払われている家賃又は間代よりも低額な住居に転居する場合」とされています。

 つまり,基準内家賃を超える高額家賃の住居に居住している場合に,福祉事務所の転居指導により,現在支払われている家賃よりも低額な基準内家賃の住居に転居する場合に,敷金等が支給できるとされているわけです。

 

 それでは,現在 基準内家賃の住居に住んでいて,福祉事務所の転居指導なく,現在支払われている家賃よりも低額な住居に転居した場合は,敷金等は支給してもらえないのでしょうか。

 これについては,「実施機関の指導に基づき」と規定されていますので,通常,「実施機関の転居指導がない場合,つまり,基準内家賃の住居に住んでいる場合」は,現在支払われている家賃よりも低額な住居に転居した場合であっても,敷金等は支給できないと考えているケースワーカーもいます。

 

 しかし,大阪市 生活保護疑義照会集」においては,「高額家賃の住居に居住している場合以外には,敷金等の支給は認められないか。」という問いに対して,「家賃が低額になることにより,就労収入等により将来的に自立が見込まれるなど,自立更生に資することが見込まれる場合」や「高齢者等であっても,家賃が低額になり,なおかつ環境が整うことで将来にわたって居宅での安定した生活が可能になるような場合」などは,敷金等を支給しても差し支えないとされています(下の資料を参照。 なお,私が大阪市の資料を入手したのは,約8年前であり,現在は改正されている可能性もありますので,必要があれば,改めて確認してください。)。

 

 また,福岡県内において,30,000円の家賃の住居から11,800円の家賃の住居に転居することにより,住宅扶助費が減額になるものの,転居が福祉事務所の指導によるものではないことを理由に,敷金等の支給を認められなかったことに対して審査請求が行われ,福岡県は,平成25年3月21日の県知事裁決(下の資料を参照)において,

 ① 当該規定は,家賃基準を超える住居に居住する場合を想定しているものと解され,請求人のように家賃基準額以内の住居に居住する者がさらに低額家賃に転居する場合においても,実施機関の転居指導がなかったことをもって敷金等を認めないとすることは相当ではないと思料されること,

 ② 敷金の支給を認めなければ,現状より低家賃の市営住宅への転居を処分庁が拒否した結果となること

から,住宅扶助費の減額となる今回の転居に対しては,最低限度の生活の保障という法の目的に照らし,その必要性や合理性を検証し,転居の可否について検討する余地があったものと判断され,十分な検討がなされず行われた本件処分については不当であるとし,転居の際の敷金及び移送費の申請却下処分を取り消しました

 

 したがって,現在の基準内家賃の住居よりも月額2,000~3,000円程度 家賃が安い住居に転居する場合等は,敷金等の支給が認められることは難しいかもしれませんが,現在の基準内家賃の住居よりも,例えば 月額5,000円以上 又は 2割以上低額な家賃の住居に転居する場合であって,かつ,大阪市生活保護疑義照会集に記載されているように,「家賃が低額になることにより,就労収入等により将来的に自立が見込まれるなど,自立更生に資することが見込まれる場合」や,「高齢者等であっても,家賃が低額になり,なおかつ環境が整うことで将来にわたって居宅での安定した生活が可能になるような場合」などについては,高額家賃の住居からの転居ではなくても,つまり,ケースワーカーの転居指導がなくても,敷金等の支給を検討する余地があるのではないかと考えます。

 

 そこで,あたなの役所の担当者に,「大阪市 生活保護疑義照会集」や 福岡県知事裁決を示して,敷金等の支給について相談してみてください。

 それでも,あたなの役所の担当者が,敷金等の支給を認めないときは,法テラスを通じて生活保護制度に詳しい弁護士や,各地の生活保護支援ネットワークなどの生活困窮者支援団体に相談し,役所に説明してもらったり,都道府県知事に対して,敷金等の支給却下処分の取り消しを求める審査請求を行うことを検討しましょう。

 

 

(参考)

〇敷金等の支給要件について

〔転居に際し敷金等を必要とする場合〕

問(第7の30)局長通知第7の4の(1)のカにいう「転居に際し,敷金等を必要とする場合」とは, どのような場合をいうか。

 

「転居に際し,敷金等を必要とする場合」とは,次のいずれかに該当する場合で,敷金等を必要とするときに限られるものである。

 

1 入院患者が実施機関の指導に基づいて退院するに際し帰住する住居がない場合

 

2 実施機関の指導に基づき,現在支払われている家賃又は間代よりも低額な住居に転居する場合

 

3 土地収用法都市計画法等の定めるところにより立退きを強制され,転居を必要とする場合

 

4 退職等により社宅等から転居する場合

 

5 法令又は管理者の指示により社会福祉施設等から退所するに際し帰住する住居がない場合(当該退所が施設入所の目的を達したことによる場合に限る。)

 

6 宿所提供施設,無料低額宿泊所等の利用者が居宅生活に移行する場合(R2年度 一部修正)

 

7 現に居住する住宅等において,賃貸人又は当該住宅を管理する者等から,居室の提供以外のサービス利用の強要や,著しく高額な共益費等の請求などの不当な行為が行われていると認められるため,他の賃貸住宅等に転居する場合(R2年度 新規追加)

 

8 現在の居住地が就労の場所から遠距離にあり,通勤が著しく困難であって,当該就労の場所の附近に転居することが世帯の収入の増加,当該就労者の健康の維持等世帯の自立助長に特に効果的に役立つと認められる場合

 

9 火災等の災害により現住居が消滅し,又は,居住にたえない状態になったと認められる場合

 

10 老朽又は破損により居住にたえない状態になったと認められる場合

 

11 居住する住居が著しく狭隘又は劣悪であって,明らかに居住にたえないと認められる場合

 

12 病気療養上著しく環境条件が悪いと認められる場合 又は 高齢者若しくは身体障害者がいる場合であって設備構造が居住に適さないと認められる場合

 

13 住宅が確保できないため,親戚,知人宅等に一時的に寄宿していた者が転居する場合

 

I4 家主が相当の理由をもって立退きを要求し,又は借家契約の更新の拒絶若しくは解約の申入れを行ったことにより,やむを得ず転居する場合

 

15 離婚(事実婚の解消を含む。)により新たに住居を必要とする場合

 

