生活保護の審査請求をしよう

生活保護の質問に答えます。役所の決定に疑問があったら、生活保護の審査請求をしましょう。

<生活保護と交通事故(続々編:過失割合と保険金)> 【問】交通事故に遭ったとき,自賠責保険や任意保険から支払われ治療費や慰謝料の額は,どのように算定されるのですか。

 私は 生活保護を受けていますが,先日,交通事故に遭いました。

 そこで,過失割合によって,自賠責保険や任意保険から支払われ治療費や慰謝料の額が変わると聞きましたが,自賠責保険や任意保険から支払われ治療費や慰謝料の額は,どのように算定されるのか,教えてください。

 

【答】

 被保護者が交通事故の被害者になったときは,法テラスに相談し,弁護士に 加害者側の保険会社との交渉を依頼した方がよい場合が多いと思いますが, 損害額が小さく,弁護士報酬を支払うと,慰謝料がほとんど残らなかったり,マイナスになったりして,弁護士に依頼することが難しい場合もありますので,ある程度 交通事故に係る知識が必要になります。

 

 まず自賠責保険について説明します。

 自賠責保険は 法律によって,自動車,バイク,原付を使用する際に強制的に加入が義務づけられている損害保険(強制加入)で,賠償金の上限額は,傷害のときは120万円,死亡のときは3,000万円,重度の後遺障害のとき4,000万円となっています。

 自賠責保険契約に未加入,又は 有効期限切れで車を運行しますと,1年以下の懲役 又は 50万円以下の罰金に処せられることになります。

 

 次に,自賠責保険は,自動車事故により死傷した被害者の保護救済を図ることを目的としていますので,「人身事故」のみ適用され,物損事故には適用されません

 

 また,自賠責保険では,過失の大小に関わらず,ケガをした人や死亡した人被害者」となります。 例えば,交差点での右折車Aと直進車Bの事故で,Aがケガを負い過失割合が A:B=6:4となっても,自賠責上ではAが被害者,Bが加害者となります。

 

 任意保険の場合,被害者に過失があった場合は厳格に過失相殺が行われますが,自賠責保険では過失相殺は行われません。 例えば,交差点での右折車Aと直進車Bの事故で,Aがケガを負い,過失割合がA:B=6:4,損害額は100万円の場合は,自賠責保険の限度額内(120万円)については,過失相殺されることなく,AはBの自賠責保険から100万円を受け取ることができます。

 ただし,被害者に重大な過失(7割以上の過失)があった場合は,支払限度額の120万円から2割減額され,自賠責保険金の支払上限額は 96万円になり,これを重過失減額といいます。

 以上が自賠責保険についての説明です。

 

 次に,自賠責保険と任意保険の関係」については,書籍やインターネットに具体的に書かれており,私が読んだ本やインターネットの説明の中で 分かりやすいものがあり,私が説明するよりも,それを読んでいただいた方が 理解しやすいと思いますので,その内容を2つ紹介します。

 

 なお,8月21日のこのブログ(生活保護と交通事故(続編))で書いたとおり,交通事故の慰謝料の基準には,「① 自賠責保険基準」,「② 任意保険基準」,「③ 裁判所基準(=弁護士基準)」の3つの基準があり,「③ 裁判所基準(=弁護士基準)」は,「② 任意保険基準」よりも,慰謝料の額が約1.8倍~2倍に増加しますので,交通事故で入院・手術が必要なケガをしたときは,法テラスに相談し,弁護士に 相手側の保険会社との交渉を依頼した方がよいと思います。

 

 

(参考)

○「交通事故の損害賠償と解決」(抜粋)

   (著者:薄金孝太郎、出版社:新星出版社)

 自賠責保険と任意保険では,過失相殺適用の範囲が違います。 交通事故で被害者側に支払われる保険は,まず自賠責保険から支払われ,それでも損害賠償金が不足する場合に,任意保険によってその不足分を補填する形で支払われることになっています。

 

自賠責で適用がなくても任意保険では厳しくなる

 自賠責保険の支払いでは,被害者側に過失相殺の適用がないような事案であっても,任意保険の支払いに際しては,個別具体的に詳細な過失割合が決められており,保険会社ではこの被害者側の過失責任を厳しく指摘し,減額を主張してきます。

 具体例を挙げてみましょう。

 

【具体例】損害賠償請求額 200万円の場合

 交通事故でAさんが負傷して,治療費,通院交通費,休業損害などの損害賠償請求額が200万円だったとします。

 

(1)過失割合 0%の場合

 自賠責保険から傷害事故の上限である120万円の保険金が支払われ,その後,任意保険から不足分の80万円が支払われます。

 

