<生活保護の申請> 【問】生活保護を申請したくても,役所で生活保護の申請書を渡してもらえないときは,どうすればよいのですか?
役所の保護課に生活保護の相談・申請に行きましたが,担当者が,いろいろな理由をつけて,生活保護の申請書の様式を渡してくれませんでした。 どうすればよいのですか。
【答】
生活保護の申請については,厚生労働省が,「生活保護手帳・別冊問答集」問第9の1で,「保護に該当しないことが明らかな場合であっても,申請権を有する者から申請の意思が表明された場合には申請書を交付すること。」と記載していますので,申請の意思があるにもかかわらず,申請書等の様式を渡さないなどの申請権を阻害するような行為は行ってはならないこととされています。
以前,北九州市などの複数の市町村で,申請書の様式を渡さなかったり,申請書を受理しなかったりして(これは,「水際作戦」と呼ばれていました。),生活保護相談者が餓死した事件がありましたが,これらの事件が社会問題になり,厚生労働省も,生活保護の申請権を阻害することのないようにという通知を出していますので,そのようなことは,以前に比べて少なくなったとは思いますが,未だに上記のような対応を行っている市町村が見られます。
したがって,担当者が申請書の様式を渡さない場合は,「生活保護手帳」や「生活保護手帳・別冊問答集」の下記の記載内容を示し,それでも担当者が申請書の様式を渡さないときは,生活保護の申請は非要式行為であるため,その役所が定めた申請書の様式ではなく,普通の用紙に,「住所,氏名,生年月日,電話番号,生活保護の開始を申請すること」を記載し,役所に提出すればよいこととされています。
それでも,役所が申請書を受理しない場合は,担当者との会話を録音し,苦情相談窓口に相談したり,書留郵便で役所に生活保護申請書を郵送したり,法テラスや各地の生活保護支援ネットワークなどの生活困窮者支援団体に相談し,支援者や弁護士,司法書士などに役所に同行してもらいましょう。
(参考)
生活保護手帳
問(第9の1)
生活保護の面接相談においては,保護の申請意思はいかなる場合にも確認しなくてはならないのか。
答
相談者の保護の申請意思は,例えば,多額の預貯金を保有していることが確認されるなど生活保護に該当しないことが明らかな場合や,相談者が要保護者の知人であるなど保護の申請権を有していない場合等を除き確認すべきものである。
なお,保護に該当しないことが明らかな場合であっても,申請権を有する者から申請の意思が表明された場合には申請書を交付すること。
問(第9の2)
相談段階で扶養義務者の状況や援助の可能性について聴取することは申請権の侵害に当たるか。
答
扶養義務者の状況や援助の可能性について聴取すること自体は申請権の侵害に当たるものではないが,「扶養義務者と相談してからではないと申請を受け付けない」などの対応は申請権の侵害に当たるおそれがある。
また,相談者に対して扶養が保護の要件であるかのごとく説明を行い,その結果,保護の申請を諦めさせるようなことがあれば,これも申請権の侵害にあたるおそれがあるので留意されたい。
生活保護手帳・別冊問答集
‥‥‥‥ 本人の申請権を侵害してはならないことはいうまでもなく,申請権が侵害されていると疑われるような行為も厳に慎むべきことに十分留意する必要がある。
‥‥‥‥ いかなる場合においても,本人から保護申請の意思が表明された場合には,速やかに申請書を交付するなどの対応が必要である。
問9-1 口頭による保護の申請
(問)
生活保護の申請を口頭で行うことは認められるか。
(答)
生活保護の開始申請は,必ず定められた方法により行わなくてはならないというような要式行為ではなく,非要式行為であるとされている。 法第24 条第1項においては「保護の開始を申請する者は,‥‥(中略)‥‥ 申請書を保護の実施機関に提出して行わなければならない。 ただし,当該申請書を作成することができない特別の事情があるときは,この限りでない。」と規定しており,当該規定も書面による申請を保護の要件としているものではないと考えられる。 したがって,申請は必ずしも書面により行わなければならないとするものではなく,口頭による開始申請も認められる余地があるものといえる。
一方で,法第24 条第3項は「保護の実施横関は,保護の開始の申請があったときは,保護の安否,種類,程度及び方法を決定し,申請者に対して書面をもって,これを通知しなければならない」としているなど,保護の申請は実施機関側に一定の義務を課すものとなっている。
確かに前記のとおり,申請書の提出自体は保護の要件ではなく,一般論としては口頭による保護申請を認める余地があるものと考えられるが,保護の決定事務処理関係や,保護申請の意思や申請の時期を明らかにする必要があることからも,単に申請者が申請する意思を有していたというのみでは足らず,申請者によって,申請の意思を明確に表示することにより,保護申請が行われたかどうを客観的に見ても明らかにしておく必要がある。
したがって,口頭による保護申請については,申請を口頭で行うことを特に明示して行うなど,申請意思が客観的に明確でなければ,申請行為と認めることは困難である。 実施機関としては,そのような申し出があった場合には,あらためて書面で提出することを求めたり,申請者の状況から書面での提出が困難な場合等には,実施機関側で必要事項を聴き取り,書面に記載したうえで,その内容を本人に説明し署名捺印を求めるなど,申請行為があったことを明らかにするための対応を行う必要がある。
なお,申請にあたって提出された書類に必要事項さえ記載されていれば,たとえそれが定められた申請書によって行われたものでなくても,有効となるので留意が必要である。