16 高齢者,身体障害者等が扶養義務者の日常的介護を受けるため,扶養義務者の住居の近隣に転居する場合

または,双方が被保護者であって,扶養義務者が日常的介護のために高齢者,身体障害者等の住居の近隣に転居する場合

 

17 被保護者の状態等を考慮の上,適切な法定施設(グループホームや有料老人ホーム等,社会福祉各法に規定されている施設及びサービス付き高齢者向け住宅をいう。)に入居する場合であって,やむを得ない場合

 

18 犯罪等により被害を受け,又は同一世帯に属する者から暴力を受け,生命及び身体の安全の確保を図るために新たに借家等に転居する必要がある場合

  

 

大阪市 生活保護疑義照会集

(7) 低額な住居へ転居する場合の敷金支給

 

問1 課長通知第7 の30 答え2では「実施機関の指導に基づき,現在支払われている家賃又は間代よりも低額な住居に転居する場合」と示されていますが,実施機関が指導するというのはどのような場合か。

 

答1 高額家賃の住居に居住しており,家賃を支払うことにより最低生活費が確保できないような場合が代表的です。

 

 

問2 高額家賃の住居に居住している場合以外には認められないか

 

答2-1 家賃が低額になることにより,就労収入等により将来的に自立が見込まれるなど,自立更生に資することが見込まれる場合があります

 

答2-2 高齢者等であっても,家賃が低額になり,なおかつ環境が整うことで将来にわたって居宅での安定した生活が可能になるような場合があります

 

 

問3 家賃が低額になり問1,問2の条件に当てはまる場合はすべて支給してよいか

 

答3 問1,問2にあてはまる場合であっても,次の点に注意すること

① 現行家賃との差額が1割以上低額になる場合とする。

② 転居後すぐに家賃額の増額が想定される場合は認められない。

契約期間(通常2年間)は家賃の値上げがないことを確認すること

③ 転居後少なくとも2年以上は同一住居に住み続けるような将来設計がなされていること(高齢者の場合は永住可能な場所を検討する。)。

④ 再度,転居を希望する可能性があると考えられる場合は,状況を確認して申請却下すること(例:高齢でエレベーターのない高層階への転居希望など)。

⑤ 近い将来,課長問答第7の30 答にある理由での転居が想定される場合は認められない。

⑥ 転居を繰り返している場合や,現在の住居に入居して間がない場合は認められない。

 

 

 

〇福岡県知事 裁決書

                             23保援第3112号-13

 

            裁  決  書

 

                       審査請求人  ○○○○○○○○

 

                       処 分 庁  ○○○○○○○○

 

 

 上記審査請求人(以下「請求人」という。)から,平成23年12月26日付けで提起のあった上記処分庁の生活保護法(昭和25年法律第144号。以下「法」という。)に基づく扶助申請(転居の際の敷金及び移送費)却下処分(以下「本件処 分」という。)に対する審査請求(以下「本件審査請求」という。)について,次のとおり裁決します。

 

                主 文

 本件処分を取り消します

 

                理 由

第1 審査請求の趣旨及び理由

 本件審査請求の趣旨は,本件処分の取消しを求めるというもので,その理由 として請求人は,次のとおり主張しているものと解されます。

1 転居前のアパート(以下「前住居」という。)は,古くて,間取りが悪く,不自由であった。3年越しに応募していた市営住宅に当選し,家賃も3分の1に下がったのに転居を認めてもらえず,敷金が支給されなかった。

2 毎日の生活費も節約し,家電製品など買い替えができず,不自由過ぎて惨め な生活になっているため,引越し費用を支給してほしい。

 

 

第2 処分庁の弁明の趣旨及び理由

 処分庁の弁明の趣旨は,本件審査請求の棄却を求めるというもので,その理由は次のとおりです。

1 請求人は,前住居は老朽化していて居住に耐えないと主張しているが,当時の担当者が家庭訪問した際に,請求人の部屋を確認したところ,アパートは古いが,請求人がきちんと掃除を行っていることから衛生的な状態が保たれており,古くて住めない状態ではなかった。

 また,前住居は,平成22年9月6日に,請求人自身が家屋の状態を確認し転居したばかりである。

 

2 従前より低額な家賃のアパートに転居すれば,当然に敷金等を支給できるわけではない。

 平成23年8月2日に請求人と次女が処分庁へ来庁した際に,請求人より市営住宅へ転居する際の敷金及び引越し費用の請求の申し出があったが,家賃が安くなる場合であっても実施機関の指導に基づかない場合は当該費用の支給はできないことを説明し,請求人は理解を示していた。

 請求人は当該費用が認められない説明を事前に受けているにもかかわらず,処分庁の事前承認のないまま自身の判断により自費で転居を行ったものである。

 

3 また,○○○○から前住居に転居を認められた理由は,請求人の次女(以下「次女」という。)の近隣に住むことで請求人の統合失調症の病状安 定を図るという観点から必要であると判断されたものであり,前住居と次女の 住居とは700メートル程度しか離れておらず,前住居のままでも次女宅と交流を行うには十分であると考えられる。

 以上のことから,転居する正当な理由がないこと,転居に当たり,移送費を 支給する真にやむを得ない理由がないことを理由に行った本件処分に違法性は認められない。

 

 

第3 反論の趣旨

 請求人の反論の要旨は,次のとおりです。

1 平成23年8月2日に市営住宅の当選のハガキを持って処分庁へ出向き,家賃が安い市営住宅へ転居したいので,転居費用を認めて欲しいとの請求人の申 し出に対し,処分庁は,住宅費が安くなる場合の転居だからといって転居費用が出せるわけではないと説明したと弁明しているが,その説明の状況は,「いくら家賃が安くてもこちらからお願いして引っ越してもらうわけではないから,援助金は出せない。」,「親戚にお金を出してもらいなさい。Jなどと笑いながら説明され,同席した次女が怒って帰るような説明であった。

 

2 当時の担当者の家庭訪問は,平成23年1月から2月頃までであり,その後,一度も訪問はなかった。

 転居したのは,前住居が木造の平屋建てで,排水溝もすぐそばにあり,初夏には,やぶ蚊やねずみが多く,食料,衣服,紙などがかじられるため,精神的に穏やかではいられない状況であったためである。