(2)過失割合 10%の場合

 自賠責保険が先に支払われます。 自賠責保険上では,10%の過失責任では,被害者に重大な過失があったとはみなされず,自賠責保険から満額の120万円が支払われます。 しかし,任保険を支払う保険会社では,200万円の損害額のうち,Aさんの過失割合10%を減額します。

 200万円×(1-0.1)=180万円。 この過失相殺後の180万円から自賠責保険で支払われた120万円を差し引いた60万円(=180万円-120万円)が任意保険から支払われる金額となります。

 

(3)過失割合 70%の場合

 自賠責保険から先に支払われますが,70%の過失責任では,自賠責保険上も被害者に重大な過失があったとみなされ,傷害事故に対する一定の減額率である20%が減額されます(120万円の80%で96万円)。

 自賠責保険では,損害額が200万円の場合,自賠責保険の上限の120万円より高いので,保険金額を基準に120万円×(1-0.2)=96万円が損害額として算定され,自賠責保険から96万円が支払われます。

 

 次に,任意保険の方ですが,任意保険を支払う保険会社で,過失責任の70%を先に減額します。 200 万円×(1-0.7)=60万円。 この過失相殺後の60万円から,自賠責保険で支払われた96万円を差し引きます。

 60万円-96万円=△36万円(保険金の払い過ぎ)となりますので,保険会社では,任意保険の支払いを拒否することになります。

 

 例えば,(3)の例で,損害額が100万円であった場合には,自賠責保険の上限の120万円より低いので,100万円の20%を減額した80万円自賠責保険で支払われます。 この場合にも70%を過失相殺すると,100 万円×(1-0.7)=30万円となり,やはり保険金の過払いとなるので,任意保険の支払いはありません。

 

 このように,保険会社の算定では,被害者側の過失相殺を適用して滅額し,その支払われ険金額を差し引き,その残りがあれば,任意保険から支払いが行われますが,その残額がなければ支払いはありません。

 また,自賠責保険では満額が支払われた場合でも,任意保険の支払いでは,過失割合が厳しく査定され,大幅に減額されたり,全く支払われないこともあります。

 

 

 

〇全損害額150万円だが過失割合が50%ある場合の支払額は? (出典:「交通事故サポートセンター」)

 

【問】

 後遺障害はなかったが,損害額が治療費70万円,休業損害20万円,通院慰謝料60万円の合計150万円だった。  自分の過失が50%あるが,相手側保険会社からの支払いはいくらか?  150万円?  120万円?  75万円?

  

【答】

 傷害事件(事故)で被害者と加害者が示談金の話し合いをする場合に,双方に過失があるようなとき,加害者から支払われる賠償金額は過失相殺されて,「加害者の過失分」のみが支払われます。

 

 過失が50%ある被害者の全損害額が150万円だった場合,普通に考えれば,50%を過失相殺されて75万円しか支払われません。 ですが,交通事故(自動車事故)の場合は自賠責保険があり,「任意保険会社は,自賠責保険から支払われる金額を下回って支払いをしてはならない」ことになっています。

 

 自賠責保険では,被害者の過失が7割以上ある場合でないと,支払額の減額はされません7割以上の過失があると,20%減額され,支払額の上限額は96万円(120万円×80%)になります。)。

 ですから,「被害者の損害額が150万円で過失が50%だった場合,加害者が支払うべき損害賠償責任は75万円ですが,自賠責保険から120万円支払われますので,結果的に支払われる金額は120万円となります。 「過失相殺(7割未満)後の金額が120万円を下回る場合は,120万円(上限)が支払われる」ということです。

 

 150万円の損害で過失割合は50%でしたが,受取額は120万円だったので,結果的に20%減(自分の過失20%と同じ)ということになります。

 

 ですが,被害者にとって重要なことは,その内訳です。

 本来であれば,75万円となってしまうところ,自賠責があったので120万円出ましたが,実は,そのうち 70万円は治療費で使われてしまっています。

 

 被害者に過失が半分あるからといって,病院が治療費の支払いを免除してくれるわけではないのです。 つまり,120万円のうち,休業損害や慰謝料として被害者自身が受け取るのは,治療費を差し引いた残りの50万円です。

 相殺前の損害額は,休業損害20万円と慰謝料60万円の合計80万円だったのが,50万円(80万円に対して62.5% = 自分の過失37.5%と同じ)になってしまいました。

 このようなことですから,自分に過失が多い場合には,治療費を圧縮するために健康保険を使うことを検討しましょう。

 

 なお,損害額150万円,過失50%の場合,自賠責の120万円を超える部分の「30万円」に対してのみ過失50%がかかり15万円減額され,合計は15万円+120万円の135万円が支払われるのではないかと考える人もいるようですが,現実にはこのような支払われ方はされません。 過失相殺は 損害額全額に対してかかってくるものです。