生活保護の審査請求をしよう

生活保護の質問に答えます。役所の決定に疑問があったら、生活保護の審査請求をしましょう。

<生活保護と保護費の引き下げ> 【問】生活保護費は,今後も 引き下げられるのですか?

 生活保護費が 今まで度々引き下げられ,生活が苦しくなっていますが,今後も,生活保護費は,引き下げられていくのでしょうか。

 

答】

 生活保護の基準生活費は,平成25年8月から平成27年8月にかけて3年間で 10%を上限に引き下げられ,さらに,平成30年10月から令和2年10月にかけて3年間で 5%を上限に引き下げられたので,平成25年8月以降,約15%を上限として引き下げられたことになります。

 このように,生活保護費が引き下げられる理由は,現在の生活保護費の基準額の算定方法にあります。

 生活保護費の基準額の算定方法については,過去,マーケット・バスケット方式,エンゲル方式,格差縮小方式,水準均衡方式などの様々な方法が採られてきましたが,現在の算定方法は,水準均衡方式であり,生活保護の基準額と消費支出が最も低い10%の世帯の支出額と比較するという方法です。

 

 我が国の生活保護の捕捉率生活保護基準以下の収入しかない世帯のうち,実際に生活保護を受けている世帯の割合)については,2~3割程度と言われています。 つまり,生活保護基準以下の収入しかないにかかわらず,7~8割の世帯が,生活保護基準以下の収入で生活していることになります。

 この理由は,生活保護を受けていることが,近所の人や親戚に知られることが恥ずかしい(恥の文化),生活保護を申請すると,親族に扶養照会されるので,親族に生活保護を申請していることや,生活保護を受けていること を知られたくないなどの理由により,生活保護を受けずに,生活保護基準額以下の収入で,我慢している生活している人が多いためです。

 

 他の先進諸国では,生活保護の捕捉は,7~8割程度と言われており,我が国の生活保護捕捉率 2~3割程度というのは,他の先進諸国と比較して,異常に低いものです。

 我が国では,特に農村部や漁村部などでは,近所の人の目を気にして,生活保護の基準以下の収入しかないにも関わらず,生活保護を受けない人が多い状況です。

 

 生活保護の基準額については,5年毎に見直しが行われますが,生活保護の基準額と消費支出が最も低い10%の世帯の支出額とを比較するという現行の算定方法では,消費支出が最も低い10%の世帯の中には,生活保護基準以下の収入で生活している世帯が多数含まれるため,当然のことながら,生活保護の基準額の方が,消費支出が最も低い10%の世帯の支出額よりも大きくなりますので,この算定方法を用いる限り,生活保護費の基準額は,今後も引き下げられていくことになります。

 

 そのため,この算定方法に対しては,学者や弁護士,生活保護の支援団体等からの批判が強く,特に平成25年8月からの生活保護の基準生活費の引下げ処分に対して,全国29の地域で取消訴訟が提起され,そのうち現在まで, 21の地裁で判決が出されており,原告勝訴が11件、原告敗訴が10件となっています。

 裁判所は,生活保護の基準額については,従来から国(厚生労働省)の裁量権を広く認めていますので,21件の地裁判決のうち,原告勝訴判決が11件というのは非常に珍しいものです。

 これは,平成25年8月からの生活保護の基準生活費の引下げ処分については,自民党の「生活保護基準額10%引下げ」という選挙公約に忖度して実施されたものと言われており,生活保護基準額の算定の基礎となる物価の基準年次の選定が恣意的であるなど,算定方法に対して,学者や弁護士,生活保護の支援団体等からの強い批判があります。

 しかしながら,大阪地裁では原告勝訴であったにもかかわらず,大阪高裁では,原告が逆転敗訴となっています。

 裁判所は,原告勝訴という判決が出た場合は,全国に与える影響が大きいため,残念ながら,仮に地裁で原告が勝訴しても,高裁や最高裁で覆る可能性が高いと思われます。