 

 

第4 認定事実

 当庁が認定した事実は,次のとおりです。

1 平成19年6月

 請求人は,平成3年9月から行橋市において単身で生活保護を受給していた ところ,○○○○に転居し,引き続き生活保護を受給したこと。

 

2 平成21年8月20日

 請求人は,「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」(昭和25年法律第123号)第45条に規定する精神障害者保健福祉手帳2級の交付を受けたこと。 なお,同手帳は,平成25年8月31日まで更新されていること。

 

3 平成22年9月6日

 請求人は,次女宅から700メートル程度離れた前住居に転居したこと。 当該転居については,一福祉事務所が,請求人が統合失調症により通院していた病院の主治医に意見を求めたところ,次女の近隣に居住することにより精神的安定が図れるとの意見を得たため,処分庁管内へ転居することを認めたものであること。なお,前住居の家賃は30,000円であったこと。

 

4 平成23年1月6日

 処分庁は,請求人の前住居を訪問し,○○福祉事務所から請求人 の生活保護を引き継ぐための調査を行ったこと。前住居は,平屋建てで,間取りは1K(トイレ,浴室付)であったこと。また,請求人は,国民年金障害基 礎年金2級を受給していたこと。

 

5 平成23年2月1日

 処分庁は,○○福祉事務所から請求人の生活保護を引き継いだこと。

 

6 平成23年8月2日

 請求人及び次女が処分庁に来庁し,前住居より家賃の安い市営住宅(月額11,800円)へ転居するため,敷金及び引越し費用を出してほしい旨述べたこと。

 これに対し処分庁は,家賃が安くなる場合であっても実施機関の指導に基づかない転居の場合には,転居費用は認められないことを説明したこと。

 また,請求人力  から転居した時には転居費用が支給された旨述べたのに対し,処分庁は,その際は,○○福祉事務所が請求人の病状回復につながると判断し認めたものであると説明したこと。

 

7 平成23年10月5日

 請求人から10月3日に現住居への転居及び住民票の異動が完了したとの連絡があり,住宅費の認定変更を行ったこと。(30,000円から11,800円へ)

 

8 平成23年11月10日

 処分庁が転居先の請求人宅を訪問したところ,請求人から,再度,転居費用の請求の申出があったこと。 請求人は,家賃が前住居より安くなったこと,前住居は風呂桶が汚れていたり,ネズミが出たりで住める環境ではなかったため転居したのに,転居費用が支給されないことには納得がいかないと述べたこと。

 

9 平成23年11月18日

 請求人が処分庁へ来所し,転居費用についての「一時扶助申請書」(引越代52,500円,敷金35,400円)を提出したこと。

 

10 平成23年12月20日

 処分庁は,12月8日付けで行った上記申請却下通知書の表記に誤りがあったため,12月20日付けで上記申請却下取消を行い,同日付けで本件処分通知書を請求人に送付したこと。

 なお,却下理由として,「転居の必要性が認められないため。」と記載されていたこと。

 

11 平成23年12月26日

 請求人は,本件審査請求を提起したこと。

 

 

第5 審査庁の判断

1 法は,住宅扶助について,「困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対して,左に掲げる事項の範囲内において行われる。」と規定し, 左に掲げる事項として,「住居」及び「補修その他住宅の維持のために必要な もの」をあげ(法第14条),家賃等の基準額については,「生活保護法による保護の基準」(昭和38年4月1日厚生省告示第158号)において,「厚生労働大臣が別に定める額の範囲内の額とする。」とされ,平成23年度の処分庁における厚生労働大臣の定める額は,31,500円とされています。

 また,転居に伴う敷金については,「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和38年4月1日社発第246号厚生省社会局長通知。 以下「局長通知」という。)において,「被保護者が転居に際し,敷金等を必要とする場合で」,厚生労働大臣が別に定める額以内の家賃の住居に転居するときは,「必要な額を認定して差しつかえない」とされ(第7-4-(1)-カ),転居に際し敷金を必要とする場合については,「生活保護法による保護の実施要領の取り扱いについて」(昭38年4月1日社保第34号厚生省社会局保護課長通知。以下「課長通知」という。)において,「次のいずれかに該当する場合」とし,「実施機関の指導に基づき,現在支払われている家賃又は間代よりも低額な住居に転居する場合」,「老朽又は破損により居住にたえない状態になったと認められる場合」,「病気療養上著しく環境条件が悪いと認められる場合」等があげられています(第7の問30) 。

 

2 次に,法は,生活扶助について,「困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対して,左に掲げる事項の範囲内において行われる。」と規定し,左に掲げる事項の一つとして「移送」をあげています(法第12条)。 また,最低生活費については,「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和36年4月1日社発第123号厚生事務次官通知)において,月々の経常的な最低生活需要のすべてを満たすための費用として認定する経常的最低生活費と特別な需要のある者に臨時的に認定する臨時的最低生活費(一時扶助費)とに区分され,移送費は臨時的最低生活費(一時扶助費)の一つに位置付 けられています。

 さらに,移送費の一つである引越し費用については,局長通知において,「被保護者が転居する場合」で,「真に必要やむを得ないとき」に,「実施機関が事前に承認した必要最小限度の額を認定して差しつかえない。」とされています(第7-2- (7)-ア-(サ))。

 

3 本件審査請求の争点は,審査請求の理由,弁明の理由及び反論の趣旨から,請求人の転居の必要性及び処分庁の指導によらない転居の取扱いであると思料されますので,以下検討します。

(1)転居の必要性について

 請求人は,転居の理由として前住居は古くて間取りが悪く不自由で,初夏にはやぶ蚊やねずみの被害で大変であったと主張していますが,処分庁は, 認定事実の4とおり,転居後の平成23年1月6日に訪問した際,アパートは古いものの掃除も行き届き,衛生的な状態が保たれていたこと, 認定事実の3のとおり,病状の安定を図る観点から転居した前住居と次女宅との間は,700m程度しか離れておらず,前住居のままでも次女宅と交流を行うには十分であり,転居の必要性は認められないと主張しています。

 しかし, 認定事実の4の平成23年1月6日の訪問調査後,前住居への家庭訪問の事実はなく,住環境の把握ができていなかったこと, 前住居への転居に当たって,認定事実の3のとおり,福祉事務所は,請求人の病状から主治医に意見を求め,次女の近隣に居住することにより精神的安定が図れるとの意見を得たため,処分庁管内へ転居することを認めている経緯から,請求人の病状を考慮すれば,次女宅のすぐそばの市営住宅である新住居への入居が可能となった時点で,請求人の病状の安定を図る観点から病状調査を行い,転居の必要性を検討すべき理由があったものと解されます。

 これらの経過から,本件処分については,「老朽又は破損により居住にたえない状態になったと認められる場合」,「病気療養上著しく環境条件が悪いと認められる場合」等の敷金を支給できる場合に該当するか否か十分な検討が行われたと判断することはできません

 

(2)処分庁の指導によらない転居について

 転居に際し敷金等を必要とする場合として,「実施機関の指導に基づき,現在支払われている家賃又は間代よりも低額な住居に転居する場合」が規定されています(課長通知第7の問30)。 今回の転居は,民間アバートから市営住宅への転居によるもので,処分庁は,30,000円の家賃から11,800円と減額になるものの,処分庁の指導によるものではないことを理由に,敷金の支給要件に該当しないとしています。

 認定事実の6のとおり,確かに処分庁の指導によるものではないことは明らかですが, 当該規定は,家賃基準を超える住居に居住する場合を想定しているものと解され,請求人のように家賃基準額以内の住居に居住する者がさらに低額家賃に転居する場合においても,実施機関の転居指導がなかったことをもって敷金等を認めないとすることは相当ではないと思料されること, 敷金の支給を認めなければ,現状より低家賃の市営住宅への転居を処分庁が拒否した結果となることから,住宅扶助費の減額となる今回の転居に対しては,最低限度の生活の保障という法の目的に照らし,その必要性や合理性を検証し,転居の可否について検討する余地があったものと判断されます

 よって,十分な検討がなされず行われた本件処分については,不当であると判断せざるを得ません

 

 

第6 結論

 以上のとおり,本件審査請求には理由があるので行政不服審査法第40条第3項の規定に基づき,主文のとおり裁決します。

 

 

      平成25年3月21日

                       福岡県知事  小 川   洋

 

 

 

 

<生活保護と火災保険> 【問】アパートの部屋を借りるときは,火災保険には 必ず加入する義務があるのですか?

 私は 生活保護を受けていますが,現在 住んでいるアパートの家賃が,生活保護の上限額を超えているため,役所の担当者から転居指導を受け,生活保護の基準内の家賃のアパートに転居することになりました。

 しかし,新しいアパートの家賃は,以前 住んでいたアパートの家賃より安いのですが,不動産管理会社が加入を勧める火災保険の保険料がかなり高いので,その火災保険に加入するかどうか迷っています。 アパートの部屋を借りるときは,火災保険には 必ず加入する義務があるのですか。

 

 

【答】

 賃貸住宅の契約時の火災保険への加入については,法的には加入を義務付けられてはいませんが,加入しない場合は,賃貸住宅を借りることができないので,つまり,火災保険への加入が賃貸借契約の条件となっていますので,実質的には加入を義務付けられているということになります。

 また,賃貸住宅契約時に火災保険への加入を義務付けても(火災保険への加入を賃貸借契約の条件としても),保険契約の内容が借主にとって不当なものでない限り,消費者契約法には違反しないようです。

 

 しかし,不動産管理会社自身が,紹介する火災保険会社の代理店になっていることが多く,不動産管理会社は火災保険契約で儲けようとしますので(不動産管理会社は,火災保険会社から火災保険契約分の3~4割のバックマージンを受け取ることができるため),不動産管理会社が勧める火災保険の契約内容に,必要のない補償が付いていたり,多額な補償内容となっていたりして,その結果,火災保険の保険料は高額なものとなります。 そのため,必ず契約内容を確認し,契約内容が妥当なものでないときは,家財等の補償額を引き下げる内容の契約に変更すべきです。

 

 例えば,家財の価値が200万円しかないにもかかわらず,補償額が300万円の家財保険に加入したとしても,火災が起こり被害を受けた場合は,実際の家財の価値の200万円しか補償されず,差の100万円分の保険料は掛け損となります。

 

 また,必ずしも不動産会社が紹介する保険会社と契約する必要はなく(不動産会社が紹介する保険会社と契約することを義務付けることはできない。),火災保険の契約内容が賃貸借契約の条件を満たしていれば,他の保険会社との契約でも差し支えなく,補償内容の見直しによって,火災保険料をかなり下げることができます。

 

 例えば,私の賃貸住宅の火災保険(住宅総合保険)の契約内容を見ますと,家財,地震,個人賠償及び借家人賠償の4つに分かれており,それぞれに補償額を設定することができ,その補償額によって保険料が決まります。 この4つの中で,必ず加入が義務付けられるものは,借家人賠償責任特約でしょう。 この借家人賠償責任特約(補償額2,000万円で2年間の保険料は900円程度)は,借家人が誤って火事を起こし,賃貸住宅に被害を及ぼした場合は,この特約により賃貸住宅の損害を補償するものですから,家主(不動産管理会社)は,必ず加入を義務付けると思います。

 

 それに対して,家財及び個人賠償は,火災(台風や盗難等も含む)により家財に損害を受けたときや,誤って他人に被害を及ぼしたときに補償されるものですので,加入や補償額については,基本的には借家人の判断に任されるべきものです。 したがって,家財及び個人賠償については,補償額を低く抑えることができますので,火災保険料は低くなります。 家財及び個人賠償の補償額を低くしても,不動産管理会社は,それに反対することはできません。

 もし不動産管理会社が,火災保険の補償内容の見直し等に難色を示すようであれば,宅建協会や県建築指導課宅建業の免許権限者),市消費生活センターに相談してみてください。

 

 火災保険料は,生活保護の支給対象ですが,地震保険,通常,賃貸借契約において加入が義務付けられていないため,生活保護の支給対象外です。 それにもかかわらず,時々,不動産管理会社から,「火災保険と地震保険はセットであり,地震保険を切り離すことはできない。」と言われることがあります。

 この場合は,生活保護受給者の方には 火災保険料のみを支給し,地震保険料は自己負担してもらうことになりますが,その場合でも,不動産管理会社が勧める火災保険と地震保険に加入する必要はなく,他の火災保険会社の火災保険のみにすればよいだけです。

 

 火災保険について扱う業務は,保険業法上の「少額短期保険業」に該当し,火災保険の加入を求める管理会社は,「少額短期保険募集人」に該当しますので,保険業法の適用を受けますが,このことを知らない不動産管理会社の社員が多く見られます。 不動産管理会社の社員には,いい加減な人が多く,法律に詳し人は少ないので,注意してください。

 

 また,賃貸借契約の締結や更新にあたって,不動産管理会社が,家財保険の補償額が一律で,地震保険等がセットになっているような特定の火災保険に加入を義務付け,その保険に加入しないときは,賃貸借契約を締結又は更新しないとした場合は,「圧力募集」として保険業法違反となる可能性が高くなります。

 

 県民共済の火災保険料はかなり安く,民間保険会社の4~5割程度です。 ただし,県民共済の火災保険には 個人賠償責任保険が付いてないため,別途,個人賠償責任特約を付ける必要がありますが,個人賠償責任特約の保険料は安いので,個人賠償責任特約を付けておいた方がよいと思います。 個人賠償責任保険・特約は,例えば,自転車に乗っていて,通行人などの第三者にケガをさせた場合等に,被害者の治療費や慰謝料などが保険から支払われますので,別途,自転車保険に加入する必要はありません。

 

 さらに,24時間サポートサービスに加入を義務付けている不動産管理会社もありますが,これは,抱き合わせ販売として独禁法違反や 宅建業法違反となる可能性があります。

 

 また,転居に伴い前住居の火災保険(住宅総合保険)を解約した場合は,解約日の翌日から契約満了日までの期間の保険料が戻ってきますが,この解約返戻金については,生活保護の取り扱い上,8,000円を超える額が収入として認定されます

 

 最後に,知らない人が多いのですが,火災保険は 住宅総合保険であり,火災だけでなく,台風や大雨,盗難などによる損害に対しても補償されますので,台風や大雨,盗難などによって損害を受けたときは,契約内容を見て 保険会社に保険金を請求しましょう。

 

<生活保護と交通事故(続編)> 【問】交通事故に遭ったときは,相手側の保険会社との交渉は 弁護士に依頼した方がよいのですか?

 私は,自転車で走行中に 自転車同士の事故に遭い,相手はケガをせずに,私だけがケガをして,相手の人は,自転車保険に加入していました。

 この場合,「私のケガの治療費」のうち,相手側の過失割合分は,相手が加入する自転車保険から支払われ,私の過失割合分は 生活保護の医療扶助から支払われると思います。

 しかし,相手が加入する自転車保険の保険会社は,事故の状況から判断して,私の過失割合が7割であると主張しています。

 また,警察は,「物損事故でも人身事故でも,保険上の取り扱いは同じであるから,物損事故扱いでよいのではないか。」と言っています。

 

 私は,交通事故処理の素人であり,相手が加入する自転車保険の保険会社は,交通事故処理のプロであるため,相手側の保険会社との交渉を 弁護士に依頼しようと思っていますが,慰謝料を受け取ったとしても,弁護士費用を差し引くと,弁護士に依頼した方が,手元に残る慰謝料の額は少なくなるような気がします。 この件について,何かアドバイスがありましたら,お願いします。

 また,警察は,今回の事故について,物損事故扱いとすることを勧めていますが,物損事故扱いでも自転車保険の取り扱いは変わらないのでしょうか。

 

 

【答】

 あなたが,自転車保険に加入していなくても,あなたが加入している自宅の火災保険に「個人賠償責任特約」が付いている場合は,相手が事故でケガをしているときは,あなたが加入している火災保険の「個人賠償責任特約」から,相手の治療費(あなたの過失割合分)が保険金として支払われますので,双方の保険会社の間で交渉が行われます。

 しかし,今回の場合は,相手がケガをしておらず,あなたが加入している火災保険の「個人賠償責任特約」が使用されないため,相手が加入している保険会社とあなたとの間で,双方の過失割合や慰謝料の額等について,話し合いや交渉を行う必要があります。

 

 あなたが言われるとおり,あなたは 交通事故処理に関して素人であり,相手の保険会社の担当者は,交通事故処理のプロであるため,どんなにあなたが頑張って交通事故について勉強したとしても,相手の保険会社の担当者に太刀打ちすることは 相当 難しく,勉強や交渉などにも かなりの時間を割く必要があります。

 そのため,私は,ある程度 弁護士費用がかかったとしても,相手側の保険会社との交渉は,できるだけ弁護士に依頼した方がよいと思います。

 

 それに,慰謝料について,弁護士に依頼して相手の保険会社と交渉した場合は,自分で相手の保険会社と交渉した場合と比較して,慰謝料が約1.8倍~2倍に増加します。

慰謝料の基準には「① 自賠責保険基準」,「② 任意保険基準」及び「③ 裁判所基準(=弁護士基準)」の3つの基準があり,左から順に慰謝料の額が大きくなります。

 

 保険会社は,通常は,この3つの基準の中の「任意保険基準」で算定した慰謝料を被害者に提示し,弁護士に交渉を依頼しない限り,保険会社は「裁判所基準(=弁護士基準)」で算定した慰謝料を被害者に提示することはありません。 そして,「裁判所基準(=弁護士基準)」は,「任意保険基準」よりも 額が約1.8倍~2倍も大きいので,交通事故によるケガで入院・手術したときは,慰謝料も大きくなり,相手の保険会社との交渉を弁護士に依頼した方が,弁護士報酬などの弁護士費用を支払ってとしても,手元に残る慰謝料が多くなります

 

 しかし,事故によるケガが,入院・手術が必要のない軽症の場合は,慰謝料が少なくなりますので,弁護士報酬などの弁護士費用を支払った場合は,相手の保険会社との交渉を弁護士に依頼した方が,手元に残る慰謝料が少なくなる場合もあります。 このようにケガの程度や 慰謝料の額に応じて,弁護士に交渉を依頼するメリットが大きいか否かについて,十分に検討する必要があります。

 

 また,警察は,明らかに人身事故の場合であっても,被害者に対して物損事故扱いとすることを勧めてくることが多いようです。 この理由は,人身事故の場合は 現場検証等を行う必要があるなど,人身事故扱いの方が,物損事故扱いよりも警察の事務処理の手間が増えるためです。

 

 私が,ケースワーカーをしていた頃に,生活保護を受けている人が交通事故に遭い ケガをしましたが,相手がタクシー運転手で,事故慣れしているため,すべて自分に任せてほしいと言われ,加害者に警察への届出等を任せていたところ,事故発生の6か月後に,その事故が物損事故扱いになっていることが判明しました。

 そのことを知って,その生活保護受給者の方が,「俺は,モノでねえ!」と怒っていたことが,今でも記憶に残っています。

 

 とにかく警察は,「物損事故でも人身事故でも,保険上の取り扱いは同じであるから,物損事故扱いでよいのではないか。」と言ってくることが多いので,絶対に警察に対して強く何回も人身事故扱いにしてほしいと主張すべきです。

 確かに保険会社によっては,物損事故でも人身事故でも,保険上の取り扱いは同じとしている会社もありますが,保険会社によっては,物損事故と人身事故では,治療費や慰謝料の額に差を設けている会社もありますので,警察の言うことを絶対に信用してはいけません

 警察は,法律にあまり詳しくなく,本当に呆れるくらい いい加減なところです。 警察は,たとえ間違ったことを言ったとしても,絶対にそれを認めようとしません。 私は,何度も警察で そのような経験をしています。

 

 もし交通事故に遭ったら,まず法テラスに予約し,交通事故に詳しい弁護士に相談し,その指示に従うことです。 そして,あなたが,その事故により入院や手術が必要な程度のケガをしているときは(ケガが軽症でないときは),相手側の保険会社との交渉を 弁護士に任せてください。 そうすれば,あなたは,事故に関しては特に何もすることはありません。

 

<生活保護と交通事故> 【問】交通事故に遭ったときは,私のケガの治療費は 生活保護費から支給してもらえますか?

 私は,自転車で走行中に 自転車同士の事故に遭い,お互いにケガをしましたが,私も相手の人も,自転車保険に加入していませんでした。

 この場合,通常では「私のケガの治療費」のうち,相手側の過失割合分は 相手が支払い,私の過失割合分は 生活保護の医療扶助から支払われると聞きました。

 しかし,私の治療費について,相手が,相手側の過失割合分の支払能力を持ってないときは,私の治療費は,生活保護の医療扶助から支払ってもらえるのですか。

 

 また,「相手側のケガの治療費」のうち,相手側の過失割合分は,相手側が自分の国民健康保険を利用して負担することになると思いますが,私の過失割合分については,私は生活保護を受けており,支払能力がなく,相手の治療費を生活保護の医療扶助から支払ってもらえるわけではないので(相手は 生活保護を受けてないため),相手の人は,私の過失割合分の治療費についても,自分で負担しなければならないのでしょうか。

 

 

【答】

 あなたと相手の人は,お互いに自転車保険に加入していなかった とのことですが,その場合でも,お二人は 自宅の火災保険に加入していると思います。 そして,火災保険の大部分には,「個人賠償責任特約」が付いていて,自転車事故による双方のケガの治療費については,お互いの自宅の火災保険に付いている「個人賠償責任特約」から保険金として支払われます。

 

 この「個人賠償責任特約」は,自宅が持家であっても賃貸住宅であっても,火災保険の大部分には付いています(中には,「個人賠償責任特約」が付いてない火災保険があるかもしれませんが,私の経験では,その数は かなり少ないと思います。 特に賃貸住宅については,不動産管理会社が火災保険の代理店を兼ねていることが多く,受け取る火災保険料のマージンを多くするため,不動産管理会社が賃借人に加入を勧める火災保険は,必要以上に補償額が大きく,保険料も高いものが多いので,そのほとんどに「個人賠償責任特約」が付いています。)。

 

 つまり,「あなたのケガの治療費」のうち,相手側の過失割合分は,相手が加入している自宅の火災保険に付いている「個人賠償責任特約」から保険金として支払われ,あなたの過失割合分は,生活保護の医療扶助から支払われます。

 

 一方,「相手側のケガの治療費」のうち,あなたの過失割合分は,あなたが加入している自宅の火災保険に付いている「個人賠償責任特約」から保険金として支払われ,相手側の過失割合分は,相手が加入している国民健康保険又は健康保険から7割が支払われ,相手が負担する3割の自己負担分については,高額療養費制度により,一定の額を負担すればよいことになります。

 

 また,今回の自転車事故により,お互いの自転車が故障し 修理が必要なときは,その修理費については,相手側の過失割合分が,相手が加入している火災保険の「個人賠償責任特約」から保険金として支払われ,あなたの過失割合分の修理費は,あなたの自己負担になります。

 

 さらに,治療費だけでなく,「慰謝料」についても,相手側の過失割合分が,相手が加入している火災保険に付いている「個人賠償責任特約」から保険金として支払われます。

 交通事故による慰謝料については,自立更生費が認められていますので,家電製品や家具等の購入費用や,子どもの教育費などに自立更生費が認められ,慰謝料から自立更生費と8,000円が控除された額が,生活保護法第63条による返還額となります。

 

 そして,役所は,あなたのケガの治療費のうち,あなたの過失割合分を 生活保護の医療扶助から病院に支払っていますが,あなたが慰謝料をもらっていても,その慰謝料の中から あなたのケガの治療費(生活保護の医療扶助適用分)を支払う必要はありませんし,役所は,あなたに治療費の支払いを請求することはできません。

 この理由は,「個人賠償責任特約」による慰謝料の資力発生日が,自転車事故発生日ではなく,示談成立日であるため,示談成立日(=資力発生日)より前に発生した自転車事故によるケガの治療費については,「個人賠償責任特約」による慰謝料に対して,生活保護法第63条に基づく返還を求めることができないためです。

 

 つまり,生活保護法第63条は,資力があっても,それがすぐには現金化することができず,生活費や医療費等に困窮している場合に 生活保護費を支給し,資力が現金化されたときに,資力発生日から資力現金化までの間に支給された生活保護費(医療費を含む)の範囲内で,生活保護費(医療費を含む)の返還を求めるものですから,当然のことながら,「個人賠償責任特約」による慰謝料の資力発生日(=示談成立日より前に発生した自転車事故によるケガの治療費については,生活保護法第63条により返還を求めることができないということになります。

 

 もっとも,「個人賠償責任特約」による慰謝料の資力発生日は 示談成立日ですから,慰謝料を受領したときは,上記のとおり,慰謝料の示談成立日(=資力発生日)以降に支給された生活保護費の範囲内で,慰謝料から自立更生費と8,000円を控除した額について,生活保護法第63条により返還を求められることになります(なお,自動車事故の場合は,自賠責保険の資力発生日は 交通事故発生日で,自動車任意保険の資力発生日は 示談成立日とされています。)。

 

 この「個人賠償責任特約」は,補償額の上限が1億円の場合が多いので,仮に事故で入院・手術が必要であったとしても,通常,保険の補償額の範囲内に収まります。 自宅の火災保険に「個人賠償責任特約」が付いていることを知らない人が多く,また,「個人賠償責任特約」が付いていても,自転車事故に適用されることを知らない人が多いようです。

 

 仮に あなたが自転車保険に加入していたとしても,相手のケガに対する補償は,「自転車保険」又は 火災保険に付いている「個人賠償責任特約」のどちらか一方から行われますので,自宅の火災保険に「個人賠償責任特約」付いている場合は,自転車保険には加入しなくても差し支えないと思います。

 しかし,自転車保険には,「個人賠償責任保険」だけでなく,入院給付金や死亡保険金なども付いていますので,それらを希望する人は 加入してもよいと思いますが,自転車保険という形ではなく,入院給付金や死亡保険金などを目的とした生命保険や傷害保険に 別途加入するという方法でもよいのではないでしょうか。

 

 そこで,まず,あなたが加入している自宅の火災保険に「個人賠償責任特約」が付いているかどうかを確認してください。 「個人賠償責任特約」の補償内容は,保険会社や契約内容などによって異なりますので,火災保険に「個人賠償責任特約」が付いている場合は,その補償内容等を すぐに確認してください。

 

 最後に,今回の事例では,相手の人が加入している自宅の火災保険に「個人賠償責任特約」が付いていましたが,仮に その火災保険に「個人賠償責任特約」が付いておらず,相手に治療費の支払能力がないときは,あなたのケガの治療費は,生活保護の医療扶助から支払ってもらえます。

 

 役所が あなたの治療費を支払う代わりに,役所が 生活保護法第76条の2の「第三者行為求償権」を取得し,その「第三者行為求償権」に基づき,あなたに代わって,相手にあなたの治療費の支払いを求めることになります。

 しかし,相手が治療費の支払能力がなく,差し押さえるべき資産も保有してないときは,役所は,相手に支払いを求めることを 諦めざるを得ないと思われます。

 

 

(参考)

生活保護

(費用返還義務)

第63条 被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない

 

(損害賠償請求権)

第76条の2 都道府県又は市町村は、被保護者の医療扶助又は介護扶助を受けた事由 が第三者の行為によって生じたときは、その支弁した保護費の限度において、被保護者が当該第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する

 

 

生活保護手帳・別冊問答集

問13-6 費用返還と資力の発生時点

(問)

 次の場合,法第63条に基づく費用返還請求の対象となる資力の発生時点は,いつと考えるべきか。

(1)~(2) (略)

(3)自動車事故等の被害により補償金,保険金等を受領した場合

 

(答)

(1)~(2) (略)

(3)自動車事故等第三者の加害行為により被害にあった場合,加害行為の発生時点から被害者は損害賠償請求権を有することとなるので,原則として,加害行為の発生時点で資力の発生があったものと取り扱うこととなる。

 しかしながら,ここにいう損害賠償請求権は単なる可能性のようなものでは足りず,それが客観的に確実性を有するに至ったと判断される時点とすることが適当である。

 自動車事故の場合は,保険の種類や保障内容により異なるが,自賠責保険,事故発生により被害者に対して自動車損害賠償保障法により保険金(強制保険)が支払われることが確実なため,事故発生の時点を資力の発生時点としてとらえることになり,後遺障害,死亡に対する保険金については,給付事由が発生したことにより当然に受領できるものであるため,それぞれ障害認定日,死亡日を資力の発生日ととらえることとなる。

 また,任意保険については,示談交渉による保障の内容,金額の確定後に請求できることとなるため,示談成立日を資力の発生時点としてとらえることとなる。

 これに対し,公害による被害者の損害賠償請求等の場合は,請求時点では,加害行為の有無等不法行為成立の要件の有顛が明らかではなく,事後的にこれに関する判決が確定し,又は和解が成立した時点ではじめて損害賠償請求権が客観的に確実性を有することになるので,交通事故の場合とは資力の発生時点を異にすることになる。

 

<生活保護とエアコン> 【問】転居の際に,エアコン購入費は 支給してもらえるのですか?

 私は,生活保護の基準額を上回る家賃のアパートに住んでいるため,役所の担当者の転居指導により,今回,生活保護の基準額内の家賃のアパートに転居することになりました。

 しかし,以前のアパートにはエアコンが付いていましたが,家賃が安いためか,新しいアパートにはエアコンが付いていません。 エアコンは安いものでも6万円以上はしますが,エアコン購入費は,役所から支給してもらえますか。

 

【答】

 あなたは,役所から生活保護費の家具什器費として,エアコン購入費を支給してもらえます。

 ただし,令和5年度の上限額は 62,000円で,購入費が62,000円を超えたときは,62,000円を超えた分は 自己負担になります。 また,エアコンの設置費用が必要なときは,設置費用は別途 支給してもらえます

 

 アパートなどにエアコンが付いてないときは,以前は,生活保護費をやり繰りしてエアコンを購入する必要がありましたが,数年前から熱中症で入院したり,亡くなったりする人が増加したため,平成30年4月から,アパートなどにエアコンが付いてないときは,生活保護費の家具什器費として,エアコン購入費を支給してもらえるようになりました。

 ただし,エアコン購入費には支給条件があり,生活保護の新規開始時に家にエアコンが付いてないか,エアコンが付いていても故障して使用できない場合や,長期入院している単身者が,退院しアパートを借りる際に,そのアパートにエアコンが付いてない場合などが支給の条件となります(詳しくは,下記の「参考」を参照してください。)。

 

 あなたの場合は,以前のアパートにはエアコンが付いていて,新しいアパートにはエアコンが付いていませんので,エアコン購入費の支給条件の転居の場合であって,新旧住居の設備の相異により,現に所有している最低生活に直接必要な家具什器を使用することができず,最低生活に直接必要な家具什器を補填しなければならない事情が認められるとき」に該当するため,エアコン購入費を支給してもらえます。

 つまり,以前のアパートにはエアコンが付いていて,新しいアパートにはエアコンが付いている場合は,新旧住居の設備が相異している場合に該当するとされています’。

 

 しかし,家主が部屋にエアコンを付けている場合は,エアコンが故障したときは,家主からエアコンを修理してもらえますが,自分でエアコンを購入し設置している場合(役所から家具什器費として エアコン購入費を支給されている場合を含む。)は,エアコンが故障したときは,その修理費や購入費は,役所から生活保護費として支給してもらえないので,生活保護費をやり繰りして 自分で修理費や購入費を捻出する必要があります。

 

 また、家族がたくさんいて,部屋数が多くても,どこかの部屋にエアコンが1台でも設置されているときは,エアコン購入費は支給できない とされていますので,注意してください。

 

 

(参考)

〇局長通知 第7-2

 (6) 家具什器費(上限額は令和5年度)

  ア 炊事用具,食器等の家具什器

 被保護世帯が次の(ア)から(オ)までのいずれかの場合に該当し,次官通知第7に定めるところによって判断した結果,炊事用具,食器等の家具什器を必要とする状態にあると認められるときは,32,300円の範囲内において特別基準の設定があったものとして家具什器(イ及びウを除く。)を支給して差し支えないこと。

 なお,真にやむを得ない事情により,この額により難いと認められるときは,51,500の範囲内において,特別基準の設定があったものとして家具什器(イ及びウを除く。)を支給して差し支えないこと。

 

 (ア)保護開始時において,最低生活に直接必要な家具什器の持合せがないとき。

 

 (イ)単身の被保護世帯であり,当該単身者が長期入院・入所後に退院・退所し,新たに単身で居住を始める場合において,最低生活に直接必要な家具什器の持合せがないとき。

 

 (ウ)災害にあい,災害救助法第4条の救助が行われない場合において,当該地方公共団体等の救護をもってしては,災害により失った最低生活に直接必要な家具什器をまかなうことができないとき。

 

 (エ)転居の場合であって,新旧住居の設備の相異により,現に所有している最低生活に直接必要な家具什器を使用することができず,最低生活に直接必要な家具什器を補填しなければならない事情が認められるとき。

 

 (オ)犯罪等により被害を受け,又は同一世帯に属する者から暴力を受け,生命及び身体の安全の確保を図るために新たに借家等に転居する場合において,最低生活に直接必要な家具什器の持合せがないとき。

 

 イ 暖房器具  (略)

 

 ウ 冷房器具

 被保護世帯がアの(ア)から(オ)までのいずれかに該当し,当該被保護世帯に属する被保護者に熱中症予防が特に必要とされる者がいる場合であって,それ以降,初めて到来する熱中症予防が必要となる時期を迎えるに当たり,最低生活に直接必要な冷房器具の持ち合わせがなく,真にやむを得ないと実施機関が認めたときは,冷房器具の購入に要する費用について,62,000円の範囲内において,特別基準の設定があったものとして必要な額を認定して差し支えないこと

 

 エ 支給方法

 アからウまでの場合においては,収入充当順位にかかわりなく,現物給付の方法によること。 ただし,現物給付の方法によることが適当でないと認められるときは,金銭給付の方法によっても差し支えないこと。

 なお,これらの家具什器の購入に際して設置費用が別途必要な場合であって,真にやむを得ないと実施機関が認めたときは,アからウまでとは別に特別基準の設定があったものとして,当該家具什器の設置に必要な最小限度の額を設定して差し支えないこと。

 

 

○東京都生活保護運用事例集

 (問6-36-3) 家具什器費(冷房器具)の認定基準

(問)

 保護開始時において,最低生活に直接必要な家具什器の持ち合わせがない場合等であって,最低生活に直接必要な冷房器具の持ち合わせがなく,真にやむを得ないと実施機関が認めたときは,冷房器具の購入に要する費用を支給できることとなっているが,その際の認定基準等について示されたい。

 

(答) 

1 冷房器具の認定基準

 平成30年4月1日以降に問6-36の2のいずれかに該当する場合であって,当該被保護世帯に属する被保護者に熱中症予防が特に必要とされる者がいる場合であって,それ以降,初めて到来する熱中症予防が必要となる時期を迎えるに当たり,最低生活に直接必要な冷房器具の持ち合わせがないときは,冷房器具の購入に要する費用を支給できる。

 なお,転居等に際して,前住居に冷房器具が備え付けられており,転居先にはなかった場合は支給対象となるが,前住居にエアコン等の冷房器具の備え付けがなかった場合は,新旧住居の設備の相違がないため,転居先で冷房器具購入費は支給できない

 また,経年劣化による冷房器具の買い替えは支給対象とはならない

 

2 設置費用について

 冷房器具の購入に際して設置費用が別途必要な場合であって,真にやむを得ないと実施機関が認めたときは,特別基準の設定があったものとして,当該家具什器の設置に必要な最小限度の額を設定して差し支えない。

 なお,購入するにあたって設置費が必要な場合のみ支給対象となり,設置費のみは支給対象とはならない。

 

3 冷暖房器具の支給する場合について

 「冷房器具」の支給に当たっても,冷房機能に加えて,暖房機能を有する器具の購入を認めて差し支えない。

 なお,冷房器具と暖房器具のいずれも所持していない「熱中症予防が特に必要とされる者」がいる世帯については,両方の機能を有するものを購入するよう勧奨されたい。

 

(参考)

  局長通知第7-2-(6)-ウ,局長通知第7-2-(6)-エ,課長問答第7の99,

  別冊問答集 問7-43~44,別冊問答集 問7-43~44,

  平成30年7月18日付 東京都保護課長事務連絡